8番目とゴースト。64
小説を読んでいたはずの私。
目を開けたら朝で、かなりびっくりした。
あれ?何が起こった?私は確かベル様の横で小説を読んでたよね?それで続きを読んでて、ちょっと眠いかもって、目を瞑って‥それで、
「寝ちゃったのかぁああ‥」
どうやら本を読んでいて寝てしまったらしい。
ご丁寧に首元まで掛け布団が掛けられていたから、ベル様が起こさないようにそのまま寝かせてくれたんだろう。申し訳ないやら、有難いやら‥。もそもそと体を起こして、身支度をしてから畑の方へ行こうとすれば、同じタイミングでベル様が部屋から出てきた。
「お、おはようございます!昨日は寝てしまったようで‥、」
「いや、安心して眠れたのなら良かった。畑に行くか?」
「はい。ええと、お仕事などは」
「大丈夫だ。行こう」
すでに準備万端らしい。
軍団長ってすごいなぁと素直に感心しつつ一緒に中庭の畑へ行くと、少しだけひやりとした空気が流れているもののお化けがいない。なんて素晴らしい世界なんだ。感動しつつ二人で畑へ行けば、結構な大きさにかぼちゃが育ってる!?
「え、こんなに大きくなってる!」
「ああ、昨日は実を付けていたがやはり早いのか」
「早いも早いですよ。爆速です」
驚きつつしゃがんで草の中をちょっとかき分けてみれば、かぼちゃの小さな実がなっている!どんだけ爆速で育ってるの?!まだ一週間ちょっとだぞ?!でもそうなればもう一度かぼちゃを植えられる‥いや、そうじゃない!そうじゃないな?心底驚きつつも、かぼちゃのまだ青くて小さい実をそっと撫でてみる。
お母さん、まさかのかぼちゃがもう実りそうでびっくりしています。
この事も手紙に書いておかないとなぁなんて思いつつ、ベル様と一緒に水を上げる。本当にここまで成長するなんて驚きだ。でも、これで何かあってもいつでも食べることに心配することはなさそうだ。
「リニ、その、今日は仕事をすぐに終えて戻ってくる」
「あ、はい。夕方にお出かけですもんね」
「屋台もあるらしい。それで、ついでにそこで食べたら‥と、フィプスが言っていたのだが、」
「屋台!?え、行きたいです!!」
「そ、そうか。では、そこで夕食も取ろう」
「はい!楽しみにしてます」
わ〜〜!!屋台飯!
めちゃくちゃ楽しみ!うちの島国もお祭りで屋台飯あったっけなぁ。
ただ一応王族は食べるの禁止ねって言われて、泣く泣く匂いを嗅いで終わった悲しい記憶まで蘇ったよ‥。貧乏なのに、なんでそういうのだめなの?って、お姉ちゃんに駄々こねて困らせたっけな。
だけど今回は食べに行ける!
しかも堂々と!!これはもうワクワクしかない。
ベル様を見上げれば、私のワクワクした顔を見て驚いている‥。あ、もしかしてはしゃぎ過ぎました?ちょっと恥ずかしくなって、
「すみません‥、つい大喜びしてしまって」
「いや!?喜んでくれて嬉しいぞ?そ、その、リニは王族だから屋台の飯などと思わないかと心配で‥」
「安心して下さい。王族自ら畑を耕す家で育ったんです。食材は感謝して頂く!!です。そこに身分や立場など持ち出すなど言語道断です!」
みーんなご飯の前では平等だ。
「べ、アヴィ様はどんな屋台飯が好きなんですか?」
「え、」
「一度くらい食べたことはあります、よね?」
「ああ。その、串で刺した肉なら」
「美味しそうですねぇ!」
これは今から楽しみ過ぎる!
そう思った途端にお腹がぐうっと鳴った。私のお腹、とても正直過ぎる。赤い顔になると、ベル様が小さく笑って、私に手を差し出した。あ、手を繋ぐのかな?もうパブロフの犬のように手を重ねると、それは嬉しそうに目を細めるので、つい胸が大きく鳴った。
ついでに口が「ベル様嫌い!」って叫び出しそうになって、慌てて口をギュッと閉じた。
「リニ、どうした?」
「い、いえ、ちょっと、口が勝手に動きそうになっただけです」
「そうか。呪いを解けなくてすまないな‥」
「いやっ、そこは掛けた人が悪い‥って、リリオン様はなんでわざわざ呪いをかけようとしたんですかね?アヴィ様に掛かってたら、私を嫌いって言うだけですし」
「‥‥‥そうだな。あいつは本当に悪趣味だ」
「悪趣味かどうかはさておき不思議な方ですよね」
「‥‥‥リニはどうかそのまま大きく育ってくれ」
しみじみとベル様に言われたが、私はもう大人だってば。
けれどまぁこのままでいいと言ってくれたのだけは受け取っておこう。私は悪くない感情と言葉だけは受け取っておく主義だ。
顔を上げれば、キラキラとお日様が輝き、中庭の向こうに広がる湖を綺麗に照らしている。
「お化けさえいなければ完璧なのに‥」
と、思わず呟いた私の手を、ベル様がサッと握って、
「大丈夫だ。絶対大丈夫だからな?!」
慌てて心配ないぞ!と、言ってくれた。うん、お化けさえいなければ私も大丈夫だよ。なにせ大人だからね。
今日も読んで頂きありがとうございます!




