8番目とゴースト。66
レーラさんとあれもこれもとお菓子を作っていたら、全身甘い香りになってしまった。
しかし、この大量のお菓子にお化けが満足すれば来年の私は安泰である!
来年もいるかどうかはさておき、ともかく安心材料は多くあった方が良い。レーラさんのお母さんが好きなお菓子も、ベル様が好きだというお菓子も作って、そっちはそれぞれ包んでおいた。
「はーーーー!結構焼きましたね!!」
「これだけ作るとなかなか壮観ですねぇ!それにしてもリニ様はお菓子作りもお上手なんですね」
「母に仕込まれましたから。出来ることが多くて困ることはないでしょうって言われて‥」
「素敵なご家族ですねぇ」
「はい。できれば父にはもっと狩猟の仕方をもう少し詳しく聞いておけば良かったです」
そうすれば魔物を捌く時に何かしら役に立ったかもしれない。
だがレーラさんは何を察知したのか私を見て、「鋭利な物はダメですよ」と言われてしまった。‥人間、食事を作る為に結構鋭利な物を使うよ?
魔族って人間に対してちょっと過保護じゃないかな?と、思いつつ中庭へ早速大きめのテーブルを用意し、お皿の上にこれでもか!!とクッキーを並べておく。
これでどうにか満足して成仏してくれますように!
手を合わせて必死にお祈りしていると、
「‥‥このお菓子はどうした?」
低い声が聞こえて、後ろを振り返ればベル様が立っている!
え、いつの間に帰ってきたの?目を丸くしてベル様を見上げ、
「ええと、お帰りなさい。あの、お菓子はレーラさんと一緒にお化け‥もといご家族も含まれるそうなので満足して頂けるように作ったんです」
レーラさんがニコニコと微笑みながら頷いてくれたが、ベル様はクッキーと私を交互に見て、「‥‥そうなのか」と、どこか怪訝?いや、不満そうな気配を漂わせる。うん?なんだ?何かダメなことでもあったのかな?
「べ、アヴィ様が好きだというお菓子も別で作ったんですが」
「え!?」
「えっと、もしかしてお菓子は好きではない、とか‥?」
「いや好きだ。お菓子は好きだ。ぜひ頂こう」
ものすごい勢いで好きだと宣言された。
これはもしや自分にはお菓子がないのか?と、思ったのかな。
ふむ、さては結構なお菓子好きとみたぞ。そうだよね〜、お化けにお菓子があって、自分になかったらそりゃちょっと寂しいか!なんだ〜、お菓子がそんなに好きならそう言ってくれればいいのに!
眉間にシワを常駐させているから、甘いもの好きだなんて言えなかったのかもしれない‥。そう思うと、なんとも可愛いではないか!私はニコーっと笑って、
「お菓子、そんなに好きならいつでも作りますから言って下さいね!」
「そ、そうか!」
眉間のシワを常駐させつつ、パアッと顔を輝かせる夫(仮)
今日も大変器用である。
「ええと、じゃあ早速お菓子を食べますか?」
「ああ、頂こう」
ワクワクした顔をするベル様。
こ、こんなに喜んで貰えるとは思わなかった‥。早速食堂へ行って、メレンゲを焼いたお菓子の包みを取り出すとベル様は今度は目を輝かせた。ううーむそんなにお菓子が好きなのか。なかなか良い反応に知らず顔が緩んでしまう。
小さな小箱から焼いたメレンゲを一つ取り出すと、ベル様は宝物を見るようにしげしげと眺めた。
「‥‥金庫に入れておきたい」
「いや、お菓子は腐っちゃいますから食べて下さい」
「だが、大事なお菓子だ」
「また作りますから」
「‥‥また」
ベル様は私をじっと見て、
「またぜひ作ってくれ」
「作りますよ。食べてしまったらすぐに作ります」
「そうか‥」
嬉しそうに微笑み、取り出した一つをまじまじと見つめ、それから意を決したようにパクッと口の中に入れると、小さく「美味しい」と呟いた。
「お口に合って良かったです」
「‥本当に、美味しい」
「えへへ、そうですか!じゃあ明日も作っておきますよ!それなら心配ないでしょう?」
「‥ああ」
よっぽど美味しかったのか、嬉しそうに目を細めるからいつも常駐している眉間のシワが消えたベル様にドキッとした。う、うお、シワが合ってもイケメンなのに、なくなるとますますイケメンだな!?
ついついまじまじとベル様の顔を見つめてしまうと、ベル様が戸惑ったように私を見て、
「どうか、したか?」
「いえ、眉間のシワがないと随分とまた格好いいなぁ〜と、」
と、説明した瞬間、ベル様は目を見開き、
顎から頭のてっぺんまで一気に赤くなった。
お、おお!?ものすごく照れてしまった?
ものすごく赤くなった顔を見つめると、ベル様は慌てたように「そ、そ、そうか?!!」と、声が裏返りつつも返事をしてくれたが‥。ベル様は本当に照れ屋さんなんだなぁ〜〜。
照れ屋な男性っていいですよね‥。




