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8番目のお迎え。2


本日中に結婚式‥!?と、驚く私にフィプスさんは手をパンと叩き、


「さ、それでは参りましょう!こちらへどうぞ」

「えっと、は、はい」


半ば私の背中を押すように、山のように大きな黒いドラゴンの方へ連れていかれると、大きなドラゴンは黄色のギョロッとした大きな目でチラリと私を見ると、ゆっくりと体の向きを変えた。背中側を私に向けると、そこには小さな小屋のようなものが付いていた。



「これって‥、」

「リニ様は人間ですからね。我々魔族はドラゴンの背中に乗って移動するのは全然平気なんですが、リニ様だと背中から落ちてしまうでしょうから、小屋を取り付けておきました。ささ、どうぞお入り下さい」

「あ、ありがとうございます‥」



フィプスさんに手を引かれ、私はドラゴンの背中に乗り、小さな小屋の扉を開けてもらった。人が一人入れるくらいの大きさで、小さな窓も付いている。ドラゴンの背中にこんなもの付けられるんだ‥。ちょっと驚きつつも、中へ入る手前で後ろを振り返って、心配そうなお父さんとお母さんに、


「いってきます!お父さん、お母さん、手紙を書くね!今までありがとう!」


そう言うと、お父さんとお母さんは途端に顔をくしゃっと歪め、



「お腹を冷やさないようにちゃんと布団をかけて寝るんだぞ!」

「好き嫌いせずご飯を食べるのよーー!」

「はーい!」



別れの言葉がそれかーい!とも思ったが、咄嗟にはそうそう出てこないか。私はもう一度手を振ってから自分の荷物が入ったカバンを持って小屋の中に入ると、大きなソファーが目に入った。フィプスさんに「そこの椅子に座って下さいね」と、言われてふかふかな座面に座れば、ゆっくりとドラゴンが体を動かすのがわかった。


急いですぐ横にあった小さな窓を開ければ、お父さんとお母さんが私の顔が見えた途端に手を振り、私も何度も手を振れば、あっという間の18年間が思い出されて、なんだか泣けてきた。


結婚がすごく嫌なわけじゃない。


でも一緒に家族としていた期間があまりにも楽しくて、優しい時間だったから、もう少しだけ居たいと思ってしまったんだ。笑っておかないとお父さんもお母さんも心配してしまう。頑張って口角を上げたその時、ドラゴンの大きな翼がバサリと動き、段々と地面を離れていく。



「ありがとーーーーー!!!」



大きな声でもう一度お礼を言えば、あっという間にお父さんとお母さんは小さくなり、城というよりはお屋敷の、雨漏りまでする家の屋根が見え、よく遊んでいた広場も、畑も、小さな川も、どんどん小さくなり、海の風景に変わってしまった。


私、本当にあの島から出てしまったのか‥。


小さくなった島から、ただただ広がる青い海を窓から眺めつつ、流れていた涙を静かに拭えばひょこっとその窓からフィプスさんが顔を出したので、「うわっ!??」と、驚いて声を上げてしまった。


「す、すみません、大きな声を出してしまって‥」

「いえ、それは全然。それよりこんな高い所まで飛んでいるのに怖がらないんですね」

「へ?あ、そう、ですね‥」


前世で飛行機に乗った経験があったからかもしれない‥。

とはいえ、こちらはドラゴン。そっちは初めてですけど。



「意外と乗り心地がいいんだなぁって、思いました」

「ふはっ!そうですか?そりゃ良かった。なにせ人間がどんだけ脆いかよくわかってない連中が多いから、ちゃんと小屋でも作らないと凍えるか落ちるって言ったんですよ。そっか、じゃあ進言しておいて良かったです」

「あ、ありがとうございます」



なんだか結構フランクな感じの人だな。

魔族っていうと、皆恐ろしく強くて、迫力があるって聞いてたけれど、フィプスさんは全然怖くない。むしろホッとする。


「2時間くらいで着く予定なんで、景色見ててもいいし、休んでても大丈夫ですから」

「に、2時間で着くんですか!?」

「あ〜〜、陸路で行ったら軽く5日間くらい掛かりますからね。その点ドラゴンは山も海も関係ないから楽でしょう?」

「はい。ドラゴンってすごく便利ですね。畑も一気に耕せそう」


私の言葉にフィプスさんはぶっと吹き出し、



「畑でもなんでもドラゴンはオルベル様に頼めばなんでもしてくれますよ。それでは、何かあったら大声で教えて下さいね」

「は、はい!」



小窓からヒョイッと顔を引っ込めたフィプスさん。

そっか‥、オルベル様に頼めばドラゴンはなんでもしてくれるのか。

それなら嵐で荒れてしまった畑をちょっと掘り起こして貰ってから、乗ってくれば良かったかなぁ‥と、思ったけど、そもそもまだ私は結婚していなかったし、オルベル様にはまだあれから15年間会ってもいない。


何にも始まってないのに、なんだかものすごく始まったぞ〜というドキドキに身を包まれたのにも関わらず、私はふかふかのソファーであえなく爆睡してしまった。





すっごいお高い席に座らせて頂いた時、あまりの心地よさに爆睡したのは私です。

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