8番目、一緒に畑作業。28
鍬を持って畑を耕してみれば、危険だと注意された18歳児。
これまで畑を耕し、草を刈り、銛で魚を捕り、包丁やナイフを使って料理を作っていたと聞いたら、レーラさんもベル様、真っ青になるんだろうな。
白い袋をポケットから取り出して、早速カボチャの種を畝に植え始めると、ベル様が興味津々といった様子で私の側へやってきた。
「何を植えているんだ?」
「カボチャの種です。ベル様が好きだと仰っていたので!」
「そ、そうか‥」
私の言葉に眉間のシワが深くなったかと思うと、緩んだり‥、なんとも忙しそうだ。
「リニ、は、なんの野菜が好きなんだ?」
「ええと、そうですね‥。葉野菜も好きなんですが、保存するなら根菜類‥う〜〜〜ん、悩みます!あ、でも今回は玉ねぎと人参も植えておこうと思ってます」
「‥なんでも育てられるんだな」
「時々苦戦しますけどね。でも育てるのは好きです」
「そうか‥」
穴の中に種を埋めて、土をそっと被せて優しくぽんぽんと叩く。
元気に育ってね!そう願ってからまた種を植えようとすると、ベル様がじっと私を見て、
「俺も‥やってみたいんだが、」
「是非!!これ、人参の種です」
大きな手にそっと人参の種をのせると、種がますます小さく感じられる。
ベル様は大きな手から小さな種を慎重に摘むと、そっと地面に埋めて、同じように土を優しく被せてくれた。なんだか大きなクマが植えているみたいで、すごく可愛いな。
「とても上手ですね。野菜が実ったら是非一緒に食べましょうね」
「そうだな‥!」
「早いのは1ヶ月も掛からないので、楽しみですね」
「そんなに早く出来るのか!」
ワクワクしたような顔で私を見つめる瞳がキラキラしていて、なんだか大きな子供のようにも見える。くっ!!か、可愛いなぁ、おい!
「種を植えたら、どうするんだ?」
「今日は水を撒いて、明日から朝と夕方に水をあげて、雑草が出てきたら抜いたり、野菜によっては支柱を立てます」
「色々するんだな‥」
「はい。でもその分成長する姿を見るのも楽しいですよ」
そう笑って話すとベル様は私をじっと見て、眉間のシワを深くした。
‥今、私は良い話をしていたはずなのだが、何故そんな顔になるのだ?あ、もしかして疲れたのかな?手をパンパンと叩き、ゆっくり立ち上がるとベル様も立ち上がった。
「リニ、は、これからどうするんだ?」
「鍬とスコップを洗ったら休憩しようかと思ってますが‥」
「じゃあ、その、一緒にお茶でもするか?」
「へ?」
お茶‥。
あ、そうかお茶休憩を畑でしようと言ってたな。
ベル様なんてドラゴンにずっと乗って、その上畑仕事も手伝ってくれたから喉も乾いたよね。私は頷いて、
「是非!一緒にお茶しましょう」
「ああ、では鍬は俺が洗おう」
「え、私が‥」
「危険だ。スコップを頼む」
「は、はぁ‥」
鍬はどうやら危険物認定されてしまったらしい‥。
どうしよう実は実家からよく使い込んでいるナイフを持ってきたと言ったら、ベル様倒れてしまうかもしれない。‥うん、黙っておこう。
一緒に井戸から汲んだ水で鍬とスコップを洗って壁に立てかけて干してから、一旦着替える為にそれぞれ部屋に戻った。しかし、こんなに何度も着替えるとは、着せ替え人形になったようだ‥。レーラさんと庭の方へ戻ると、いつの間にか中庭にテーブルと椅子が用意してある。これも魔法なのかな?
中庭からは大きな湖が目の前に広がり、対岸には街も見える。す、素敵過ぎる。
「すっっっごく素敵ですね!」
「風も気持ち良いので、お茶をするにも丁度良いかと思って!ここは王都から離れているのですが、一番気候が安定していて住みやすい場所ですから」
「そうなんですね‥」
そんな場所にお屋敷を立ててたのか〜。
椅子に座らせてもらって庭の草花や湖を見ていると、ベル様がこちらへやって来た。シャツにパンツスタイルというラフな格好に、ちょっと驚いた。黒いマントを脱ぐと一気に青年に‥、いや、むきむきだからただの青年ではないな?どう見ても強そうだ。
「‥‥中庭もいいな」
「はい!レーラさんの提案だったんですけど、風が気持ちよくて‥」
「ああ。ここいらは暖かくて過ごしやすい。西に行くとどうしても暗いから、どこが住みやすいか調べたんだ」
へええ‥、住みやすい場所を調べたんだ。
なんだかなんでも知っている感じがするのに、ちょっと意外だ。
「ここ、いい場所ですね」
私がそう言うと、ベル様は一瞬目を丸くして、それから嬉しそうに口元を緩めた。
「そうだな‥、魔物も住み着きやすい分、種類も豊富で食べがいもある良い場所だ!」
‥‥なるほど!
そういうのも調べたんですね!!でもちょっと怖い情報だったな!
外を出歩く時は十分に気をつけよう。そう心に誓ってから、レーラさんから虹色のお茶を受け取った。
今日も読んで頂きありがとうございます〜!




