22-1目指せ正社員
多くの人々が行き来する街道。賑やかな人々の声。
その中に俺は一人ポツンと佇んでいた。周りに人はいるのに不思議と孤独を感じる。
傍らには誰もいない。
…はぐれたな。
手を繋ぐ必要なんて無いと思っていた。
人混みの中ストラドさんを見失いそうになることが幾度となく、そしてついにはぐれてしまい今に至る。
こんな事なら一時の恥くらいかなぐり捨てて素直に手を繋ぐなり、大人しく背負ってもらっていた方が良かった。
ストラドさんは俺を探しているのだろうか…?
必死に探しているならあまり心配をかけたくない。
しかし、もし俺がいなくなって清々しているなら…?事実俺はストラドさんにだいぶ迷惑をかけている。俺なんかいなくなっても構わないのではないだろうか?
一度ネガティブな方向に考え出すと止まらなくなる。
これではいかんと思考を前向きに持ち直す。
うん、以前は叶わなかった王都見物をしよう。そうすれば自然とストラドさんも見つかるかもしれない。
無理矢理にでも前向きになると自然と今の状況も楽しいものに思えてきた。
今いるのは王都を十字に走る一番大きな街道だ。
この道を北に直進すれば王城にたどり着き、東には学院がある。
馬車の中からだが、以前もこの道は見たことがあった。
ほとんど知らない土地に七割の期待と三割の不安。そこから生み出される何とも言えぬ高揚感を覚える。
さて、どこに行こうか。
目的も持たずにフラフラと歩き回る。
見ているだけでも十分楽しめた。この世界の殆ど全てが俺にとって未知のものだ。
美味しそうな出店、見るからに怪しげな雰囲気の店もあれば、普通の雑貨屋まで。
ウィルディアよりさらに多種多様な店が建ち並んでいる。
「ちょっとちょっと、そこのお嬢さん。」
声を掛けられているのは分かっている。しかし立ち止まる様な事はしない。こういうのに捕まると結局面倒しか起きないと判断したからだ。
「おーい、おーい!無視しないでってば!」
しかし回り込まれたしまった。
立ちはだかったのは年齢は…、俺より少し上くらい…?身長は俺(150cm)より少し高いくらいの女性、下手すると少女。
何よりも特徴的なのは右目に付けた眼帯。
「…何ですか?」
「どう?うちのとこ寄ってかない?」
やっぱりこういうのか…。多分キョロキョロと物珍しそうに歩いてたから観光客、加えて一応女でさらに一人と見てカモだと思ったのだろう。
「急いでますし、持ち合わせが無いので…。」
そう言って脇を通り抜けようとする。
「だいじょぶ、だいじょぶ。初回は無料にしといてあげるから。」
なおさら胡散臭い。だいたい何の店だよ。
「いや、そんな警戒しないでさ。ほら、こっちこっち。」
その女性に手を引かれ歩き出す。その力は想像以上で抵抗も出来ない。
一体どこに連れていかれるのだろう。
されるがままについていくしかなかった。