22-4目指せ正社員
「それじゃ、面接を始めるわ。そこに掛けて頂戴。」
着席を勧められる。
「は、はいっ!」
「それじゃ、当社を志望した理由を教えて下さい。」
想像以上に普通に面接だ。しかし直球過ぎて逆に返答に困る。
「はいっ。私が…」
そう言いかけた瞬間。ズンッという音が天井より響いた。二階の床に何かが叩きつけられたようだった。
女性は指揮棒の様な杖を取り出しながら
「ごめんなさいね、うちの馬鹿共がちょっと騒いでるみたい。
『遮音壁』
うん、これで聞こえる事も聞かれる事も無いわ。」
便利な魔法だな…。
気を取り直し、面接が再開される。
その後も拍子抜けするぐらい元の世界と変わらない面接内容だった。
決して悪くない感触だったと思う。
「実はね、今までの質問は殆ど意味なんて無いわ。」
突然の告白に固まった。
え?今何と?
「えーと、意味が無いと言われますと…?」
「そのまんまよ。ただ、ここからが本当に聞きたい事。」
その言葉に身構える。
「あ、固くならなくて良いわ。今まで通り自然体で答えて頂戴。」
とは言われても緊張はしてしまう。
「それじゃ一つめ。」
ゴクリと唾を飲み込む。
「アティちゃんは運命って信じる?」
何と言うか、不思議な質問だが答えは決まってる。
「いいえ。」
「あら、何で?」
「運命に縛られず自由に生きたいからです。」
理由の方は適当だが、実際俺に運命なんてない。俺に対しては何とも滑稽な質問だ。
「ふぅーん。じゃあ、二つめ。アティちゃんは…、神や、悪魔って信じる?」
運命、神、悪魔。そんな単語が嫌な様に繋がる。
俺は答えられずにいた。
答えを待つこと無く、次の質問が開始される。
「最後の質問よ。ねぇ、アティちゃん。貴女は『何』?」
瞬間、本能的に後ろに飛びのいた。
ゾワッと寒気がした。
何者かではなく何かという質問。間違いない。コイツは俺の何かを知っている。
「その反応は今の質問に対する回答ととって良いかしら?」
「貴女こそ…、何なんですか?」
「そうね、貴女の様子を見るかぎり正体を明かしても問題なさそうね。」
その言葉と同時に悪意というべきかとにかく嫌な気配が膨れ上がり、生暖かな風となり、頬を撫でた。
姿を現したのは片翼の悪魔。顔や姿は大きな変化は無いが、左にのみ生えたその身に対し、巨大なコウモリの様な翼は、その姿を見るものに畏怖の念を抱かせる。
「貴女も姿を現したらどう?あと二段階くらい変身残してないの?」
変身なんてしてたまるか。
「私はただの人間ですよ。変身なんてしませんよ。」
「だったら、何で貴女は運命を持って無いのかしら?そんな『ただの』人間聞いた事無いわよ?」
やっぱりどうにかして俺が運命を持っていない事が分かっているようだ。
「お話しましょうか?」
「ぜひお願いしたいところだけど、素直に話してくれるのかしら?」
抵抗してもやはり無駄だろう。
「えぇ、私にとって語るも涙の話をお聞かせいたしましょう。」
「あら、面白そうね。」
元の世界の事から今に至る経緯、その全てを話した。
話していると自分ながら情けなくなるような話だった。もちろん話している間も警戒は怠らない。
「あー、あなた男の子だったのね…。」
「そうなんですよ…。別に自分自身が美少女でも嬉しくないし、むしろ男としての自信を失うし…。」
何だかんだ言って話し終えた時には打ち解けていた。
そんな気がしていた。
「でも、神力を取り入れたという事はあなたは敵なのね…。」
反応も出来ぬうちに喉元に突き立てられた手。多分コイツは次の瞬間にでも手刀で喉を掻き切れるだろう。
分かりあえる筈が無かったのだ。
「何と言うか拍子抜けね…。はぁ…、あなた程度いつでも殺せるし、見逃してあげるわ。」
見逃してもらえるなら大人しく従おう。
そそくさと退こうとした時だった。
「あ、やっぱり気が変わったわ。」
ゾクッとした。殺される…?
「あぁ、別に危害加える気は無いから安心して。」
そうは言われても身の強張りは簡単には解けない。
「さっきの面接は、合格。という事で仲間にならない?」
「断ったら…?」
「別にどうもしないわよ。無理強いして仲間に加えても意味無いし、今すぐ殺す必要も無さそうだしね。」
どうするべきなのだろう…?
頭の中で色々な考えが駆け巡る。
スッと差し延べられた手。
俺はこの手を…。