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番外編 真夜中の密会

ストラド視点です。

さて、彼は一体何者…?

ジリリリッ!!


突如として通信玉の着信音が鳴り響いた。

先程寝入ったばかりの狼に襲われていたアティーニャと名乗った少女の事気に掛け、慌てて通信に出ようとする。

「…誰だよ、こんな時間に。起きちまうだろ…。」

通信玉に手を伸ばし、通信を開始する。

「はい、もしもし?」

「はぁい、ス・ト・ラ・ドくーん?」

寒気の走るような甘ったるい声が通信玉の向こうから聞こえる。

そしてその声の主とは自分の良く知る人物だ。

「げ、ボス…。」

上司であり、延いては俺達のギルドの主である人だ。

「あら、げ、とは挨拶じゃない。」

「あ、すんません。」

通信を切りたい気持ちでいっぱいになるが、さらに酷い事となって返ってくるのは目に見えているのでやめておく。

「さーて、貴方は今一体どこをほっつきあるいてるのかしら?」

言葉の端々に棘がみえる。だいぶお怒りのご様子だ。

「え?今ですか?アークの森です。」

出来るだけ平静を装う。何も知らなかった。召集なんてきっと初耳だ。そうに決まってる。

「あら、そう。国境付近とは随分と遠くにいるじゃないの。」

「いや、すんません…。」

「いえいえ、仕事熱心な部下を持って私はホント幸せ者だわ。」

絶対心にも思っていないだろ。

「いや、ホントすみませんって。」

「あら、謝らなくても良いのよ?お仕事は大事だものねぇ?でもそんなに詫びたい気持ちがあるならさっさと戻って来て欲しいわね。」

これはもう即時帰還するほか無いだろう。

しかし帰りたくない…。

何されるか分かったもんじゃない。

「後五日もありゃ戻りますんで。」

「三日よ。何寝ぼけた事言ってるの?」

間髪入れずに拒否された。

「はぁ?三日!?いやいや、そんなのギリギリじゃないですか!?」

これはあくまで単純に移動だけに時間を費やした場合。そこに休憩は疎か睡眠時間すらもまともに含まれていない。

「眠る時間が無いなら寝なければ良いじゃない。私早くストラド君に会いたいな〜。」

全力でご遠慮願う。

「ホント勘弁して下さいよ。こっちはガキ連れてかなきゃいけないんすよ?」

これはあくまでも仕方の無い理由だ。そう自分に言い聞かせる。

「え、私に黙って隠し子?一体どこのどいつよ?」

というかいい加減そのキャラやめて欲しい…。

「え?いや、俺のじゃなく森で見つけた奴です。」

「森って…、アークの森?何?妖精ちゃんでも見つけちゃった?」

いまいち伝わっていないようだ。

「だから森で見つけました。」

「妖精を?ごめんなさい。ちょっと理解が追いついてないわ。」

「え、良く分からない?」

「えぇ、分からない。一から状況説明を求めるわ。」

…まあ、自分も最初良く分かっていなかったし、仕方ない事だろう。

「え〜と…、狼狩りで森に入ったらボロボロで狼に襲われていた子供がいたので保護しました。この報告で良いですか?」

「子供って人の子供だったの?…一応特徴を教えてくれるかしら?」

後半少しだけ声色が変わったのに気がついた。真面目に話をするときの声だ。

「え、コイツの特徴?」

何となく面倒な事になっている気がする。

「えーと…、髪は銀髪で肩よりちょっと長いぐらいの十二歳前後で…。」

「女の子かしら?」

「あ、はい女です。それで…、」

ここで言葉が遮られた。

「種族は?獣人かしら?」

言おうとしていたことが先取りして言われる。

「はい、獣人です。あ、ウィルディア出身だと言ってました。」

「それで白い虎の獣人じゃないかしら?」

完全に仕事としての口調だった。

「はい、白い虎の耳で、…良く分かりますね。」

これは何かあるな…。

「単刀直入に言うわ。その娘、恐らく公爵家の娘よ。」

何かあると考えてはいたが、完全に想像の斜め上を行っていた。

「は…?冗談でしょう?」

「本気よ。クロノス公爵からの正式な依頼。さらわれた娘を助けてくれ、っていうね。本当は帰還を促すついでに伝えようとしていたんだけど…。」

「…正式な依頼ですか。報酬は?」

「何でも望む物を、だそうよ。公爵様だもの、富なり名誉なり地位だって望みの物が貰えるんじゃないかしら。」

「へぇ、悪くない。流石羽振りが良いですね。」

これはまさかの大きな仕事が転がり込んできたようだ。

「まあ、そこからならマリネシアの辺りまで連れて来てくれれば、後の手配は私がしておくわ。」

「はい、コイツをマリネシアまでですね。」

「良い?失敗は許されないわよ。」

「えぇ、はい…。当然成功させて見せます。」

そう言って通信を切る。




それから一時間程が経過した。

俺は有ろう事か居眠りをした。立て続けにこなした仕事の疲れ、突然転がり込んだ大き過ぎる仕事に対し、気が緩んだのだろうか。


パキッ!


その音に目が覚めた。

「あ?どうした?」

公爵家の娘、アティーニャが立ち上がり、森の奥へと向かおうとしていた。


そして次の瞬間には走り出していた。

「あっ!おいっ!?待て!!」

その姿は夜闇に紛れ、すぐ見えなくなった。

急いで後を追うが結局見失った。


とりあえず通信玉を取り出す。

発信音の後に

「はい、こちらギルド『イノ…。」

「あー、ボスっすか?ストラドです。」

今は自分のギルドの名乗るのを悠長に聞いてる暇は無い。

「あら〜、ストラド君。そっちからも連絡してくれるなんて嬉しいわ。」

「…もし、万が一公爵様の娘さんを連れてけなきゃクビですかね?」

恐る恐る聞いてみる。

「まあ、リアルに首が飛び兼ねないわね。加えて一族郎党皆殺しで下手するとこっちにまで火の粉が降り懸かるから絶対成功させてね。アハハ…、冗談よね…?」

返答はせずに通信を切った。

アイツの消えた方向にだいたいの見当をつけ、俺は走り出した。


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