8番目とゴースト。61
フィヨルムでは毎年この時期になると、亡くなった方がお化けの姿になって十日間も思い出の場所を巡るそうだ‥。
うん、それお盆だね。
でもなんでお化けの姿になってこの世に現れるの!?その間、お帰り〜とばかりにお祝いするらしいけど、怖いどころの話じゃないよ?と、心の中で慟哭するに留めた私を誰か褒めてくれ‥。
結局、あれからビビり散らかす私を心配して、ベル様の仕事場にお邪魔することになった。
うううっ、怖がりでごめん!ビビっちゃってごめん!迷惑かけちゃってごめん!と、どこか懐かしい歌の調子を思い出しつつも、いきなりお化けが出てくるので、仕事をしている真横に椅子を置かせてもらい、レーラさんが部屋から持ってきてくれた本を読むことになった18歳児。
山積みの書類にサインをしたり、チェックしているベル様をチラリと見るが、お化けが怖い私を心配してくれるのは嬉しいが、申し訳ないなぁなんて思っていると、ベル様が私を見て、
「‥少しは落ち着いたか?」
「え?あ、は、はい。すみません、ご迷惑を」
「いやっっ、ふ、夫婦なんだし、問題ない」
「そ、そうですか?」
夫婦といっても仮免許のようなものだしねぇ。
そもそも正式に夫婦でもないのに、こんな大事な書類なんかもあるだろう仕事場にお邪魔させて頂いて申し訳が立たないというね?まぁ守秘義務はきっちり守りますけど。
と、突然ふわっと扉から白いお化けが出てきて、ものすごい勢いでベル様の腕を掴むと、ベル様がカチッと体を固めてしまった。す、すみません!照れ屋なのに!でも怖い!怖いんだって〜!
ギュッとベル様の腕を掴んで、こっちへ来ませんように!と、祈るように見ていると、ベル様が私の手をトントンと叩き、
「だ、大丈夫だぞ」
そういうと、引き出しから飴の包みを取り出すと、それをお化けの方へ放り投げた。
「へ?」
飴を受け取ったお化けがチカチカと光ると、スッと突然消えて、私はまた目を丸くした。
「い、今のは一体‥」
「久しぶりに帰ってきた精霊に何かしら食べ物を手渡すと、喜んで消えるんだ。リニもいくつか持っておくと良い」
「は、はいっ!!」
引き出しから取り出した飴の包みをいくつか貰って、早速ポケットにしまっておいた。これはいいことを知ったぞ!これなら何かあっても飴を投げれば大丈夫だ!ホッと息を吐くと、ベル様が私を見て小さく微笑んだ。
「‥大丈夫、そうか?」
「はい!これなら夜も多分寝られ、ます?」
「夜は嫌でなければ、寝るまで側にいる。寝てしまえば大丈夫だろう」
「流石にそれは申し訳ないですよ」
「ふ、っ夫婦だし、問題ない!」
「そうです、かねぇ?」
私の言葉にベル様がコクコクと頷いた。
うーーーーん、年頃の乙女が若い(?)男性に寝かしつけてもらうって不味いよねぇ?でもお化けは切実に怖い。寝るまでなら、まぁいいか?
「じゃあ、あの寝るまではいて貰えますか?」
私の言葉にベル様の顔が一転して輝いたように見える。
眉間にシワがまだ滞在しているからちょっとわかりにくいけど。
「もちろんだ。そうだ、そろそろ野菜の水やりにも行かないとな」
「え?もうそんな時間でした?なんだかあっという間ですね」
「ああ。でも大丈夫だ。一緒にいるからな!」
書類をささっと片付けたベル様が私に手を差し出してくれた。
ううむ、仮の夫婦とはいえここまで心配してくれて本当に有難いな。そうでなければ私は多分1日目で帰っていたかもしれない。いや、1日目は何がなんだかわからないうちに結婚してたか。大きなベル様の手をそっと握って、顔を上げればこちらを心配そうに見つめる黒と赤の混じった瞳。
「リニ?」
「あ、えーと、アヴィ様がいてくれて良かったなぁと思って‥」
ベル様の目が大きく見開いて、私を見つめた。
瞬間、ベル様の尖った耳がぎゅ〜〜っと下から上に漫画のように赤く染まり、私は目を丸くした。だ、大丈夫そう?
「アヴィ様、体調とか大丈夫ですか!??」
「だ、大丈夫だ!問題ない!」
とか言いつつ、足と腕が同時に動いてますけど?
しょきしょきと歩くベル様にちょっと心配だけど、まぁ大丈夫かな‥。しかし「いてくれて良かった」という言葉だけで、そんなに照れてしまうとは‥。我が夫(仮)は照れ屋で控えめな性格なのかもな。
ほっこりしながら一緒に中庭へ向かうけれど、これなら十日間なんとかなる?と、少しだけ希望を持てた私であった。お化けは変わらず怖いけど。
何故この生命に満ち溢れた地球にお化けがいるのだろう‥(哲学




