番外編 モノクロ世界
アラン王子視点。
ちょっと鬱気味…。
ウィルディアへの訪問はもともと予定の立てられていない物だった。
その為非常に心残りではあったが、急遽王都へと戻らなければいけなくなった。
アティはより一層美しくなっていた。その姿を見れただけで今回のウィルディア訪問は実に満足のいく物だった。
その知らせを伝え聞くまでは。
それはウィルディアを発ったその夜の事だった。
「な…?それは、本当なのか…?」
それはアティが攫われたというにわかに信じがたい話だった。
今朝の彼女の笑顔が鮮明に思い出される中、その話はあまりに現実味を帯びない。
「…ウィルディアに戻るぞ!」
事の真偽を確かめる為、何よりもアティが心配だった。
「お言葉ですが、殿下がウィルディアへ向かわれましても何ら事態は好転しないかと…。」
「しかし…!」
言いかけたが、言葉が出なかった。
俺が向かう事でアティの捜索が遅れたのでは元もこも無い。
何もしないのが一番アティの為になる。何も出来ない自分の無力さが歯痒かった。
「引き続き何かあったら即座に報告してくれ。」
「はっ!」
その日は気が気でなく、寝ることもできなかった。
その凶報が届いたのは翌日の昼ごろであった。
「アティーニャ様の事でご報告が…。」
「アティの事か!?どうなったのだ!?」
「はい…、大変申し上げづらい事なのですが…。」
何だ…?まだ見つかっていないのか…?
「早く申せ。」
「はい、昨日深夜アティーニャ様の死亡が確認されました。」
聞き取れなかった。聞こうとしなかったのかもしれない。
「今…、何と言った…?」
聞き直しながら心の片隅では聞きたくない、聞いてはいけないと警鐘を鳴らしていた。
「申し上げます。本日明朝アティーニャ様の死亡が確認されました。」
遣いの言葉がまるで違う言語の様に頭に入ってこない。アティが死んだ…?
「な、何を申しておるのだ…?そ、そんなの嘘に決まっておるだろう?」
頑なに信じようとしない俺に対し、遣いの者がただ無言に首を横に振る。
頭の中で死という言葉が理解が出来ないまま渦巻いていた。
そして死とアティが結び付いた時俺の視界は色を映さぬ灰色のものへと変わった。
…否、『戻った』と言うべきかもしれない。
あの頃の、アティと出会う以前の生きるべき意義の見出だせなかったあの頃に。
アティは光だった。彼女の笑顔から俺の世界は色づき、意味を持ち始めた。
そして光を失った今、俺は再び意味を持たぬ、ただ存在するだけの世界へと放り込まれた。
そこから数日の事は覚えていない。覚える必要も無かった。光差さぬ意味の無い世界に感じる物も無い。
これからの事もほとんど覚える事は無いだろう。
俺もアティのいなくなったこの世界も等しくただ存在するだけだから。
思考をやめ、白痴のように佇み、頭の中の思い出に浸るだけだった。