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8番目のお迎え。1


迎えに来ると言われた翌日。

私は一応荷物をまとめておいた。

と、いっても貧乏な我が家において服は数枚だし、本はみんなで読んでいるし、個人的に持っている物といったら下着類と、文房具と、誕生日プレゼントでもらった手鏡とかリボンくらい‥?



「‥うーん、鞄一つで終わってしまった」



ほとんど荷物がない。

そう考えると、本当にうちはお金がない。

そんな私と結婚なんて本気なんだろうか。断れずにここまで来てしまった‥とかではないのか。


壁に貼られた地図を見れば、小さいうちの国から海を隔てた大きなフィヨルムという魔族の国が目に入る。魔族だけあって皆強くて、魔法も使えて、国の発言力も強い。そんな国を守る軍のトップが私を嫁に‥って、現実感がまったく湧かない。


「リニ」


名前を呼ばれてドアの方を振り返れば、同じ薄茶の髪をしたお母さんが立っていた。


「お母さん‥」

「迎えがいつ来るかわからないからね、今のうちにこれを渡しておきたくて」


そう言ってお母さんは私に白い小さな袋を手渡してくれた。



「これって‥」

「野菜の種よ。すぐに植えなさい。例え冷遇されても食べる物があれば人間は生きていける。塩の探し方も作り方も教えたし、水の確保の作り方も覚えているわね?」



冷遇される前提!!‥しかし、大変現実的だ。

私にサバイバルを教えてくれたのもその辺を心配してたからか‥と、今となってわかる親心。


「うちの子は可愛いから、絶対そんな事されないって思っているけどね。でも人生何があるかわからないからね!」

「そうだねぇ。先日の嵐で畑大分荒れちゃったし‥」

「本当にどうしたもんかねぇ〜〜って、そうじゃない!とにかく何かあればすぐに帰って来なさい!貧乏だけど、ご飯はある!!」


心強いお母さんの言葉に、思わずほろっと泣いてしまった。

8人も子供がいるのに、畑や家畜の世話に忙しいのに、何か心に引っかかった時にはすぐにこうやって声を掛けてくれる。



「‥お母さん、ありがとう」

「リニ、女はね度胸、愛嬌、最強だからね!なんだって出来るよ」

「うん、頑張る」



何気に韻を踏んでいるが、なかなか心強い言葉だ。

そうだよね、これだけ家族に愛されている私なんて最強でしかない。静かに腕を広げると、お母さんも笑って私をぎゅっと抱きしめてくれた。ああ、家族って有り難いなぁ。


そんなことを思っていると、ドタバタとドアの方から走って来る足音が聞こえた。



「りっ、リニ!!ドラゴンだ!!」

「へ?」



お父さんが真っ青な顔で部屋へ駆け込んで来たけれど、ドラゴンがどうかしたの?私とお母さんで、顔を見合わせると、


「オルベル様の使いの人が、ドラゴンで迎えに来た!!」

「え、もう!?」

「すぐに来ないとうっかりドラゴンが暴れるかもって‥、」

「全然待たないつもりじゃん!!」


お兄ちゃんやお姉ちゃん達にも別れを言いたかったのに、そんな脅すようなことを言われたら、ゆっくり挨拶なんてしていられない!お母さんは私の手を握ると、


「リニ、しっかりね!」


そう言って私に微笑んでくれて、私は力強く頷いた。

女は度胸、愛嬌、最強という言葉を貰ったからかもしれない。すぐに皆で外へ出ると、そこには真っ黒な鱗に覆われた大きなドラゴンが一匹、庭で寛いでいた。



「でっか!!!」

「リニ様、でしょうか?」

「へ?」



大きなドラゴンの横から、ひょっこり出てきたのは私より少し年下らしき少年だった。白い長い前髪で片方の顔がよく見えないけれど、もう片方の目は綺麗な青い空のような色だ。片方だけ刈り上げているのに、後ろで長く髪を編み込んでいて、なかなかパンチがある。


すっきりとした綺麗な顔をした少年にひとまず私が頷くと、その少年はにっこり笑った。


「わたくし、フィプスと申します。今日はオルベル様の妻になられるリニ様をお迎えに上がりました。ご家族様とのお別れはもう済みましたか?」

「まぁ、多少‥」


時間が欲しかった、というのが本音だけど、その本音を言える雰囲気ではない。なにせ畑でドラゴンに暴れられたら大変困る。フィプスさんはお父さんとお母さんを見て、



「それでは大切な娘さんをお預かり致しますね。式は本日中に挙げますが、落ち着いたら主人から手紙を送ります」

「え?!今日結婚式なんですか?!!」



思わず声を上げた私に、フィプスさんはにっこり笑って、



「絶対に今日中に挙げます」



と、決意を込めたように宣言され、横で聞いていたお父さんは後ろに倒れそうになって、お母さんが咄嗟に襟首を掴んだ。‥うん、確かに女は最強だなぁ。


そして、本当に私は結婚するの?と、やっぱり現実感が湧かなかった。





結婚する日って、現実感があるものなんだろうか‥。


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