これが私の転換期
意識しないと人生のイベントは起こりにくいそうで。意識しないで起こった時は、あなたを思う人が居るのか、はたまた人生の相手にまたで会いたい人が居るのかどちらかでしょう。
なんてね。
すっぴんで出歩けないというテレビの若い女性が、夜のコンビニに来ていた。
うちの近所の人だろうか。
芸能人に会ったことがなかった私にとって、はじめてのテレビに出演した人との出会いであった。
一方的ではあるけれど。
「ありがとうございました」
店員から声を掛けられレジを後にする。
衝動的に夜の散歩に出てコンビニに来たのだ。買うものは、散歩後のご褒美。
ビールとオツマミだ。オツマミはお菓子系。
金曜の夜なのに、疲れているはずなのに、仕事から帰ってシャワーを浴びた後に、なんだかそのまま寛ぐことはできなかった。
まぁ、そうはいっても素人の散歩。本当に数百mの散歩コースだ。
それだけでも気持ちの切り替えができたようで、家に変えて、プチ酒盛りをしたら、あっという間に眠気がやってきた。
いつもよりも早く床に就くことができたのである。
「あぁ。お休み」
幸せとはこういう瞬間を言うのだろう。
まだ独身だし、彼氏もいないけれど。
仕事をして一人生活してきて数年。充実している。
そのままではいられないだろうけれど、今はぐっすり眠ろう。
翌日目が覚めると、朝焼けの前の青白い時間に起きた。
「いくらなんでも早すぎるか」
トイレに行ってから、もう一度ベッドに入ろうとしたが、目が冴えて眠れない。
お腹もすいてきた。
仕方がないので起きて、朝食前の食事を用意する。
ナッツ類とドライフルーツとヨーグルトとバナナだ。
たまにの贅沢にこうした朝食を食べたりするのだが、ちょうどいい。
当然、その後7時頃にもお腹が空いて、パンを食す。
牛乳で流し込みたいけれど、小さめのコップ分くらいしかない。小さな苛立ちを解消するために、このコップに注いだ牛乳の中にガムシロップとレモン果汁を入れて混ぜる。
甘いジュースの出来上がりだ。
少しとろっとして粒くらいの塊ができるのだが、牛乳とレモンが反応しているのだろうか。
テレビを付けてみても、朝の情報番組は早すぎて頭に入ってこないので、音楽を聞くことにした。
朝に聞くリラックスの音楽を流す。
森林の朝のようすを再現したものだ。
「んー」
楽しい時間にしようと思っていたが、食べたら、眠くなった。
自分でベッドへ移動して横になる。
気が付けば、9時半になっていた。
家のことをしなければ。
焦る気持ちとやらかした後悔。
せっかくの休日なのに。
そういう気持ちになることが嫌だったのに。
移動の時に壁に当たる。
「いたっ」
その時、私に絶望感がやってくる。
でも知っている。
このサイクル。
こうしてまた立ち止まって、無になって、次やることで頭の中を切り替えて、また動き出すのだ。
携帯電話が鳴った。
友人だ。
「どうした。おはよう」
電話の向こうで友人が言う。
「聞いてよ。また私、眼鏡はめながら顔を洗おうとしたの。もう、嫌になっちゃう」
いつもの彼女の言葉がやってきた。
何か失敗をして”嫌になっちゃう”と言うのだ。
数えたことはないが、時々やってくるのだ。
出会った学生の頃から、こうして失敗すると報告するために電話をしてくる。
働くようになってからは、平日の昼間はチャットで報告をし、休日は遠慮なく掛けてくるのだ。
「私は二度寝して、今から家のことをし始める」
「ねー。どうなってるんだろうか。私たちって」
「あははははは。それを解明するには、データは十分ある気がする」
頭のどこかで”なんのこっちゃ”と思いながらも、こうしたなんでもないことを会話する。
この時間も好きだったりする。
「じゃぁね」
と会う約束をするわけではなく、電話を切る。
そう、会いたいなら勝手にやってくるのだ。
なにせ、家はすぐそこだから。
私もどうしようもなくなると、彼女の家に行って、飼っている猫に甘えに行く。
一人っ子の私に兄弟の子供はいない。いとこたちは結婚している人も居るけれど、近くにはいないし、あまり交流していない。
だから、今の私は、そんな居ない存在の穴埋めをするように彼女の家の猫を姪っ子のように可愛がることがある。猫のおやつを買って来訪し、「来ましたよー」と猫に猫なで声でおやつを見せながら近づく。
猫も大したもので、眉間にしわを寄せて一瞬嫌そうな顔をするのだ。
それでもおやつで気に入ったものを買ってきた日には、猫のミーちゃんも猫なで声を出して近づいてくる。
どっこいどっこいである。
楽しい時間。ちょっとした猫との駆け引きの時間。
思い出してたら、会いたくなった。
仕方ない。洋服に着替えよう。
「会いに行く。ミーちゃんに」
声を出して言えば、テンションも上がってきた。
チャットで連絡をしておく。
すると意外な返事が返ってきた。
鍵はポストに入れておく。
ん?
どういうことだ?
出かけるのか?
そう聞くと、なんとビックリな返事が返ってきた。
デートに行ってくる
What’s?
何を言っている?
日本語か?
そう矢継ぎ早に返すとこう返ってきた。
結婚を視野に入れていこうと思って、付き合うということに意識を向けるようにすることにした
Oh, No. My friend.
先に人生の道の前を見つめ始めていたのだ。
何故か自分の気持ちも逸る。
が、頑張れ!
返事は絵文字の敬礼だった。
猫に会って待ったりするつもりだったのに、そわそわしてしまう。
それならそうともうちょっと前の段階で報告してくれても良かったじゃないか。
そう思っておこってみたところで、気になるのはどのような出会い方をした相手のステータス情報だ。
どこ行くんだろう?
いや、私が気にしてどうする。
でも、食事? アミューズメント施設?
うわぁ。
今聞ける時間あるの?
支度で忙しい?
そう、だから行ってきます!
うわぉ、健闘を祈る
猫のおやつを買って、友人宅へ着く。
ミーちゃんが出迎えてくれた。
「えっ。ミーちゃんいつも来てもソファや窓辺で寝そべっているのに・・・・・・意識かえるとこんなことまで変わるの?・・・・・・」
もちろん返事はない。
中に入って行く。
「今日はね、ミーちゃんとちょっと遊んでおやつ食べて帰ろうと思う。いいかなぁ?」
返事を期待するわけじゃないけれど、猫と目が合うと、返事をしてくれているように感じてしまう。
「OK。じゃ、まずは、飲み物と食べ物食べれたかなあ?」
餌与えれてるとは思うけれど、電話してきたしなぁ。
お腹をさすると、減ってはなさそうなので、そのままにした。
「よかった」
それでは、おもちゃ箱へ向かう。
光りのおもちゃと、釣り竿のようになっているおもちゃを取り出す。
「あいーあいあいあいあいあい」
猫にしか向かない口調になってくる。
光りが気になり、追いかける。
あちこち移動させたり、ギザギザに移動させると、俊敏性のある猫は楽しそうに追いかけ、前足で捕らえようとする。
緩急をつけて、何度かトライする。
楽しそうに、鳴いている。
水を飲み喉を鳴らす、猫もウォーミングアップが出来たのか、今度は駆け回り始めた。
「スイッチ入ったなぁ」
ソファもていのよいジャンプで飛び上がる場所として面白味をプラスしてくれる。
時々わざとだろうこちらへぶつかってくる。
なんてやつだ。
「あ、こら」
なかなか軽めとはいえ、ダメージ受けたとリアクションすうると、さらに彼女のボルテージは上がったようで、「ミャー」と鳴きながらコーナーを曲がったりしていた。
「あはははは。レーサーみたいになってる」
釣り竿みたいなおもちゃを走っている目の前にたらしたら、「みゃー!」と鳴かれた。
怒っているようだ。
邪魔されて苛立ったみたいで、その後また私にダイブしてきた。
「うわぁ、ごめんて」
「みゃー!」
日本語理解しているとしか思えないと常々思っている。
ミーちゃんの機嫌も上々でボルテージも収まったころを見計らって、おやつの時間に突入する。
今日のおやつはお野菜のカリカリの粒にしたものだ。
一粒ずつという訳にはいかない。
お皿に入れてあげる。
優雅に近づいてくるミーちゃん。
もうモードモデルもビックリな腰振りな歩き方である。
スポットライトが見えるようだ。
「どうぞ」
そういうと、またひと声鳴いた。
満足した猫と人間は、床に転がって、微睡む。
いつの間に寝てしまったのか。
気が付けば、お昼を過ぎていた。
「えぇ」
今日という日はいったい何回寝るんだ、私。
「じゃぁね」
と猫に挨拶をして友人宅を出た。
携帯電話を見る。
案の定、友人からは何も連絡が来ていなかった。
上手くいっている証拠だろう。
そう思うことにして、少し遅いお昼をどうするか算段する。
今財布を持っているが中身が乏しい。
これじゃ、食べに行けないしなぁ。
カードか電子マネーか。
うーん。
何が吉か。
あぁ、そうか。一度家に戻って、自転車でスーパーに行こう。あそこは大型ショッピングセンターみたいにフードコートもあるし、雑貨屋も百円ショップもある。
そして、夕飯と明日の日曜日の分も購入せねば。せめて朝の分は買わないとね。
自転車を走らせて、財布に少しお金も入れてやってきたフードコートでご飯を注文して、テーブルへ移動すると、視界に友人の後ろ姿が見えた。
見間違えじゃないよね。
えっ、でも、ここで、デート?
相手の表情が見える。
楽しそうにしている。眼鏡をかけた男性だ。
同じくらいの年か?
二人とも眼鏡同士だなぁ。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
食べ終わったのか、話しが弾んでいるようで、時折、笑っている。
おいおい。友人の視界に入らないようにしなければ。
私が同じ店に居るなんて、デートの時に意識したくないだろうし。
ドキドキしながら、お昼を食べて、買い物を済ませる。
午後、友人から連絡がないまま家に帰ってこれた。
セーフ。
が、ゆっくりできなかったので、時間が余った。
ダー。
気になるけれど、苛立つので、気にしないようにして過ごそう。
早めの夕食の準備に取り掛かり、作り終えた頃、友人が家にやってきた。
「ぶっとび!?」
どうしたというのか。どうしたら家に来ることになるんだ。デートをしていた相手とデート後に。それとも何か?
我が家に来ることもデートの中のひとつなのか?
「笑ってないで二人とも」
「ね、ぶっとびって言って驚くでしょう」
「確かに」
「何話したの? 恥ずかしい」
「あはははは」
笑う友人をせかすようにして言った。
「どのみち恥ずかしいから気にしない。で、どうするの? うち上がっていくの? 帰るの?」
「上がっていきます」
「お邪魔します」
「よくわからない」
「いや、報告しろとか言いたくても消したくなるんじゃないかと思って」
「は?」
「ふたりで報告しに来ました」
「うわぉ」
「お似合いなようで何より。それよりさぁ、一人分しか作っていないのに、どうする夕飯」
「出前とろう」
「うわぉ。奢って」
「よかろう」
「おぉ。まじか。言ってみるもんだな」
電話で注文する間に飲み物を出していく。
話しを聞くと、相手も将来を見据えて結婚を視野にいれようと考えるようになった。そこでネットで知り合っていた二人は会うことにしたとか。
「いや、それ、デートか? OFF会になってない?」
「いや、どうだろう」
「まぁ、おいおい恋人らしいことをしていくと思う」
「あはははは、そうだね」
「うっとうしい。もう私が気がせいて過ごしたっていうのに、まったく。こっちの気も知らないで」
「なんであんたが怒るのよ、私のママか?!」
「あはははは」
「もう、この際ママでも何でもいい。なんかあったら許さないからね」
「はい、肝に銘じます」
彼が言う。
「いや、違うし。あんたも彼に何かして泣かせたらタダじゃすまないからね」
「あははは。両方なのね」
「そうに決まってるでしょ。そうと決まれば、連絡先交換させて、何か在ったりした時用で、こっちからはめったに連絡しないから。安心して」
「分かりました。交換しましょう」
「よかったね」
「うん、ありがとう」
「な、なに?」
「いや、あまり友達居ないから」
「あぁ、プラス1おめでとう」
「ありがとうございます」
「お酒系足りるかなぁ?」
「お酒じゃなくても大丈夫だよ」
「はい。俺弱い方なんで」
「なるほど。じゃ、コーヒーか紅茶かお茶か」
「じゃ、お茶で」
「なごみ系(゜∀゜)キタコレ!!」
「なんか部活後に菓子パしてみようとしてチャレンジしているような雰囲気が堪らないね」
「まだ十代でいる気か?」
「どんなツッコミで返してくるのよまったく。堪らないでいいじゃない」
「じゃ、お菓子も出すわ。お菓子食べる系?」
「食べます」
「よし! 食え」
「はい」
その日は夕食を食べたら帰っていった二人。
それから二十年。
結婚した二人は、我が家の近くに新居を構え、ふらりと訊ねてきては食事をして楽しむようになっていて、しかも男まで紹介してくれた。
それが今の旦那である。
私の人生の転換期。
あなたの気が付いたらこうなっていたはどんな感じでしたか?
それは結婚のことでしたか?
仕事のことでしたか?
進学のことでしたか?
いつのどんな時を思い浮かべましたか?




