19−7結ばれた不可侵
「嫌なら断っても良いわよ?」
バッと顔を上げる。
「ただ、貴女を見逃すという条件と貴女の家族に関わらないという条件も破棄されるから、貴女を今ここで殺して、貴女の家族を殺しに行くわ。」
畜生…!!結局意味ねぇじゃねぇか…!!
「上げて落とすってのも楽しいわね。」
悪魔は笑みを崩さない。
結局道は無かった。
「条件を…。」
俺が…、俺が苦しむだけで皆が救われるんだ…。
ただあと一言発すれば…。
「え?何?聞こえないわねぇ?」
「条件を…、飲みます…!」
悪魔に屈した瞬間だった。
「良く、言えました。」
ニヤリと口が裂ける程に勝利の笑みを浮かべた悪魔が目の前にいた。
「契約内容の確認よ。一つ、私達は今この場で貴女を見逃す。二つ、私達は貴女の身近な人物に契約期間中関わらない。三つ、貴女も貴女の身近な人物に関わらない。四つ、貴女は私達の妨害をする。以上の内容よ。」
心ここにあらず、といった状態で頷いた。
「私達側が契約違反を起こした場合はその場で死の制裁。貴女が契約違反を起こした場合は即座に契約破棄。私達は破る気は無いけど、貴女は三つ目のは判明したら即時。四つ目は、まあ気長に待つわ。」
悪魔は何処からか羊皮紙を取り出した。
「これに貴女の血を。」
頭はまともに機能せず、ただ言われるがままに従った。
ポタリと指先から血が滴り、一滴垂らしただけなのに、一面に広がり、赤い文字が浮かび上がる。
「契約…完了よ。」
これで…良いんだよな…?
俺は元々いなかった存在。いつかあの場所を去ろう。そう、決めていた筈だ。早いか遅いか、それだけの筈なのに。
それなのに今胸は張り裂けそうな程辛く、涙はとめどなく溢れる。
まともにさよならも言ってない、突然の別れ。
「ちょっとだけ、慈悲を与えてあげようかしら?」
引き裂いた張本人が慈悲?呆れが入る。
「一度だけ、面と向かい合わない事を条件に誰かと連絡を取っても良いわ。」
別れの言葉だけでも言えるって事か…?
「フフッ…。最後の言葉が貴女に未練を残すのか。決別を与えるのか。楽しみね。」
未練は…残るだろう。悪魔の思惑通りに。それでも最後に何かを伝えられるだけでもきっと天と地程の差があるだろう。
「じゃ、後はごゆっくり〜。あ、おまけに一つサービス。貴女を追ってきたあの男。あの男が所属しているのは普通のギルドじゃないわ。あの男についていくのが吉でしょう。」
そう悪魔は言い残した。
「リード〜!目標達成よ。お仕事終了!!」
「ボスッ!!ちょっと待ってろ!!今手が放せん!!」
悪魔は溜め息をこぼし、
「仕方ないわね…。」
リードとストラドさんの間に気がつくと割り込んでおり、右手の人差し指と中指で大剣を白刃取りし、左手で火球を掻き消した。
「これ以上続けるなら…、どっちも殺すわよ?」
笑顔で言い放ち、そこで戦闘終了となった。
何処までも規格外な奴だった。
そしてそのまま何事も無かったかの如く、
「じゃ、アティちゃん。これからを楽しみにしているわ。」
そう言い残し、トレイ先生とリードとともに消えた。
結局…、全てアイツの思うがままだった。