19−6結ばれた不可侵
「えっと…、笑うところですか…?」
思わず尋ねてしまった。
「何で皆が皆固まるか爆笑するかなのかしらねぇ…。」
いや、世界征服って…。いまどき陳腐な悪党だろうがそんな事言わないだろ…。
「それで、世界征服が目標の大物様が何でこんな回りくどい事を?」
「完全に馬鹿にしてるわね。」
当然だ。
「ま、理由も何も無いわけじゃないけど八割気まぐれよ。」
「残りの二割は何ですか?」
「企業秘密と暇潰しと貴女の悩ましい顔を見るのが楽しみだからかしら?」
疑問を疑問で返すな。
「まず、自覚があるかは知らないけど貴女には運命が無いわ。」
コイツにはばれても仕方ない気もするが、何で分かるんだよ…。
焦りを噛み殺し、平然ととぼける。
「どういう意味ですか?」
「自覚が無い側だったかしら?そんな事無いと思ってたんだけど…。運命というのは、この世界で貴女が貴女であることを決定づける鎖の様な物よ。」
事前説明は天使から受けていたが、やっぱり意味分からん。
「ま、簡単に言えば私にも貴女が何をするか分からないって事。」
「まるで貴女には全てが分かっている様な口ぶりですね。」
全てを見透かされている、…のか?
「ま、あながち間違いじゃないわ。元々邪魔だから排除しようと思ってたんだけど、逃げちゃったんならそれはそれで面白そうだから見逃してあげるの。」
そう、全てはコイツの気まぐれ。邪魔なら今この瞬間に俺を消すのだって容易だろう。
「それでさっきの条件の話。条件は二つ。」
Vサインを突き出される。
どんなとんでもないのが来る?ゴクリと唾を飲み込む。
「一つ。その私にも予想外の動きで私達の邪魔をしなさい。」
自ら邪魔をしろというのもおかしい話だが、それ程までに俺とコイツは格が違うという事だろう。
「二つ。これは一つ目の条件の為という意味と、ペナルティー、そして貴女の苦悶の顔を見る為の物ね。」
事前にこれは俺にとって非常に苦しい条件だろうという事が提示された。
「貴女の家族に貴女が会わない事。」
意味が理解できなかった。いや、理解しようとしなかった。
悪魔の言葉が頭の中でこだまの様に繰り返される。
「いえ、もっと正確に言うなら貴女へのメリットとして提示した私達が関わらない、と指定した人物ね。偶然出会うのは仕方ないとしても貴女が貴女として出会うのはアウトよ。」
付け加える様に提示された条件だが、ほとんど頭に入って来ない。
家族に会わない事…?
頭がおかしくなりそうだ。更に深く闇に突き落とされた様な気分だった。
「良いわね…。その絶望に満ちた表情…。」
悪魔は恍惚とした笑みを浮かべていた。