8番目、いざ戦いへ(?)51
真っ黒いスーツだけど、パーティー用だからか華やかな装いのベル様を見て、ドキリとした。
だって格好良い。
昔読んだ物語の王子様みたいだな〜って思った。
なのにそう呟いたらベル様は驚いた顔をするし、レーラさんとフィプスさんは吹き出した‥。ええ〜〜?なんで〜〜?格好良いよ??どうにも解せない気持ちの私をベル様がチラッと見つめ、
「‥リニも似合っている」
「え?」
「‥今回のも、その、綺麗だ」
そう言うと、さっと目をまた横に逸らしたが、尖った耳が赤くなっている‥。
夫(仮)、近所のませた男の子よりずっと純真なんじゃないか?私はまじまじとベル様を見上げ、にっこり微笑んだ。
「ありがとうございます。ベ‥、アヴィ様が色々用意しておいてくださったので、助かりました」
「そ、そうか」
「はい!今日は転移で行くんですか?」
「ああ」
ベル様は私の方へ手を差し出してくれて、そっとその大きな手に自分の手を添えると、ベル様が小さく微笑んだ。‥うっ、口がムズムズする!うっかり「嫌い」って叫びそうになって口を引き締めると、
「野菜の水やりは先にしておいた。安心してくれ」
「え、もう?!あ、ありがとうございます」
「夕方までには戻る。帰ったら一緒に水やりをしよう」
「はい!」
嬉しいなぁ〜、ちゃんと覚えててやってくれるなんて‥。
ベル様の手をそっと握れば、照れ臭そうに私の握った手を見つめたベル様。可愛い上に照れ屋とか‥。こんなに大きくてむきむきなのにギャップが面白い。
「‥行ってくる。レーラ、フィプス、留守を頼む」
「はい!かしこまりました」
「オルベル様!笑顔!笑顔ですよ!」
二人に笑って見送られ、あっという間に私とベル様は転移をして‥、パッと、つい数日前に訪れたお城の玄関に立っていた。ただ、パーティーの為か今回は人が大勢並んでいた。
おお、ものすごい人だ〜!と、魔族といってもやっぱり貴族!
色とりどりのドレスを着た人達に驚いていると、
「見ろ、オルベル殿だ」
「あれが結婚した相手?」
「まだ子供じゃないか‥。と、いうか人間?」
「王族だが大した事ないそうだな」
並んでいた人達が、こちらを一斉に見てヒソヒソ話すのでちょっと緊張する。うーん、この空気久しぶり。私もたまーに隣の国で会合するけれど、なにせ貧乏国家なのでこんな感じで色々言われるんだよね‥。
想像はしてたし、多少慣れてはいるけど、いい気分はしない。だが女は度胸、愛嬌、最強だ!王族スマイルで我関せず!と、にっこりすると、
「リニ、こっちへ」
「え?」
ふわっとベル様のいい香りがしたと思ったら、黒いマントが私を包んだ。
「ふぇっ!?」
ベル様がマントの中にすっぽりと隠すように包むと、もうゼロ距離だ。
驚いて目をまん丸している私を、マントの上からポンポンと優しく叩くと、
「このまま城内へ向かう。不躾なのが多過ぎる」
「は、はい‥」
これは‥、庇ってくれたのかな。
目を合わせただけで照れてしまうのに、マントにすっぽり包むなんてベル様大丈夫なんだろうか?耳どころか顔まで真っ赤になってないかな?ちらっと視線だけ上げてベル様を見上げれば、真っ直ぐに前を見て歩いている。
お仕事‥と、なると別人なのか。
ちょっと感心して、私も気を引き締めないと‥!と、思っていると、
「オルベル様?リニさんは‥」
あ、昨日ぶりの声だ。
マントからちょこっと顔を出せば、やっぱりシュナさんが立っている!
でも今日はパーティーだからか、真っ青なタイトな感じのドレスを着ていて‥、ハッとするほど綺麗だ。
「わ、シュナさん、すて‥」
「はぁああああああ!!!か、可愛いぃいい!!!」
「っへ?」
「マントの中に隠されているとか!ええ!もう可愛いらしいが過ぎますぅううう!!」
「シュナさん、抑えて。抑えて下さい」
「あっ!そ、そうでした!すみません‥、つい、あまりにも可愛らしくて」
それはシュナさんでは???
同意を求めるべくベル様を見上げると、ベル様は目を彷徨わせながら「確かに」と、呟いた。えーと、それはシュナさんのことで合ってるよね?ベル様のマントからそっと出てくると、シュナさんは私をまじまじと見つめ、
「あぁああああ!ドレス、とても似合ってます!最高です!」
「あ、ありがとうございます。シュナさんもとても素敵です」
「うふふ、ありがとうございます!」
昨日よりも大分顔が晴れやかでホッとしていると、シュナさんの髪飾りがズレているのが目に入った。
「シュナさん、髪飾りが‥」
「え?」
「あの、一度化粧室で直しましょう。べ、アヴィ様、少しだけ離れますね」
「‥‥わかった。気をつけろ。何かあればすぐ呼べ」
「はい」
ベル様がそう言いつつ、周囲を見回し、
「何かあったら、キルシュナ殺れ」
「はいっっ!」
「待って下さい!刀傷沙汰はご法度ですからね!??」
パーティーは確かに戦場だけど、本当の戦場にしちゃダメ!!
これ以上殺意を高めない為に、私は急いでシュナさんと一緒に化粧室へ駆け込んだのであった‥。
シュナさんは本気でやる女です。
(何を、とは言わない)




