8番目、呪われる!49
シュナさん、どうやら昨日までパーティーのことをまるで知らなかったらしい。
あ、うちもですよ?
って思ったけれど、流石にお妃候補の人にはもっと前から知らされていたらしい。それをお父さんの方が「驚くだろうし」と、伏せていたそうな。そりゃ余計びっくりするよねぇ。
ひとまず食堂でお茶を淹れて、そっとシュナさんの背中を撫でると、ベル様がじとっとシュナさんを見て、
「妃候補は、結構前から言われていただろう」
「そうは言っても、いきなり今朝「明日は妃候補を選定するパーティーがあるから出席するように」なんて言われたら驚きます!!仕事も勝手に調整されているし‥」
「そりゃ二重でびっくりしちゃいますね」
「そうなんです!!だからどうしようかと思ったら、こちらへ‥」
そっか、そっか。
ベル様も上司だし、相談したかったんだねぇ。と、どこか微笑ましく思っていたら、シュナさんが涙目で、
「私っっ、可愛いものが好きなのに、全然違うヴェリ様と結婚なんて無理です!!」
「んえっ!?」
思わず隣にいるベル様を見上げると、静かに頷き、
「ヴェリはそうやって嫌がるキルシュナを面白がって、なんだかんだと言っては妃候補の中にずっと入れているんだ」
「‥‥‥えーと、好意からくる意地悪ってやつですか?」
「‥‥‥俺は、そういう考えがよくわからん」
一部始終を見ていたレーラさんとフィプスさんがこそこそと、
「そりゃベクトルが一方通行だしね」
「ある意味また違った執着ですよね」
と、話しているが、ええと、それは誰の話かな?
ベル様がじろっとそちらを睨めば、二人はまた口を閉じたけれど‥、とにもかくにもシュナさんは王様との結婚はしたくない、と。
「妃候補を断るって、難しいんですよね?」
「王族だからな‥。どう考えても無理だろう」
「じゃあ、明日のパーティーで選ばれないように振る舞う!とか‥?」
「キルシュナは上位貴族だ。ふざけた態度をすればそれはそれで問題だ」
「‥う、打つ手なし?!」
ええ〜〜〜!?じゃあ断れないままにお妃様に選定されちゃったら大変だよね?シュナさんは涙目で、
「すみません‥。私が普通に考えても光栄な話なのですから、お受けするべきなんです」
「そんな!まだ正式に決まった訳じゃないのに‥」
「でも、王族から結婚の打診が来たら‥。いえ、こんな大きな私の元へ打診がくるはずはないと思うのですが」
「シュナさんはとても可愛らしい方ですよ?とはいえ、王様もいささか強引ですよね。結婚したいなんてシュナさん仰ってないんですよね?」
小さく頷いたシュナさんの背中を撫でながら、
「そもそも勝手に妃候補として決めるなんて失礼ですよ!本人が望んでいるか確認だってするべきだし、こそこそ用意していきなり明日っていうのもどうかと思います!」
と、言えば横でベル様がテーブルにドンと額をぶつけた。
「え!?ベル様、嫌い!!!あ、ああ〜〜失礼しました!アヴィ様、どうしたました?」
「‥‥‥‥‥いや、大丈夫だ」
「で、でも、かなり強くテーブルにぶつかってませんでしたか?」
「大丈夫、だ‥」
ゆっくり顔を上げたベル様が、シュナさんを見て、
「‥万が一選ばれることになれば、俺が反対する」
「「え!?」」
「こっちも色々あってな。きっちり反対してやるから安心しろ」
「ほ、本当ですか!?」
ベル様の言葉にシュナさんは顔を輝かせ、「どうかお願いします!!」と、勢いよく頭を下げた。‥そ、そんなに嫌だったのか。まじまじとシュナさんを見つめると、少し恥ずかしそうに顔を赤らめ、
「私、こんな大きいのにお妃とかガラではないですし、何より私の可愛いもの好きがバレたら恥ずかしくて‥。それにようやく軍団長として働き始めたばかりなのでそちらも頑張りたいんです!」
「シュナさん‥」
「あ、それとお勧めの恋愛小説も持って参りました!上中下巻とありますから、どうぞ楽しんで下さい」
ドドン!と、広辞苑?ってくらいの厚さの3冊がテーブルに置かれ、これは長寿の魔族だから楽しめる分厚さでは‥?と、思ったけれど、とりあえず受け取ると、レーラさんが「お部屋へお持ちしますね」と、軽々と部屋へ運んでくれた。
「はぁ、オルベル様やリニさんに相談して、少し心が軽くなりました。明日は会場でお会いすることになると思いますが、どうぞよろしくお願いしますね」
「は、はい!あのっ、こちらこそどうぞよろしくお願いします」
「はい!!」
私の手を大きなシュナさんの手がそっと優しく包んでくれて、二人で微笑み合う。魔族って怖い存在だって思ってたけれど、シュナさんは優しくて可愛いな。玄関までお見送りすると、また翼を背中から出して帰っていったけれど、さて明日はどうなるやら‥。
隣にいるベル様を見上げれば、ぱちっと目が合った。
「明日、大丈夫そう、ですか?」
「散々こっちを邪魔したからな。絶対やり返す」
‥なるほど、結婚が期間限定になったしねぇ。
でも私はその制度助かってるよ?とは言えないので、そっと微笑むに留めたのであった。
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