8番目のお迎え。4
レーラさんと一緒に長い飴色の階段を登って奥の部屋へ案内されると、薄い可愛いピンクの壁のだだっ広い部屋に、シャンデリアと大きな天蓋付きのベッド。白い窓枠に囲まれた広い窓の向こうには、綺麗に整えられた庭園が見えた。
「え‥‥?」
何これお城?
なんならうちの子供部屋よりもずっと広い。
「やっぱり小さいですよね」
「いえ、すっっっごく広いですよ??!」
「そうですか?本当に?本心ですか?」
「誓って本心です。こんな素敵な部屋を用意して頂いて嬉しいです」
「まぁ!そうですか?それなら良かったです」
レーラさんが心底ホッとしたような顔をしているけれど、私は逆にこれ以上広い場所に通されたら驚き過ぎて魂が抜けていたと思う。心配されているけれど、この規模で本当に良かった‥。
「それでは、お茶を飲んで一息ついたらすぐに結婚式の準備をいたしましょう」
「え!??も、もうですか?」
「はい!!オルベル様がそれはもうずっと楽しみに待っておりましたからね!!」
「楽しみに‥、」
3歳の私を半ば脅すような形で結婚の約束を取り付けたけど、それ以降一度も会いに来なかったのに楽しみ‥?本当に‥?とはいえ誕生日プレゼントだけは欠かさず贈ってくれたしなぁ‥。
そもそも本当に結婚するの?
なんて思っていると、レーラさんがパチンと指を鳴らすと、もう一人レーラさんが現れて、目を丸くした。
「え、も、もう一人?!」
「ああ、こちらは私の使い魔なんです。ちょっと貴方お茶を持ってきて頂戴」
レーラさんそっくりの使い魔はコクッと頷くと、すぐに部屋を出ていったけれど、いきなりの分身の術(?)にびっくりして私は口をパクパクと開けるだけだ。あれ?ってことは‥、
「レーラさんも、魔族‥?」
「はい、魔族です。他にもドワーフや獣人も多少おりますが‥」
「という事は、今のは魔法‥、ですか?」
「そうですね。厳密言うと少し違いますが、そのようなものです」
「す、すごい‥!!!」
女性の魔族ってだけで格好いいのに、魔法まで使えるとか‥、ついレーラさんを格好いいなぁとまじまじと見てしまうと、レーラさんは少し照れ臭そうに咳払いをすると、すぐそばにあったテーブルまで案内して椅子に座らせてくれた。
「お茶をお持ちしました」
レーラさんの使い魔さんが音もなく扉を開けて現れると、出てきたのは摩訶不思議な色をした‥お茶?
「虹色なんですね‥‥」
「はい!これはなかなか採れない茶葉でして!すっごく美味しいんですよ!」
「そ、そうなんですね‥。い、頂きます」
いきなりのお出迎えに、見たこともない色のお茶!
一瞬どうしようかと思った。魔族の価値観も考え方も好みも生態も何もわからないけれど、レーラさんが珍しいお茶を用意してくれたのだ。ここはまずはお茶を頂くのが礼儀ってものだろう。
ドキドキしながらもお茶を飲めば、
「お、美味しい‥‥‥?」
「そうですか!良かったです」
レーラさんが心底ホッとした顔をしたけれど、虹色のお茶は最初は甘く、その後すぐにスースーして、最後にパチパチした‥。魔族の飲むお茶って面白い。ちびちびと飲めば、何とかいける‥?お茶を飲む私を、レーラさんはそれは嬉しそうに見つめ、
「そろそろオルベル様も狩りから戻って参りますから、その間にドレスを着ましょう」
「狩り!??」
「はいっ!美味しい魔物を取りに朝から出かけたんですが、そろそろ戻るかと‥」
「自給自足する方、なんですね‥」
私はてっきり豪勢な食事が出てきたらテーブルマナー全然知らないので、どうしよう!と、思っていたのでちょっと安心したよ‥。うちの兄さん達もよく狩りをしてたしね。
静かにカップを下ろすと、レーラさんは腕まくりし、
「ではっ、早速着付けしましょう!お化粧も!ええと、そうなるとあと3人くらい必要ですね!」
「へ?」
パッとレーラさんが更に3人増えて、目を見開いた。
ま、まだ増やせるの!?口をあんぐり開けた私を、レーラさん達があっという間に私をお風呂へ引っ張ってくと、問答無用であちこち洗い、前世だって見たことのないくらい素敵な白いドレスを着せられ、化粧をし、髪を結われた。
す、すごい‥。
全然結婚する実感が何一つ湧いてないのに、どんどん進められている。しかもまだここへ来て1時間も経ってない。
「出来ました!!」
「お、おおっ‥!」
自分の顔とは思えないくらい綺麗に化粧をされ、またもびっくりした。
人ってこんなに変われるのか‥。鏡で自分じゃないような顔を見ていると、レーラさんが「花も欲しいところですね‥。よし、取ってきますので少々お待ちを!」と、言うと部屋を飛び出していった。
ヴェールに星のように光る宝石が縫い付けられ、白いドレスにもふんだんにレースが縫い付けられていて、その上に花?!そこまで華美じゃない私の顔が完全に負けてしまいそうだけど‥。と、ドアがノックされた。ん?レーラさんかな?
「はーい」
ひとまず返事をすると、ゆっくりと扉が開いて、そこから黒い前髪が一房赤い、ものすごく背が高く、それはもう目も覚めるような顔の良い男性が入ってきた。
えっと‥どなた?
「あの、」
「‥‥‥オルベルだ」
「へ?」
オルベル‥。
オルベルって、もしかして私と二度目ましての夫になる人?
うまく動かない頭で、私は本日夫になる予定の人をまじまじと見つめてしまった‥。
やっっっっっっと夫登場です!!!




