18‐3暗闇の森林
ザッ…ザッ…。
何かがいる。そんな気配を感じ取りすぐさま飛び起きる。
木に寄り掛かり辺りを警戒する。
なるべく気配を殺し、手に握られていた拳銃を構える。
ドクンドクンと自分の心臓がうるさいまでに鼓動する。
追っ手か、それとも森に住む獣か、はたまた救いか。
望んでおいてアレだが多分救いではない。
となると十中八九どちらに転んだとしても好ましくないモノだろう。
「ふぅー…、ふぅー…。」
荒くなりそうな息を必死に整える。
ガサッ!!
前方5メートル程の茂みが大きく揺れる。
「ヴァウッ!!」
飛び出してきたのは犬、ではなくステレオタイプな狼。
しかしうろたえている暇は無い。
そのまま飛び掛かって来る。
狙いを絞り、引き金を引く。
バンッ!
その音はこだまする様に遠く遠く森の中に響く。
肝心の弾丸はというと狼の後方の木の皮を削っていた。
「ツッ…!」
肩の傷に反動が響く。
本当に映画とかで満身創痍ながら片手で拳銃を撃つとかありえない。
突然の爆音に怯んだのか、狼は距離を取り、威嚇の態勢に入る。
飛び掛かって来たときよりは狙える。
歯を食いしばり狙いをすます。
バンッ!!
「ギャウンッ!」
今度は腹部に命中した。
まだ息絶えてはいないが襲ってくる余力も無いだろう。
「ウワォーーーンッ…!!」
命の灯が消えようかという刹那に遠吠えをあげ、その狼は絶命した。
「…負け犬の遠吠え、って訳じゃなさそうね…。」
まだ周囲に気配は感じないが森のあちこちから狼の遠吠えが聞こえる。
「今の音で場所もばれたかもしれないし…。」
休憩を挟んだものの寧ろ倦怠感が増した気のする重い体を引きずり、その場を後にすることを余儀なくされた。
雨はシトシトと降り続ける。
雨もまた確実に俺の体から体力と体温を奪っていった。
だいぶ前から走るなんて出来なくなった。ヨロヨロと力無く木に寄り掛かりながら進む。
ドサッ!
立っている事も辛くなる。
俺…、ここで死ぬのかな…?
一回目の死は唐突で一瞬だった。実感なんて無い。
今は目の前に死の実感がある。死ぬのが怖い。もう一度ルナに会いたい。家族に会いたい。一人で独りで死ぬのは嫌だ。
そんな思いを掻き消す様に周囲に気配を感じる。
数としては少なくとも十以上。狼が追ってきたのだろう。独り死にたくないとは言ってもお呼びじゃない。
あぁ…、俺、狼の餌になっちゃうのかな…。弱い者から食われる。厳しく当然の自然の摂理だ。
「グルル…!」
唸りをあげ近づいてくる。
ボロボロの状態でなお拳銃を構える。
遠からずやってくるであろう『死』というモノと目の前の狼に食われて死ぬ事に差は無いかもしれない。それでもまだ生きたかった。
バンッ!バンッ!バンッ!
到底弾は足りないだろうが、最後まで抗う。
バンッ!バンッ!バンッ!
無駄だと分かっている。
しかし諦めきれなかった。この世界で得た色々な物が。
「バウッ!」
右後方より襲い掛かってくる。
振り向こうとしたが、間に合わない。
喉元を一直線に狙って来ている。
「ッ…!!」
あぁ…、俺終わったな…。
体が防御反射を取る。
目を瞑り、腕を前に出し、頭を守ろうとする。しかし到底間に合わない。
(畜生…!!)
走馬灯が走った様に感じられた。