8番目、妻(仮)始動!21
絶対数日では食べ切れないくらい大きい魔物の魚を選ぶオルベル様と、キルシュナ様。
こ、これ、絶対無理だと思うんだ〜〜〜。
冷や汗が出る私を、横にいたデリーさんが察してくれたのか、あれもこれもと言い始めているオルベル様とキルシュナ様に、
「あの‥、申し上げにくいのですが、リニ様は人間族ですから少食なのでは?」
「「え、」」
「は、はい!そうなんです!とてもお気持ちは嬉しいのですが、残してしまっては勿体ないかなぁと、」
「「え、」」
オルベル様とキルシュナ様の視線が私に注がれ、内心「気合いで食べ切れなくてすみません!!」と謝りつつ、デリーさんをチラリと見て、
「私とオルベル様とお屋敷にいる二人で食べきれる量だと、嬉しいのですが‥。何かお勧めはありますか?」
そう言うと、今度はデリーさんにオルベル様とキルシュナ様が勢いよく注目したので、デリーさんはちょっと体をビクッと跳ねさせつつ、
「こちらと、こちらの詰め合わせにしておきましょうか。これなら日持ちしますし、こちらの魚は燻製させれば、更に長く楽しめます」
「あ、ありがとうございます!」
ごめんよデリーさん!
前世でも今世でもご飯は大事に食べましょう!って家に育てられたから、その配慮感謝です。オルベル様は私と魚を見て、
「‥‥確かに残すのを気にしてたな」
「すみません、どうにも貧乏性で」
「リニ様もとても倹約家なのですね!」
う、うわぁあああ、キルシュナ様の解釈がなんて優しいんだ!
私は前世のお辞儀を何度も繰り返したくなる衝動をなんとか抑えて、お礼を言うとテキパキとデリーさんが魚を氷の入った木の箱に詰めてくれた。デリーさん、本当にありがとう!!!
とりあえずなんとか切り抜けられた、かな?
と、思っていたら、キルシュナ様が私を見て、
「そういえばリニ様は、島国育ちだそうですね。海にはよく行かれたんですか?」
「は、はい。お魚や貝を採ったりしました」
「そうなんですか?!私も子供の頃はよく採っていたんです!」
嬉しそうに微笑むキルシュナ様。
ごめんやで、実は一昨日まで普通に採ってたとか言えない空気になってきたぞ?
「実はこの近くの洞窟で珍しい魚や貝が採れるんですよ」
「洞窟で?」
「はい!!少し薄暗い方が成長するんです。良ければ見に行きませんか?」
「え、ええと‥」
チラッとオルベル様を見上げると、小さく頷いた。
じゃ、一緒に行くってことでいいのかな?
「じゃ、じゃあ、見に行かせて頂いても?」
「はいっ!では行きましょう。すぐそこです!」
意気揚々とカツカツと歩いて行くキルシュナ様とデリーさんだが、背が高いから当然歩幅も広い。オルベル様も広い。私は、当然狭い。
一生懸命歩くけど、若干早足だ。
ちょ、ちょっと〜〜〜!背が高い人達〜〜〜!!と、小さな段差に転びそうになる。
「ワッ!?」
「っと」
サッとオルベル様が私の腕を掴んでくれた。
た、助かった‥。と、オルベル様が若干ゼイゼイしている私を見るなり、いきなり縦に抱っこした。
「ちょっ、オルベル様!?」
「一緒に歩いていたら追いつけないだろ」
「‥‥多分、走れば大丈夫だと思うんですが」
「無理するな」
いや、そこは無理しますよ。
これ以上ご迷惑をお掛けする訳にはいかないし‥。しかも視察に来ておいて抱っこってどう考えても問題ありでしょ。すると同じ目線になったオルベル様が、少し気まずそうに目をウロウロさせ、
「‥た、頼っていい」
などと言うので、急に照れ臭くなってしまった。
ううう、お気持ちは嬉しいんですけど、まだ15年ぶり2度目ましての再会で日が浅いどころか昨日会ったばかりで、なんというか大変恥ずかしいです‥。
と、思っていると、何やら後ろから視線を感じて、そろりと視線だけ動かすと、キルシュナ様が口元に手を当てて、何やらキラキラした顔をしている。
「か、可愛い‥‥‥!!」
「へ?」
「あ、ええとゴホン!!お二人がとても初々しくて、大変可愛らしいなと」
「そ、そうですか?」
「はいっ!!!」
すごく元気な「はい」を頂いてしまった。
キルシュナ様は笑って、「私もガサツな所があって気が付かず、すみません。気にせずそのままで」と、仰ってくれたので、結局抱っこスタイルで洞窟まで行くことになったけど、大分甘やかされてないか?
チラチラと周囲の人がこちらを見ているけれど、心象悪くなってないといいなぁ。実家のお父さん、お母さん、ごめんね。人間はもしかしたら弱すぎて歩けないって思われてしまうかも‥?
デリーさん、軍団長さんが二人も揃うなんて滅多にないので
実はめちゃくちゃ緊張してます。




