8番目、実家滞在50年!?113
結局、お茶をお母さんと飲んで一息ついてから一緒に畑に出て野菜を収穫する私‥。
ううっ!
鍬でなくて、剣が扱える女だったら!!いや、鍬も考えようによっては武器なる!でも、これは地面を耕すもの‥、人を耕すのはちょっとなぁ‥。そう思いつつ、鋏でナスを切り取ると、
「手が多いと収穫が早くていいわね〜〜」
と、いう呑気な母。
いや‥仮にも義理の息子になるベル様のピンチなのにそれはどうかと‥。どこか申し訳ない気持ちになりつつ籠にナスをそっと入れた。
「さ、そろそろ夕飯の支度をしなくちゃね!」
「はいはい。その前に他に収穫しておくものは?」
「夕飯に使いたいから、葉野菜だけ収穫してきて。先にキッチンに行ってるわ」
「わかった」
ひょいひょいと隣の畑へ行って葉野菜を切って籠に入れると、手首に付けていたブレスレットがシャラッと音を立てて揺れた。
ベル様の色と、私の色。
そんな石をわざわざ注文して作ってくれたのに‥。
なんであんなことが起きてしまったんだろう。敵は一体どこに隠れたのか、呪いは本当に解けないのか?瑞々しい葉野菜を持ったままグルグルと考えていると、
「あれ?もう里帰り?」
「え?」
後ろを振り返れば、お父さんと一つ上の兄のフィリが立っていた。
相変わらずお父さんはひげ面だし、フィリはすぐずり下がる眼鏡を上げて、ちょっと驚いた顔をして私を見ていたが、まずは「おかえり」じゃないの?
「‥里帰りじゃないよ」
そう言うとフィリは目を丸くして、
「え、じゃあ離婚したの?それとも逃げてきた?」
「なんでそうなるの!?事情があって急遽こっちへ来たの!」
「だってさお父さん。じゃあ、うちの国がいきなり魔族によって消滅することはなさそうだよ」
「そうか‥それは一安心だ。それで滞在は50年くらいか?」
「なんでそうなるの!!一時的に帰って来ただけだってば!」
「ええ‥、じゃあすぐ帰るのか?別にお父さんすぐに帰る必要はないと思うなぁ」
いや、義理の息子の危機だからね?
とはいえ事情を知らないしなぁ。ひとまず野菜の入った籠を持って家に向かいつつざっくり二人に説明をすると驚くもすぐ受け入れた‥。飲み込み早くない?
なんで我が家は本当に深刻な状況にならないんだろう。
キッチンの扉を開けばお母さんがすでに切った野菜を炒めている。
「あら、お帰りなさい!今日はシチューとサラダよ。皆手を洗ったらお父さん、パンを切り分けて温めて。フィリはテーブルとお皿を用意。リニは葉野菜を洗ってサラダにしておいて」
このテンポの速さが原因か?
お母さんの流れの速さに飲み込まれ、シチューはあっという間に出来上がり、パンもホカホカ、サラダも美味しそうなのができた。
「はい、いただきましょ!」
そう言ってお母さんが私にパンの入った籠を手渡してくれて、ふとベル様が私にパンを割いて渡してくれたのを思い出した。
「どうしたの?」
「‥フィヨルムってね、夫がパンを割いて渡してくれたのを受け取ってから皆で食べるんだって」
私の言葉にパンをすでに頬張っているフィリが眼鏡をあげつつ、
「へ〜〜、そうなんだ!僕は一番先に大切な人に手渡すって本で読んだよ」
「っへ!?」
「フィヨルムの習慣とかの本に書かれてたけど」
「そ、そうなの?」
「リニは教えてもらわなかったの?」
「いや‥。え、でも私も本を読んだけど、そういうの書かれてなくて‥」
「ああ、最近はそうなのかな。僕の読んだのは昔の本だったから。でも大事な人に一番先に手渡すって、魔族って結構ロマンチストだよな」
「‥そう、だね」
不意にぎこちない手つきで私にパンを割いて渡してくれたのを思い出して、胸の奥がまた痛くなる。元気かな‥、ちゃんとご飯を食べているのかな。そう考えたら、大好きなシチューの味がよくわからない。
結局ベル様の顔がずっとチラついて、うわの空で夕食を終えて部屋へ戻ると、デスクの上に山積みになっている持ってきた本が目に入った。
お母さんが驚いていたお店屋さんの絵本を開けば、今日も鉱石屋さんは綺麗な青白い光を放っていた。ベッドにコロッと寝転がり、ページをめくれば花屋、本屋、何かよくわからない物を売っているお店屋さんもあって、こんなページもあったんだ‥と、驚きと同時に涙が溢れてきた。
一番先にパンを渡すって、私のこと大事に思ってくれてたってこと?
それともそういう習慣だったの?
フィリが言っていた言葉を繰り返し思い出す度に胸が締め付けられて、溢れる涙を拭っていると、トントンとドアがノックされた同時にお母さんが部屋に入ってきた。
「あら、また泣いてた」
「‥‥だって、好きなんだもん」
「あらあら、あのリニが!」
「私はどんな人間なんですかね?」
「ちょっと達観しているというか、冷めているというか?」
もっと泣いていいか?
じとっと睨むと、お母さんは可笑しそうに笑って、「大切な人との別れはそりゃ辛いわね」と、私の頭を撫でると、持っていたシーツと枕カバーを手渡した。
「でも、悩んでいても動かない時はちょっと待ってみなさい。意外と動く時は一気に動くから」
そう格言のような言葉をいうと、ポンと私の背中を優しく撫でてくれた。
動かない時って、なんであんなに動かないのか‥。
そしてまさか‥と、思う時ほど何故あんなに時の流れは早いのか‥。




