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20−4決別の通信

「おい…!さっきの通信は何だよ!?」

一通り泣いて、いくらか落ち着いてきた頃に空気を読んで黙っていたストラドさんがついに耐え切れず強く迫ってくる。

「え?何のことですか?」

少しだけとぼけてみる。

「お前が此処で死んだ!?帰らない!?どういう意味だ!?」

まぁ…、事前に相談も無しにあんな事を喋りだしたら驚くか。

「そのままの意味です。私は此処で表向きには死に、家に帰る気は無いという事です。」

それ以上でもそれ以下でも無い。

「何でそんなな事言い出した!?お前にとって家族は大切なもんなんだろ!?」

大切だ。この気持ちに嘘偽りは無い。

「当然です。かけがえの無い、本当に大好きで大切な人達です。」

今の自分があるのは家族のおかげであり、無くては為らない存在。

「だったら…何でだ!?何でお前はそう簡単に関係を断ち切ろうとすんだ!?」

こっちだって好きでしている訳じゃない。あの家族が好きだからこそだ。

「簡単な筈…、無いじゃないですかっ…!」

絞り出す様な声。また視界が滲み始める。

昨日までは何事も無く、笑顔で過ごせていた日々。

それなのに、そんな日々はこの数時間で突然にして砕け散った。

「仕方なかったんですよ…。これで皆が笑顔になれるなら…。」

顔を俯け必死に泣くのを堪える。

「…お前それ本気で言ってんのか?」

冷たい、胸に突き刺さる声。先程までの声色とは一線を画する物を感じる。

「どういう意味ですか?」

「お前の家族はお前の犠牲の上に成り立った平和の中で笑ってられんのか?」

胸がズキンと痛む。

「何よりお前自身が笑っちゃいねぇ。今のお前は結局何も守れちゃいねぇ。ただ全て失っただけだよ。」

結局俺は…、流れに身を任せ、何一つ成し遂げちゃいないのか…?

「お前みたいな奴は何度か見てきた。自己犠牲に酔って、結局全てを犠牲にした奴だ。」

「だったら…、だったらどうしろって言うんですか!?」

どうしようも無い理不尽さへの怒りは矛先を見失い、俺はただストラドさんに当たるしかなかった。

「簡単だろ。取り戻せば良いじゃねぇか。詳しくは知らねぇ。けどよ、今は無理でも取り戻してみせろよ。本当に、手遅れになる前に…。お前はまだ取り戻せんだろ?」

その言葉は胸の奥へと響いた気がした。

こうして全てが決まった。

全てが始まった。

邪魔しろっつうのが条件ならやってやろうじゃん…。いつかこの時油断しなかったらって後悔させてやる。

んでもって全てが終わったら、今度はあるべき場所に『ただいま』と言う。それが何年先になろうと、今ここで決めた俺の確かな決意だった。


「決まったみたいだな。今のお前、良い顔してるぜ。」

「な、何言ってるんですかっ!?」

突然の発言に少し照れてしまった。

「うん、とりあえず大丈夫そうだな。安心した。んじゃ、そろそろ俺は行くぜ?」

………アレ?

「いやいや、待ってくださいよ!貴方はこんな幼気な少女を夜の森にほっていくんですか!?」

何してんのこの人!?

「悪いが先を急いでるんだ。あと幼気とか自分で言うなよ…。」

それについては言った直後に少し反省した。

「貴方にとって人命より大事な急用があるんですか!?」

ここで置いてかれたら本当に死ぬぞ!?何だったんだよ!数分前の俺の決意!!

「俺の命だよ!!このままだと俺の命が危ないんだよ!!」

何故に…?

「…じゃあ、せめて私も連れていって下さい。」

「どうして?」

「理由が必要ですか?このままだと私死んじゃいますよ?それに、仕事が欲しいんです。ギルドに所属しているって言いましたよね?」

宿無し、仕事無し、一文無しのこの状態では、野垂れ死にが目に見えている。

「まさか…、うちのギルド入る気か?やめとけ、ガキの遊びじゃねぇんだ。それに…。」

ストラドさんが微妙に青ざめる。

「…それに?」

「上司が駄目だ。人使いが荒い、性格が悪い、神出鬼没、何考えてんのか分かんねぇ、そのくせ何でもお見通しのようで、加えてセクハラが酷い。」

何と言うか…、凄まじい上司だな…。

「せめて話だけでも…。駄目ですか…?」

「お前…、今の内容聞いてまだ諦めないのか?」

こっちだって死活問題なんだよ。

「…いや、待てよ。お前連れてくの口実にすりゃ、お咎め無しとは言わずとも少しは軽くなるかもな…。」

見事に弾避けとして使う気のようだ。

いや、もうこの際それでも構わないか…。

とりあえず、直後の野垂れ死には回避出来たようだ。


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