8番目、恋と嵐。97
この大嵐の中、冬眠しようとしたベヒモスの巣穴に入ってしまった人がいたらしい。
予備知識なしであのベヒモスを見てそれは驚いた私だが、入ってしまった人は大丈夫なんだろうか‥。シュナさんから借りた小説を読むけれど、どうにも気になって文が頭の上で滑っていってしまう。
と、窓の端っこに黒いノルチェがこちらへ飛んでくるのが見えた。
「ノルチェ?!まさかこんな風の中を飛んでったの?!」
窓の方へ駆けていくと、中庭にビッショリに濡れたベル様がノルチェから降りてきたのが見えた。ベヒモスの巣穴の方は雨が降ってたのか!急いでお風呂場から置いてあったタオルをわしっと掴んで階段を駆け下り、中庭へ出た。
「ベル様、お帰りなさい!あの、タオルを!」
「あ、ありがとう‥」
びっしょりなのに小さく微笑み、私からタオルを受け取ると、ノルチェの背中にあった小さな小屋からぬっと手が出てきた!え?だ、誰?
「リニ〜〜、僕にもタオルを頂戴!」
「リリオン様!?」
「‥‥あいつが観光案内してた客が、勝手に出歩いてベヒモスの巣穴に突っ込んだらしい」
「そうなんだよ!危ないっていってるのに話を聞かない奴のせいでビッショビショだよ!」
プンプンと怒りつつ、ノルチェの背中から降りてきたリリオン様に私は慌ててタオルを差し出した。何はともあれ二人で戦ったってこと?私がベル様の方を見上げると、小さく頷き、
「この嵐であちこち崖崩れも起きているからな‥。兵に客を町まで送り届けてもらったからそっちは大丈夫だ。こいつが勝手についてきたがな」
「ひど〜い!父に向かって!いつまで反抗期なの?!」
「ま、まぁまぁ、ともかく風邪を引いてしまってはなんですから、お部屋へ入って着替えましょう」
「ありがとう!リニはいい子だねぇ」
「リリオン!リニの頭を勝手に撫でるな!!」
「まぁまぁ‥」
私の頭の上で、義理父と息子の攻防が繰り広げられつつ建物の中へ戻れば、いつの間にかレーラさんがタオルを片手に立っており、
「堂々と来やがりましたね‥」
などとリリオン様に睨みながら言うので、私はヒヤヒヤである。
何故にレーラさんといい、ベル様といい、こうリリオン様に攻撃的なのだ‥。一応王族!王族だからね?
お茶の用意をしている間に着替えてもらい、さっぱりした顔で食堂へやって来たベル様とリリオン様。本当に全然似てないけれど、どこか雰囲気は似てるんだから‥、不思議なものである。
「この嵐の中、お仕事お疲れ様でした。温かいお茶です」
「わ〜、ありがとう!」
「リリオンが急に来てすまないな‥、リニ」
「いえいえ、リリオン様も大変だったと思いますよ」
「そうなんだよ〜!本当に隣国のお嬢様はワガママでねぇ!すんごく自分が美人だのなんだの言ってやたらとくっついてくるから辟易しちゃったよ」
「そ、そうでしたか‥」
温かいお茶を飲んではーっと一息ついたリリオン様は、ベル様を見てにっこり微笑んだ。
「しかし、オルベルは本当に強くなったね!あのベヒモスをよくぞ倒したよ!」
「‥‥あれくらいできなければ軍団長など務まらないだろう」
「うんうん!うちの子は強くて格好良いねぇ!」
リリオン様のニッコニコにベル様もちょっと照れ臭そうにお茶を飲んだ。
なんだか可愛い親子だなぁ。血の繋がりはなくても、こんな風に家族になれるってよく考えたら本当に愛情あっての仲なんだろうな。
「そういえば隣国の方はその後、どうしたんですか?」
不意に疑問が湧いてベル様に聞くと、リリオン様が隣でぶーっと吹き出した。
「それがさぁ!うちのオルベルが助けたらそのお嬢様、すっかり目が釘付けになっちゃって!ぜひ結婚してって言い始めて」
「え」
「オルベル、真っ赤になっちゃってさ〜」
「へえ」
「それでもなんとか断ったけど、色々プレゼントされてて」
「へええ」
「結局、なんやかんやで色々約束取り付けられちゃってたね」
「リリオン!!」
ジロッとベル様がリリオン様を睨むと、ようやくリリオン様は目をそろ〜っと横に逸らし、「ま、そんな感じ?」なんて言ったが‥。なるほど、惚れられちゃってプレゼントされちゃって約束までしちゃったのね。
いや、別にね私達はあくまでも仮の夫婦だし?
本当の夫婦じゃないしね。それに「好き」なんて言われたこともなければ、私も言ってない。まぁ、結局は「他人」だし?
‥ムカムカする気持ちと、そういえば私達はあくまでも「仮の夫婦」という名目はあるけれど、恋人同士ですらない間柄。そう考えたら、私がチリチリと胸を燻らせるこの感情を出すべきではない、そうわかっているのに‥。
「‥ちょっとキッチンへお菓子を取りに行ってきますね」
一旦頭を冷やしてこよう。
できるだけ微笑んで席を立つと、ベル様が私を見上げ、
「リニ、いまの話は‥」
「大丈夫です。弁えております」
努めて冷静に、微笑み、素早く離席したが、二階に上がった窓ガラスに映る私はどう見ても怒った顔‥。つまり、頬がパンパンに膨れていた。
今年も本当ーーーにお世話になりました!
小説を読んで頂けることで、お話を書けて‥、皆さんあっての作品だと思っております。どうぞ良いお年をお迎え下さい。




