8番目、呪われる!44
兎にも角にもベル様と、呪いを抱えつつの生活を慣れていこうと話をした。
「‥別に、嫌いと言われても、大丈夫だから安心してくれ」
「わかりました。私も気をつけま‥嫌い!!き、気をつけます!」
なるべく早口で話そう。
そうすれば嫌いと言わなくて済むかもしれない‥?
午後はベル様は書類仕事をするそうだ。私も何かお手伝いできればいいけど、嫌いを連発してしまったら申し訳ないしなぁ‥。ベル様はチラッと私を見て、
「俺の部屋で、本でも読むか?」
「え?」
「‥まだ、ガラスが直ってないそうだし、」
「あ、そういえば‥。ええと、お邪魔でなければ?」
「大丈夫だ。じゃあ、すぐ行くか」
「は、はい」
心なしか嬉しそうに見えるけれど、気のせい‥ではないよね?
どうも大きくて、全身黒い服を着ているから威圧感がすごい。‥まぁ、中身はちょっと不器用で照れ屋さんって感じだけど。美味しいお昼にご馳走様をしてから、一緒にベル様の部屋へ入れば昨日のベッドの香りがする。
やっぱりいい匂いだな。
「お邪魔します」
「あ、ああ。そこの、ソファーにでも掛けてくれ」
「はい。ありがとうございます」
大人が一人寝転がっても余りそうな大きなソファーに座ると、固すぎず、柔らかすぎず、いい座り心地だ。こりゃ読書も捗りそうだ〜。魔族の本を少し読んで、それから送ってくれた本を読んでみようかなと、あれこれ考えながら本の表紙を見ていると、何やら視線を感じて顔を上げると、ベル様がこちらをじっと見ていた。
「べ、じゃなく、アヴィ様、どうかしましたか?」
「なっ、なんでもない」
「そうですか?何かお手伝いは‥」
「大丈夫だ!!」
「はぁ‥」
なんだ〜、お手伝いする気満々なんだけどなぁ。
まぁでもまだ仮の結婚だしね。機密情報とかもあるだろうから、無理を言うのも良くないだろう。魔族について書かれた本を開いた瞬間、コンコンとドアがノックされた。
「フィプスです。入ります」
「‥なんだ」
ベル様の眉間のシワが復活して、フィプスさんをジロッと睨むと、
「手紙のリストを調べましたが、例の人物で間違いないかと」
「‥っち、あの野郎」
「ただ例の人物だとわかったお陰で呪いを解く方法もわかりました」
「なっ、どうするんだ!?」
呪いが解けると聞いて私も思わず腰が浮く。
呪いを解く方法が見つかったならすぐにでもどうにかしたい!私とベル様がフィプスさんを見ると、
「‥‥口付けです。定番の」
口付け?
口付けっていうと、あの口と口をくっ付ける、キスとか、口吸いとか言うやつですよね?
私とベル様は思わず顔を見合わせた。
うん、無理だ。
だって私達、会って間もないんだよ?!
そこへきてキス!??キスってのはさぁ、心と心が通い合ってから双方同意の元でするものだよ?!それを「いや〜〜、呪いに掛かっちゃったからキスをして呪いを解こう!」なんてホイホイするもんじゃないよね?!前世じゃお姫様がカエルとキスとかもあったけど、いや同意って知ってる?!っていうか、爬虫類無理!って思って‥、ああ、違う違う。今はそうじゃない。
私は深呼吸をして、
「もし、キスをしなかったら呪いはどれくらい続くんでしょうか?」
「そうですね‥。一週間は確実かと」
「一週間‥」
と、なると王家のお嫁さん候補の選定会には間に合わないのが確実か。
それはそれでベル様が困るよねぇ。でも、いきなりキスはねぇ‥と、同意を求めるべく、もう一度ベル様を見ると、耳を真っ赤にしたまま固まっていた。
あ、そうだった。
照れ屋さんだったっけ。そういう話、恥ずかしくなっちゃうのかな。
「べ、アヴィ様、私は一週間このままでも大丈夫です」
「え、あっ、」
「こういった行為は双方の同意が大切ですしね!無理せず過ごしましょう」
「い、いや、でも」
「パーティーまでに私も対策を練ります!よーし!フィプスさん、他に気をつけることがあったら教えて下さい!」
「り、リニ‥」
恥ずかしがる相手に無理強いするなんて、そんな所業できるか!
しかも我々は結婚したとはいえ、まだ仮免許。そんな相手にキスなんて出来る訳ないもんね。ニコッとベル様に「安心して」とばかりに微笑み、フィプスさんを見れば、大変複雑そうな顔をして、
「‥‥本当にいいんですか?」
なんて聞くから、力強く頷いた。
「こんな時だからキスなんて、失礼ですしね!それまでなんとか頑張ります!!」
「‥そうですね。じゃあ、そんな訳でオルベル様も頑張って頂きましょうね」
フィプスさんがそういうと、ベル様は静かに椅子に座って机の上を虚ろな目で見て、
「‥‥‥‥‥ああ」
と、小さな声で呟くように返事をした。
双方の合意なきイチャイチャはいけないからねぇ‥(ニタリ)




