8番目、勇気が出ない!90
エルザ様のお陰で、一足先に一緒に屋敷へ転移で帰ることになった私とベル様。本当はノルチェに乗って帰らないといけないらしいが、流石にべったりくっ付いて2時間飛ぶのは無理だ。その辺、柔軟に対応してくれてありがたい。
‥かなり恥ずかしいけど。
パッとお屋敷の中庭に転移をした私達は、見慣れた光景を見て同時にホッと息を吐いた。
「‥疲れただろう。一度部屋で休んだ方がいい」
「いえ、それはむしろベル様かと。本当にお疲れ様でした」
私の言葉に少しだけ口角が上がって嬉しそうなベル様にドキッとしてしまう。ううっ!人を好きになるって、すっごく心臓に悪い!!目を合わすのもやっとなんだけど?!私、挙動不審になってないかな?
内心、思考があちこちぶっ飛んでしまっているが、深呼吸、深呼吸である。なにせ私達、離れる為にもう一度キスをしないといけないしね‥。と、意識し過ぎてまたお互い黙ってしまう。わぁああん!空気、空気が固まってない?冷えてない?氷になってない?大丈夫?
「あ、オルベル様にリニ様!!」
「レーラさん!」
「良かった‥ご無事だったんですね。すぐにオルベル様のいらっしゃる要塞へ連絡しましたら、もう戻られたということだったので、安心はしてたんですが‥。オルベル様、リリオン様を倒せず申し訳ございません!」
「いや、あれは一筋縄でいかない生き物だから‥」
「王族、王族ですよ、レーラさん、ベル様‥」
大丈夫?どこかで聞かれていたら不敬の極みになっちゃわない?
私はちょっと周囲を見回してチェックしてしまうんだが‥。と、顔を上げればまたぱちっとベル様と視線が合って、それだけでまた心臓がドキドキする。リリオン様め、この呪いだけは許さない!
「レーラ、すぐにリニの部屋にお茶でも用意してやってくれ。俺が連れて行く」
「はい!承知いたしました!!」
にっこりと嬉しそうに返事をしたレーラさん。「お待ちしてますね〜〜!」と、歌うように私の部屋へダッシュしていった‥。
あ、ああ、置いていかないで‥。
いや、でもべったりくっ付いているのを見られるのも恥ずかしいか。うん、ここは頑張ってキスだ!今なら私も手を動かせる!ベル様も手なら動かせるかな?
「ベル様!今度は私がキスをします!」
「え、」
「その、手を貸して頂けると‥」
「あ、そ、そうか‥、手か」
「ん?手だと、ダメですか?」
「‥‥‥いや、てっきり今度は反対に俺の額にするのかと、」
ベル様の額に?
顔をぐっと上げても、私の背ではベル様の額にはとてもじゃないけど届かないぞ。
「ちょっと体格的に無理ですね」
「‥‥‥‥‥そうか、いや、そうだな」
なんだか残念そうな言い方に、胸の奥がそわそわしてしまう。
な、なんだ、その言い方は!ちょっとだけ期待してしまうじゃないか‥。って、待てよ?!
私、結婚(仮)しているにも関わらずベル様に好きって一回も言われない!!
3歳の時は「待っていた」だし、
18歳になって再開してから、「会えて嬉しい」とか「そばにいて欲しい」とかは言われたけど、「好き」って一回も言われてない!
もしかして‥、ベル様って私のことを「女性」として「好き」じゃない?!
だって運命の番だったとしても、私はそもそも人間だから選ばないでしょ。と、いう事は何か事情があっての結婚だってこと?さっきも考えてたけど、これって一度ちゃんと確認した方がいいよね?意を決して、顔を上げたその瞬間、ベル様の唇が私の額にフワッと触れた。
「え」
ゆっくり離れていくベル様が、ハッとした顔をして、
「す、すまない!その、声を掛けずにしてしまった!」
「あ、いえ、ちょっと驚きましたけど、大丈夫、です」
とはいえ自分の顔がじわじわと赤くなるのがわかる。
そうして、パッと私とベル様の体が離れると、ベル様は耳を真っ赤にしたまま「へ、部屋まで一緒に行こう」と、声を掛けてくれて‥、私は小さく頷いて一緒に部屋の中へ戻っていく。
チラッとベル様を見上げれば、尖った耳の先がまだ赤くて、それにちょっとだけ自分を意識してくれているのかな‥と、思うものの、恋心を自覚したばっかりの身。「なんで結婚しようとしたの?」って聞いて、「都合がいい人間がいたから」とか言われたら、あと半年が辛過ぎる!!
‥‥もうちょっと様子を見よう。
幸い、まだ時間はあるんだ。私はそう考えて、結婚の話は飲み込んだ。
夕方の野菜の水やりもあるし、まだ精霊も出現する。心臓に悪い事案はまだまだあるし、ひとまず心穏やかに過ごせるように心臓第一でいこう!そう決めて、私はもう一度前を向き、微かに自分の部屋からお茶の香りが香ってくる方へと意識を移した。
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