8番目とゴースト。67
作ったお菓子は大変好評を博し、すぐにでもまた作って欲しいというので快諾した。
じゃないと速攻で金庫に入れてしまっておきそうだったから‥。とはいえ大事に摘んで食べる姿は大変可愛い。軍団長なのに可愛い。
レーラさんはそんなベル様を見て、
「オルベル様、今日は町へ行くんですよね?」
「はっ、そうだった。リニ、野菜に水やりをしたらすぐに行こう!」
「は、はい」
すぐにお菓子の入った小箱を自分のコートの胸ポケットにしまうと、そわそわしだした176歳。
実はお祭りに行くのを楽しみにしてた?
お菓子が好きで、お祭りも大好きなのかな‥?そう思うとなんだか微笑ましい。ニコニコと微笑む私にベル様はちょっと目をウロウロさせてから、そっと手を差し出してきた。
ん?手を繋ぎましょうってことかな?
お手!の、ような心境で手を重ねると、ベル様の口元がモゴモゴと動き、そっと私の手をゆっくりと包んだ。何か言いたかったのかな?と、思いつつも一緒に畑へ歩けば朝見た状態よりずっと野菜が‥特にかぼちゃが育っている!
「すごい‥!カボチャだけこんなに早く育つなんて‥」
「そうだな。いいことだ」
「‥アヴィ様、魔法を使ってませんよね?」
「‥使ってない、ぞ」
一瞬ドキッとした顔をしたけど本当か?
しかしカボチャは好物だと言ってたし、これだけなら魔法を使ってたとしてもいいか。なにせ御誂え向きにお盆。中身は食べるとして、外側はランタンにしてもいい。ただしそうなると完全にハロウィン‥。
まぁお化けが出てくるし、ぴったりかな?
なんて思っていると、中庭に置いておいたテーブルの周りに白いお化けがふわりと姿を現した。慌ててベル様の後ろに隠れて、そちらをそっと見ると、テーブルの上に置かれたクッキーに気が付いたのか嬉しそうにチカチカと光り、クッキーに触れるとふわりとクッキーと消えてしまった。
「消えちゃった‥」
「満足したんだな。随分と嬉しそうだった」
「そういうのわかるんですか?!」
「ああ、オレンジ色に光っていたろ」
「お、オレンジ‥?!」
私には白く光っているだけのように見えたが???
もしかして光の感じ方も魔族と人間とで違うのかな?そう考えると、本当に人間と魔族って全然違う生き物なんだな。改めて驚いていると、ベル様が私の方を見て、
「では、そろそろ行くか」
「あ、はい」
頷くと、ベル様はいきなり私の体をヒョイッと抱き上げた。
「え?」
「ノルチェですぐに行く」
「ノルチェ???」
どこに黒いドラゴンがいるの?
そう思った矢先、ポーーーンとベル様が空中高くジャンプしたかと思うと、どさっと降りた所はノルチェの首元で、何が起きたの?と、理解する間もなく下の方でレーラさんの「お気をつけて〜〜」という声が聞こえた。
「え?え!?」
下の方を見れば小さくなった屋敷が見え、夕方の湖の上をベル様に抱き上げられたまま飛んでいて‥、もう目を丸くした。いや、それしかできなかった。
「すぐに着くから安心しろ」
「‥は、はぁ」
いや!その前にノルチェに乗るとか一言言って欲しい!!
でないと心臓がびっくりしちゃうから!!
そう言おうとしたのに、もう足元は町の建物の上である。
「あ、アヴィ様!いつ降りるか教えて頂きたく‥」
と、言いかけたその時、ヒュッと風の音がして、落下している事に気が付いた。
「ひぇええええええええええ!!???」
ギュッとベル様の服を握りしめると、スタッと地面に降り立ったのだろう。
周囲がザワザワとしている声が聞こえて、知らずに瞑っていた目をそろっと開けると、私を覗きこむベル様を目が合った。
その途端、心臓が大きく鳴って、
「ベル様、嫌い!!!」
町の中心(?)で叫んでしまった。
な、なんで〜〜〜!!??急いで自分の口元を手で抑えたけれど、言ってしまったものは戻せない。周囲をちらっと見れば、町の人達が驚いたような顔で見ていて、冷や汗が一気に吹き出た。
「す、すみまひぇん‥」
「だ、大丈夫だ。驚いた拍子に出たのかもしれないし‥」
「いやっ!!そうはいっても‥。あの、すみません!何故か出てしまって‥。でもそう思っている訳ではないですからね?」
「‥そう、か?」
そうだってば!
なんでかわからないけど出ちゃっただけで、嫌いとは思ってないよ。
手で口元を抑えたままコクコクと頷くと、ベル様はようやくホッとしたように小さく息を吐いた。
「‥ノルチェに乗ればすぐに来られて良いかと思ったが、帰りは馬車にしよう」
「い、いえ、せめて乗る時と、降りる時を教えて頂ければ大丈夫だと思います」
「わかった。次回はそうしよう」
うん、本当にお願いします。でないと私の心臓はいくつあっても足りないと思うんだ。‥ただそれを言うと、また大変そうだから黙っておくけどね。
今日も読んで頂きありがとうございます〜〜!




