18‐5暗闇の森林
雨も止み、少し湿ってはいるがストラドさんが焚火の準備をしていた。
使っているのが簡易式発火装置、もっとぶっちゃければチャッカマンなのでやはりこの世界はだんだんおかしくなっている気がする。
周囲がいくらか明るくなり、多分火を恐れ狼も近寄っては来ないだろう。
「…お前ケガしてんじゃねぇか。見せてみろ。」
明かりが燈され、右肩の怪我に気付いたようだ。
ぐいっと肩を引き寄せられる。
「イタッ…!」
「あ、わりぃ…。ん?何だコリャ?狼に付けられた傷じゃねぇな…。ま、とりあえず止血しとくか。」
そういうとサイドポーチのような物から布を取り出し、軽く縛る程度の応急処置を施してくれた。
「…ありがとう、ございます。」
「ま、気にすんな。干し肉食うか?」
一瞬遠慮しようかと思ったが、しばらく何も食っておらずお言葉に甘える事とした。
「…いただきます。」
実に二日ぶりになる食事は非常においしかった。
「さっきから思ってたんだが、お前どうしてそんな左腕を庇ってんだ?」
自分でも言われて気がついた。
今はさほど痛む訳ではない。しかし心のどこかで理解していたのだろう。あまり人に見せる物ではない。
左腕の烙印はきっとそういう忌むべき物である、という事に。
「べ、別に何でもありませんよ!アハハ…。」
自分でも呆れる程に何かある様子だ。
「…そうか、まあ何も無いんじゃ追求する意味も無いな。」
向こうも向こうで察してくれたようだ。
「しっかし酷い奴らもいるもんだな。こんな年端もいかねぇガキ連れ去って売り払おうとは。」
ふとトレイ先生の顔が頭に浮かんだ。あの人は結局どちら側なのだろうか…?
「ところでストラドさんは何故こんな時間にこちらに?」
単純な興味と何割かの疑念からの質問だ。
「むず痒いからさん付けはやめてくれ…。つーかさっきも言ったろ?狼狩りだよ。」
「いや、あの…、目的じゃなくて何で夜のしかも雨が降ってる時に?という事です。」
「まあ…、理由というか単に仕事が詰まっててな。色んな依頼纏めて受けてたら急に召集を掛けられたんだ。キャンセル料も払いたくねぇし、とにかく急いでたら馬鹿でかい音が聞こえてそっちに向かったらお前が狼に襲われてたって訳だ。」
聞き慣れない単語に疑問を持つ。
「召集って何ですか?」
「…まあ、仕事の情報を集めたくてな。そういうギルドに入ってんだ。たまに集められてでかい仕事をするんだが、運悪く仕事の掛け持ちをしていた時に呼ばれてな。」
なるほど…、嘘は無さそう…かな?
「さて、お前も疲れただろ?俺が火の番しとくから休んでろ。」
「…良いんですか?」
「あんなボロボロだったんだ。遠慮なんてしてないでさっさと休め。」
今もだいぶフラフラなのは事実だ。
「…ではお言葉に甘えさせていただきます。」
そうして俺は横になった。