20−5決別の通信
「…今からでも考え直さね?」
森をさっさと抜ける為、まだ暗いが歩き始めていた。
「何をです?」
「いや、俺らのギルド来ること…。」
せめて最後もの良心(?)での問い掛けのようだ。
「王都にあるんですよね?それならば仮に断られても働き口は他に沢山あるじゃないですか。連れていってくださいよ。」
とにかく王都に行く必要はある。
「それなら他の所にしとけ。稼ぎもそこそこ求めんならまだ健全な娼館を紹か…。」
メキャッ!
あまんじて受け入れた点もあるのかもしれないが、想像以上に良い音を鳴らし、上段回し蹴りが顔面にクリーンヒットした。
「最ッ低ですっ!!私の事そんな目で見てたんですか!?」
顔に血が上り真っ赤になっているところだろう。
コイツのセクハラも大概じゃないんだろうか?
「…悪い。つい綺麗な顔立ちなもんだから…。」
男に抱かれるなんて想像するだけで虫唾が走る。
しかし綺麗と言われて悪い気はしなかった。
「そんな事言っても駄目です!」
「ちっ…、おだてても駄目か…。」
そりゃ、自分でそんな事言ったら尚更駄目だろうよ…。
「でも本当に考え直す気ねぇのか?」
「逆にそこまで止められると余計に入りたくなりますね。」
それに悪魔の言っていた最後の一言、ストラドさんのギルドが普通のギルドでは無いと言っていた事が気になっていた。
信じる訳でも無いが、気になるなら確かめるだけ損は無い筈だ。
「入った後からは抜けらんねぇぞ?絶対後悔すんなよ。」
「構いませんよ。私に追い越されないように頑張って下さいね。」
どうせ既に後悔だらけの人生だ。選ぶ道なんて元々無いんだから今は進むだけだ。
「ハッ…、お前が入る事がまず無理だろうがな。」
それは自分でも分かってる。最悪の場合は本当に娼館も視野か…。
会話が途切れ、沈黙が続いたので、思いついた疑問を投げかけた。
「そういえばストラドさんはどういった種族の方なんですか?」
あんなに軽々と大剣を振り回すのだから並大抵ではない。
「さん付けはやめてくれって言っただろ…。とりあえず俺は普通の人間だよ。」
いや、冗談だろ。あんな俺の身の丈程もあるのを振り回す奴がただの人間な筈無いだろ。
「えーと、ハーフとかですよね…?あんな重そうなの振り回すなんて考えられないんですが…。」
「ちげーよ。純粋にただの人間だ。ま、トリックが無いわけでも無いが企業秘密だ。」
トリック…?見た目に反して実は結構軽いとか?
いや、威力は十二分にあったしな…。
「そういえばお前って何で毛色が白いんだ?」
それは考えた事無かったな…。
「さぁ…、自分でも考えた事ありませんね。」
「獣人の公爵様って言えばまばゆい金毛の虎だって聞いたんだけどな。」
「銀色の髪はお母様から継いだのだと思いますけど…。」
そういえば兄妹は全員金髪なのに俺だけ銀なのを昔気にしたことがあったな…。
白毛の耳は何だろ…。多分突然変異としか言いようが無いと思う。
「ふぅーん…。おっ、そろそろ森を抜けるぞ。」
その言葉を聞き、前方を見るとずっと木と茂みばかりだった景色に変化が訪れる。
こんな森はさっさと立ち去りたかった。俺は走り出し、遂に森を抜けた。
そこは草原が広がり、丘になっていた。
「おい、あんまりはしゃぐな。町まではまだ少し距離があんだぞ?」
「やっと抜けたんですよ?嬉しいじゃないですか!」
遠くの空を見ると丁度日の出の頃だった。
「見てください!朝日ですよ!」
長い長い夜は終わり、昨日までとは全く違うような今日が始まろうとしていた。
「全く…、想像以上に時間食っちまったな…。だが…、良い夜明けだ。」
「えぇ、綺麗ですね…。」
思い出すと涙がこぼれそうになる。しかしぐっと堪える。
この光景を俺は忘れないだろう。
これから決して楽な事ばかりでは無いだろうが、これが俺の始まりとなる夜明けだ。
そして少女は力を手に入れた…。すべてを終わらせる為に…。取り戻す為に…。
次回 運命の眠り姫―復讐編―
というのは嘘ですが、とりあえずこれで折り返し地点です。
さて、少女とその周囲の人達の運命はこの先どのように転がるか…。
という事で読んでくださる方々、今後ともよろしくお願いいたします。