8番目、いざ戦いへ(?)58
妃候補が無事に決まって、あとはのんびりお茶会らしい。
シュナさんはヴェリ様とお話をしなければならないらしく、真っ赤な顔で「無理ですぅうううう」と拒否していたが、そこはお断りは難しいと思う‥。
リリオン様が眉を下げて、
「仕方ないねぇ。キルシュナは強いけれど、その辺はまだまだ赤ちゃんだもんなぁ。どれ、おじさんが一緒にいってあげようね」
「リリオン様ぁあああ!!ありがとうございます!」
ガシッとシュナさんがリリオン様の手を握ると、目の前のヴェリ様がじとっとリリオン様を睨んだ。
「叔父上、私の婚約者に手を出さないで下さい」
「出してないけど?!」
「ほら、キルシュナ。私の手を握ってね」
「ふあぁああ!??む、無理ですぅううう!!」
慌ててリリオン様の後ろに隠れたシュナさんを、私とベル様はどこか呆然として見つめた。‥‥なるほど、シュナさんってヴェリ様のことが好きなのかな‥。そしてヴェリ様も同じ。でも、恥ずかしくて側にいられないって感じなのね。
ようやくシュナさんが「無理」って言ってた理由がわかったわ。
と、一人で納得していると、ベル様が私を見て、
「お茶でも飲んでから帰ろう。リリオン、キルシュナを頼む。ヴェリはほどほどにな」
「そんな!!オルベル様!?」
「さ、キルシュナ。叔父上がちょっと邪魔だけれど、これからの事を話しておこうね。では、リニ嬢、オルベルまたね」
「は、はい」
リリオン様がシュナさんの手を繋いで「こっちだよ〜。怖くないよ〜」と、あやしながらヴェリ様と一緒に闘技場をあとにするのを見送った私とベル様。ま、なんとか‥なる?
「‥まったくキルシュナもヴェリも面倒だな」
ボソッと呟いたベル様の方を見上げた。
「べ、アヴィ様は知っていらしたんですか?その、シュナさんとヴェリ様の事」
「あれだけ分かりやすいとな」
「そ、そうだったんですね‥」
私は今さっき気付いたよ‥。
「私は初恋もまだなので、ああいうの気が付けなくて‥。アヴィ様はすごいですね」
「‥‥まだ、」
「はい?」
驚いたようなベル様の顔を見て、何か変な事を言ってしまっただろうかと首を傾げると、ベル様は小さく首を横に振った。
「‥‥そうだな。人の事はわかるんだがな、」
「そういうものなんですね」
「ああ‥」
ベル様は私の握っていた手をそっと引っ張って、
「お茶、していくか。お菓子も確かあったな」
「お菓子‥!」
目を輝かせると、ベル様は小さく笑った。
そうしてお茶が用意されている会場まで向かったが、よく考えたらお茶菓子に目を輝かせているって子供だよね?いやまだ18歳。十分子供だ。
会場にはそれは綺麗に盛り付けられたお菓子に目を大いに輝かせた。
味もどれも美味しくて感動していると、ベル様が私をじっと見て、
「甘いもの、好きなんだな‥」
「あ、はい。すみません、食べ過ぎ、ですかね?」
「いや、しっかり食べて大きくなれ」
「これ以上は成長しませんよ」
まだ成長すると思っているのか、ふはっと笑うと、ベル様が私の笑う顔をじっと見つめた。な、なに?変な顔でもしてた?口元を思わず手で隠そうとすると、ベル様が小さく笑った。
「‥楽しそうにしているのを見るのは、いいものだな」
「それは‥、皆、同じでは?」
「そうじゃないのもいるだろう」
「‥あ〜〜、そうですねぇ」
さっきの貴族の人達みたいな?
チラッと視線だけ動かすと、ベル様がまた小さく笑った。
「そろそろ帰るか。ここは視線が多い」
「はい。あ、呪いは‥いいんですか?」
「まぁ、仕方ない。一週間は名前さえ呼ばなければ大丈夫そうだしな」
「そっか。そうですね。でも、今となっては名前の意味を聞くと照れ臭いですけど‥。アヴィ様って、ものすごく愛された名前だったんですね」
「‥そうだな」
私の言葉にベル様は少しだけ寂しそうに微笑んだ。
ん?なんで??もしかして私は何かまたやっちゃったのかな?ふとそう思った私にベル様が手を差し出した。
「名前が呼べるようになっても、時々呼んでくれるか?」
「え!?う、うーん、恥ずかしいから二人の時だけなら‥?」
「二人の時だけの方が御誂え向きの言葉だしな」
「へっ!?あ、そ、そうですね?」
私のお星様だもんね!
そりゃそうだな!?でもそれってなんだか恋人っぽい気もするな?!
まだ恋人どころか、好きにもなってないのに二人きりで呼ぶって恥ずかしい、よね?ベル様の差し出した手に、自分の手をそっと重ねてから視線だけ動かしてベル様を見上げると、どことなく嬉しそうに私を見つめていて‥。
胸がびっくりしたように飛び跳ねて、不意に叫びたしたくなったんだけど、なんでだろ‥。
やっとここまで来た感‥‥!!!




