8番目、妻(仮)始動!25
オルベル様から、ベル様に呼ぶことになった。
まぁ一応夫婦(仮)だしね。歩み寄りも大事だろう。なにせ我々は15年ぶりの2度目ましての再会なのだ。しかも魔族と人間、何もかも違う。そう自分に言い聞かせ、サンドイッチを食べ終えてから包み紙を綺麗に折り畳んで鞄にしまった。
横に座っていたベル様はそんな私の手元を見て、自分も紙を綺麗に折り畳んだ。うん、えらいねぇ。
「ベル様の紙も一緒にしまっておきましょう」
「‥‥ありがとう」
「どういたしまして」
ベル様の紙を受け取って鞄にしまうと、ふわっとまた気持ち良い風が吹いてきた。
「ここは風が気持ちいいですねぇ」
「‥今が一番良い時期だな。山からの風も涼しくて良い」
「そうなんですね。でもノルチェと空を飛んでいる時って寒くないんですか?」
「え?」
「上空って、空気が冷たくないですか?」
「‥多少な。今は丁度良いくらいだ」
「丁度良い‥」
私がこっちへ来た時、ちょっとカーテンから入ってきた風は冷たかったけど、高度が低ければ大丈夫なのかな?少し考えてから、ベル様を見上げ、
「あのっ、帰りは一緒にベル様と乗ってみたいのですが」
「え?」
「小屋じゃなくて、ちょっと直に乗ってみようかな、と」
ドラゴンに乗りこなそう!とまでは思ってないけど、せめて一緒に乗れたらなぁと思ったんだけど、ダメだろうか。するとベル様は驚いた顔から一転、心配そうに私を見つめ、
「‥だが、気を失ったら」
「そこは気合いで頑張ります!‥って、ダメですかね。多少は慣れてみたいと思ったんですけど」
「では、少しだけ飛んでみて、もしダメそうならすぐに降りるか?」
「良いんですか?!」
「‥せっかくだしな」
ベル様はそう言ってから立ち上がると、私に手を差し出してくれた。
こういうところ、大変紳士だな。そっと手を握ればそのまま私を引っ張り上げてくれて、地面から立ち上がると、まるでタイミングを見計らったようにノルチェがのしのしとこちらへやって来た。
ベル様は、ノルチェの鼻の頭を優しく撫で、
「リニが乗るから、ゆっくり帰るぞ」
と、言えば黄色の大きな目が細められた。
おお、言葉がちゃんとわかるのすごいなぁ〜。そしてさらっと私の名前を呼んだな‥。どこかそわそわする気持ちを抑え、平常心‥の顔でいると、ベル様が私の手を引いて、
「無理だったらすぐに言ってくれ」
そう言うと、そのままノルチェの首元まで引っ張ってくれた。
そうして私を自分の後ろに立たせると、黒いマントを少し持ち上げ、その中へ入るように言われてドキドキしてしまう‥。
「両手を俺の腰に回してくれ」
「は、はい!」
「ここからだと30分くらい掛かる。大丈夫そうか?」
「や、やってみます!」
気合いたっぷりでそう叫ぶと、チラッと後ろを見たベル様が「‥気をつけろよ」と小さく笑った。おお、今日は随分と笑う顔がよく見える。ベル様がノルチェの手綱をぐっと引っ張ると、ノルチェはゆっくり起き上がり、大きな翼をバサリと動かした。
「飛ぶぞ」
ベル様がそう言うと、空へ飛び上がった。
けれど、昨日の急上昇と違って徐々に高度を上げていってくれて、ほっとした。これなら大丈夫、かな?
グングンと風景が下に広がり、風が頬にぶつかるけれど、確かに気持ちがいい。
足元に広がる木々や、小さな村が見えれば子供がこちらに手を振る姿まで見えた。わーーー!すごい!小屋からだと見えないものがよく見える。それにマントの中にいるからか、そんなに怖くない。あれかな、毛布を被っていると安心する赤ちゃん‥?
不意にシュナさんに「赤ちゃん!?」と、驚かれたことを思い出したが、そういえばベル様は幾つなんだろう‥。あとで帰ったら聞いてみよう。と、チラッとベル様がこちらを見た。
「‥怖くないか?」
「は、はい!すごく楽しいです」
「それなら良かった」
小さく笑って、また前を向く姿を見ると、どうやって歩いて私の小屋まで見に来たのかと今更ながらきになる。そっと後ろを見れば確かにすぐ側に小屋があるけど、歩いて来たんだよね?魔族ってすごいな‥。
改めて魔族って身体能力すごい。
しかも魔物も規格外の大きさなのに、それを倒しちゃうし‥。
うちの島に出てきた獣なんて、きっと一発で倒しちゃうんだろうな。
そんなことを考えていると、足元にまた町が見え、その先に湖が見えた。
「あ、湖」
「奥の屋敷は見えたか?もうそろそろ着く」
「え、もう?なんだか早いですね」
「帰りは風に乗るからな‥。大丈夫そうか?」
「はい!楽しかったです。ベル様ありがとうございます」
笑顔でそう答えれば、ベル様は眉間にシワをグッと寄せた。
ここは笑顔で返すところじゃないの?魔族、よくわからないよ‥‥。
水面の上を滑るように飛んでみたい‥。めっちゃ夢です!




