8番目のお迎え。5
突如として現れた二度目ましての夫になる予定のオルベル様。
薄っすらとした記憶では若い姿だったけれど、あれから15年。すっかりおじさんになっているかと思ったが、全然若い。お兄ちゃんと同じくらい?
「‥‥おじさん、じゃない」
思わずボソッと呟いた私を、オルベル様が少し驚いたような顔をした。
あ、まずい。まずは挨拶だ。慌てて椅子から立ち上がって、触るのを躊躇ってしまうくらいの綺麗な白いドレスのスカートを少しだけつまんで、普段なら絶対する機会のないカーテシーをする。
「お久しぶりです。リニ・プレファンヌです。今日はこのような素敵なドレスを用意して頂きありがとうございます」
にっこり笑って挨拶をすれば、オルベル様は15年ぶりの再会を喜ぶどころか、グッと眉間にシワを寄せ、
「‥‥‥‥ああ」
と、いう一言のみ。
返事がそれかーい!今日、私と貴方結婚するんだよね?!レーラさんにドレスを着せてもらってなかったら、絶対違うと思ってたよ?それともやっぱり結婚するつもりはなくて、ここまで来ちゃった‥とか?一応確認しておくか‥と、こちらへ一歩も近寄る様子のないオルベル様を見上げ、
「あの、もしかして結婚は反対‥ですか?」
「は?」
「ええと、その、嫌だったりとかは‥」
そう言った途端、とても本日結婚する相手に発するものではないくらいの真っ黒いオーラが後ろから噴出!!‥したような気がした。
「‥‥‥誰かが、反対しているのか?」
「いえ!!!一応確認!確認しただけです!!」
「‥‥そうか、それなら大丈夫だ。用意はもう出来ているならこのまま城へ行く」
「城?」
「魔族に教会なぞない。王に結婚の報告をすれば、それで結婚したことになる」
「は、はぁ、左様ですか」
確かに魔族が神様にお祈りするとか、全然想像できない。
それで王様の所に‥って、待て。
「王様?!」
「普通に役所に書類を持っていけば済むんだが、周囲がうるさいからな‥」
ちょっと待てーーい!
魔族ってのは1日も待てない生き物なのか?!
私はまだこの国に来て、1時間くらいしか経ってないのに、この国の王様に会うの?!
驚きすぎて戸惑っている私の方へ、カツカツとブーツを鳴らしながらこちらへようやく近付いて来たオルベル様。3歳ぶりの再会だけど、時が止まったままのように若々しく、そしてイケメンだ‥。こんなにイケメンだったのになんで顔を忘れていたんだろう。多分「ま、どーせ結婚しないっしょ」って思ってたからだろうな。
自分のこととはいえ、私は本当に呑気だな‥。
見上げるほどに大きなオルベル様は、私にそっと手を差し出して、
「そんな訳ですぐに城に行くぞ」
「え、えっと、」
「ちょっとお待ちをオルベル様!!!まだ花!!花を飾っておりません!!!」
バーンと扉をぶち破る勢いでレーラさんが現れ、私が目を丸くすると、オルベル様は呆れたようにレーラさんを見て、「ノックをしろ」と、言っただけ。そ、そんな気安い感じなんだ。
魔族といったら、絶対的な力で仲間でさえも服従させるイメージだったけど、なんだかうちの家族と変わらない感じなんだな‥と、どこか安心している間に、私は3人のレーラさんに囲まれて顔や服に花を飾られた。‥人間花瓶になったようだ。
そんな花だらけになった私をオルベル様がじっと見つめた。
おお、目の色が黒と赤が混じり合ったような綺麗な色をしている‥。見たこともない色合いの瞳が珍しくて私もジッと見つめ返すと、オルベル様は急にプイッと横を向いた。あ、不躾に見ちゃったかな?よくよく見れば耳も尖っていて少し赤い。やっぱり魔族なんだな〜と、今更ながら実感した。
そっと、そんなオルベル様に差し出された手を握れば、オルベル様はゆっくりと私の手を握り、
「‥‥大きく、なったな」
と、しみじみと呟いた。
そりゃ3歳児から今や18歳児ですからね。大分大きくなりましたよ。
一人頷く私を横に、レーラさんがオルベル様をせきたてた。
「ほらほら、オルベル様!早く行かないと!狩ってきた魔物は血抜きしておきますから、まずは王城へへ向かって下さい!」
「ああ、そうだな」
ということは、またドラゴンに乗るのかな?
すると、一瞬目の前の風景がゆらりと揺れた。
「へ?」
パチパチと瞬きをすれば、そこはどこまでも天井が高く、大聖堂のような広い場所で、大きなステンドグラスの窓からは光が差し込む場所。
「ここって‥」
「王城だ」
「え!??」
いきなり王城?!
ど、どうやって‥?目を丸くする私の手を握ったままのオルベル様は、私をジッと見つめた。
「安心しろ。いざとなったら叩きのめす」
「叩きのめす‥‥?」
結婚の許可を取りに来たはずなのに、なんかいきなり物騒なんだけど、私は本当に結婚をするのでしょうか?もう不安を通り越して命の安全さえ危ぶまれるんだけど、私も武器でも持ってくるべきだった?
ドッキドキの結婚式〜★




