21‐1新たなるスタートライン
「はぁ…、やっと辿り着いたな…。」
ストラドさんが大きな溜息を漏らす。
夜明けからさらに数時間。
道中はこれといって何かあった訳では無いが、流石に徹夜に加え、歩き続けたのだから疲労はピークに達している。
マリネシア―――
町の全体に運河が張り巡らされ、魚人が主に暮らす地方の中心都市。
運河は一般的な水運目的に限らず、市民の交通路(泳ぐ的な意味)としても用いられる。
むしろ交通がメインの用法だとか。
「この町ではどうするんですか?」
「とりあえず時間があんまりねぇからな。ここ治めてる魚人の公爵様から狼退治の報酬貰ったらさっさと次行くぞ。」
観光とかしたいものだが、目的が違うので仕方ないだろう。
「あれ?まさかクウィート公爵に会うんですか?」
クウィート公爵というのはアマリン家の現当主である人物だ。
面識は無いので大丈夫だろうが、如何せんあの父が自慢しまくっていたらしいので警戒しておくのに越したことは無いだろう。
「あー…、多分直接会う事は無いだろ。使いの奴から報酬渡されるだけだ。こんな一般人と公爵様が会う機会なんてほとんど有り得ないだろうし。」
それもそうか…。
「んじゃ、行くぞ。」
更に歩いて30分位か、明らかに他の建物と違う厳かな雰囲気の屋敷の前にいる。
町中はウィルディアが獣人だらけだったのに対し、魚人だらけだった。
逆にここの人達からすれば、獣人の俺はさぞかし奇異に映った事だろう。
「さっさと報酬貰って飯でも食いに行こうぜ。まー、収入も入るし、奢ってやるよ。」
「え?最初から私一文無しですけど?」
金なんて持ち合わせちゃいない。
「期待しちゃいねぇけど最初から奢らせる気かよ…。」
悪いがそういう事になるのだろう。
「自分で稼げるようになったら返しますよ。」
「いらねぇよ、自称幼気な少女に奢られる程落ちぶれちゃいねぇ。」
幼気と言ったのをまだ引きずるのか…。とりあえず何と言われようがいずれ何らかで返そう。気にする人じゃないだろうが借りっぱなしというのも気分が悪い。
「しかし、随分豪勢な屋敷ですね。」
噴水が立ち並び、何とも幻想的な光景が映し出される。
「いや…、きっとお前ん家だって大概だろうよ…。」
四季折々の花が絶えず咲き誇る庭は確かに好きだった。
やべ…、思い出したらまた泣けてきた…。
「…頼むから泣かないでくれ。俺が泣かせたみてぇだろ…。」
少し恨めしそうにストラドさんを睨む。
「分かった!俺が悪かったよ!!お前ん家に関する話はノータッチな!?」
ちょっとやり過ぎたかな…?
「いや、別に構いませんよ…。いつか割り切らなきゃいけないんですから。」
そう、いつか。
あまりに突然で理不尽な出来事で未だに整理が全然追いついていない。
今はまだ戻れない、だから今は進むしかない。
「さ、行きましょ。時間が無いなら急がないと。」
そういって背けた顔には決意の色と一筋の光る物があった。