19−4結ばれた不可侵
それはゲームなんかじゃなかった。言うならばただの狩り。
それも生きるためのものではなく、強いものが弱いものを蹂躙するだけの悪趣味な遊び。
今俺は本日何度目になるかも分からない逃走劇を繰り広げている。
疲労や怪我を抜きにしてもおかしい。一向にアイツとの差が広がらない。
「オラオラ、どうした!?当たっちまうぞ!?」
後ろからは火球やら弾丸やらが飛んでくる。
何度か木が盾になったりして、助かっているが長くは耐えられないだろう。事実何発か掠っている。つーか何よりアイツ何であんな速いんだよ!?最低限ただの人間ではない事は分かる。
火球が足を掠める。
「熱っ…!」
よろめき、バランスを崩しかける。
まずいっ…!
ぬかるんだ地面にそのまま足を取られ、派手に転んだ。
すぐに立ち上がろうとするが、足を挫いたようだ。
「残念だったな。終わりみてぇだ。」
そういって静かに銃口がこちらに向けられる。
「撃ったら…撃ちます…!」
負けじとこちらも拳銃を向ける。俺なりの最後の抵抗だった。
「ほぉ…、威勢だけはいいな?だがお前にはソイツは撃てねぇ。何よりソレ、もう弾入ってねぇだろ?」
ビクッと反応してしまう。
「図星だな。通りでおかしい筈だ。どんなに追い詰めても撃ってきやしねぇ。」
ニヤニヤと嫌な笑顔でこちらを見る。
「どうだったよ?テメェみてぇなヌクヌクと育った奴には最悪の一日だったろ?」
確かに最悪の日には間違いない。
「俺はなぁ、今日のテメェみてぇなド底辺をずっと生きてきたんだ。苦労を知らないでのうのうと生きているような奴を見てるとムシャクシャすんだよ!」
のうのうと生きている、か…。何も言い返す事は出来ない。
「俺が生きてきたのは、理不尽が理として成り立った世界だった!!だからテメェは社会の理不尽に飲まれて…!理不尽に死ねっ!!」
こうして俺はまたしても理不尽な死を果たそうとしていた。
「ゲーム、オーバーだ。」
静かに言い放たれ、引き金の引かれようとしたその瞬間だった。
「うぉらぁーーっ!!」
横薙ぎに一閃、頭上を刃が駆けていった。
いち早く感づき、後ろに飛びのいたようだ。
「あァ?何だテメェは?」
その視線の先の人物。
「お前こそ何だ!?こちとら命懸けなんだぞ!?」
見上げると覗き込むようにしていた人物。
「ストラド…さん…?」
「ったく、手間掛けさせやがって…。良く分かんねぇけど…、味方してやるよ!」
味方。その言葉が小さく刺さる。
味方…じゃない。きっと、自分の為にだ。
また、良い人を装い、平気で裏切る。
そんな光景が浮かぶ。
「テメェもこのガキが目的か?」
「そうだが、どうもあんたは同業者には見えんな。」
…どっちもどっちじゃないか。
結局は俺を捕まえようとしているなら何も変わらず等しく俺の敵だ。
「テメェが何者かは知らねぇが…。ま、関係ねぇや。テメェも見ててムシャクシャしてくんだよ…!」
「何をイライラしてんのか知らないが、相容れないというのは一目見た時から同感だな。」
一触即発。殺気がピリピリとこちらまで伝わってくる。
俺はそそくさと避難する。二人は俺がその場から離れていってるのも気付いてない。
危ない空気だが、何だかんだで助かったようだ。
同士討ちをしている間に逃げるというには足が痛む。だから出来るだけ遠くへ、せめて隠れられる所を探したかった。