20−2決別の通信
いつまで経っても突き放される事は無かった。
「お前がよ…、何を怖がってんのかは分かんねぇけどなぁ…。覚えとけ、話ぐらいはいつだって聞いてやるよ。誰かに頼れよ、いつだって助けてやる。お前一人で何でも出来ると思ってんじゃねぇぞ。」
痛みからか少し途切れ途切れの言葉。
まだ…、綺麗事を…。
「何度だって言ってやる。俺はお前を助けてやるよ!!だから頼れよ!!」
耳が痛くなるほど大声で言われた。耳だけじゃない、胸まで痛くなってきた。
それは先程まで俺を支配していた黒く冷たい痛みではなく、明るく暖かさを感じる痛みだった。
目頭から頬にかけて熱い物が流れ落ちる。
こんな言葉にまた俺は騙されそうになっているのだろうか?
そんな自問自答を投げ掛けても心の中ではもう気が付いていた。
「…どうして。どうして突き放してくれないんですかっ!?そうすれば…楽に、なれるのに…!」
この人にこんな問い掛けがもう意味が無い事も分かってる。
「言っただろ?助けてやるって。そんな辛そうな面してるガキ突き放す程俺は酷い人間じゃねぇさ。」
「貴方は…、私を裏切らないんですか?私は、貴方を信じて良いんですか?」
心の中では信じている。それなのにまだ疑おうとする自分がいる。
「さぁな、信じるかどうかはお前が決めろ。お前が信じるなら、俺はお前を裏切んねぇよ。」
限界だった。俺は声を上げて泣き出してしまった。
緊張の糸が切れ、急に先程までの自分が馬鹿らしくなってきた。
「ったく…、今度は泣き出したり、忙しい奴だな。」
「ごめんなさい…、ごめんなさい…!でも少しの間胸を貸してください…。」
涙が止まらなかった。こうしなければ、心が壊れてしまいそうだったから。次から次へととめどなく溢れてきた。
「謝る必要なんてねぇよ。俺ので良ければいくらでも借りてけ。」
実に10分程だったろうか。溜まりきっていた感情を吐き出し、随分すっきりとした。
目の周りは赤く腫れ少し痛かった。
一通り落ち着いた所で決心もいくらか固まった。
「ストラドさん、通信玉を貸していただけませんか?」
さっさとしないと決意が鈍りそうだった。
「構わんが誰にだ?」
「クロノス公爵です。」
あえて父とは言わなかった。もうすぐ関係を断たねばならないのだ。
「あぁ、公爵様な。ほれ…、って、お前公爵様と知り合いなのか!?」
とてもわざとらしかった。
「いまさら演技はいりませんよ。私が何者か知っているのでしょう?」
「なんだよ、やっぱあん時盗み聞きしてたのか?」
盗み聞きとは人聞きが悪い。あくまで寝れなかっただけだ。
「あの通信がなんであれ、今は貴方の事を信じていますよ。」
「そうかい、ありがとよ。んじゃ、さっさと済ませてくれ。こっちも時間が詰まっているんでね。」
「はい、分かりました。」
『クロノス・マスグラン・トピアーゼ』
通信玉は魔力を必要とするがこれ自体が魔法として独立しているため、魔法の得手不得手に関わらず使用出来るようになっている。
ノイズがいくらか混じり、通信が繋がる。
「クロノスだ。」
「アティーニャです。」
けじめをつける。ここで決められ無ければ後々辛くなるだけだから。
揺るがぬ思いとともに別れの言葉を。