8番目、強制実家暮らし?!112
ベル様が危険な状態なのに実家へ帰ってきた私。
帰りたい気持ちはやまやまだけど、我が家からかなり遠いのと、お母さんの「まずは落ち着いて」の言葉に少しだけ冷静になれた。少しだけね‥。
「で、そこのでっかい木箱は何なの?野菜?」
「‥‥野菜じゃなくて服。あと宝石?」
「あらまー、食べられないのかぁ」
「基準はそこ!?あ、でもお菓子もレーラさんが入れてくれてた気が‥」
木箱の蓋を外せば、綺麗な箱の上にメモ用紙が貼ってあり「茶葉とお菓子はこちらに入っております。お茶の時間にお楽しみ下さい」と書いてあって‥。
「レーラさん‥!」
「また泣いて‥、レーラさんて方が用意してくれたのね。素敵な気遣いねぇ」
「うん‥、なのに私、レーラさんにもフィプスさんにも何も言えなかった」
「そりゃ味気ない‥。どれ、荷物をまずは家に運びこもうかね。綺麗な洋服を汚したくないでしょ?」
「うん‥。あの、私の部屋って」
「そのまんまにしてあるわよ。あんたはまずお菓子をキッチンに持っていって戸棚に隠しておいて。フィリなんてお腹空かして帰ってくるからね。すぐ無くなるわよ」
「隠してきます」
急いでお菓子の入った綺麗な箱をキッチンへ持っていけば、変わらない我が家に知らずホッと息を吐く。‥ベル様が大変な状態だってのに私ってやつは。少しだけ自分を責めつつ、戸棚の一番上の死角になる場所に箱をそっとしまった。
「‥‥帰ってきちゃったんだなぁ」
窓の外を見ればどこまでものどかな光景。
あの直前のドタバタが嘘のようだ‥。石瓶の木の蓋を取って、コップに水を入れてゴクリと飲めば、いつも飲んでいた水の味がする。
なんだかそれで、ようやく帰ってきてしまったんだとじわじわと実感した。
「リニ、箱をしまったんなら荷物を部屋に上げなさい」
「あ、はい!」
そうだった‥、沢山荷物を詰め込んでくれたんだっけ。
慌てて玄関の木箱の方へ戻ると、お母さんが箱に入っている本を持って驚いた顔をしている。
「お母さん、どうかした?」
「今ね!本を開いたら、中の人達が動いたの!これ何!?」
「へ?」
お母さんの手にある本を見れば、ベル様が私に魔族の‥フィヨルムがよくわかるという絵本を持っていた。あ、鉱石を売っているお店が載っているやつだ。
「それ、驚くよね。魔法で動くんだって。鉱石のページとか綺麗なんだよ」
「魔法で!??」
お母さんが驚いたような顔でもう一度本をまじまじと見つめ、
「魔族って本にまで魔法を使うのねぇ。体力とか持つのかしら」
「そこ‥!?いや、でも体力は無限にある様子だったけど‥。いやでも、ベル様限定なのかな」
「へええ、フィヨルムって本当にすごい国なのね」
そう言うと、お母さんは私にそっと本を手渡した。
「ま、すぐ帰るかもしれないし?旅行鞄にでも詰めておきなさいよ」
「‥うん」
「あと洋服は、クローゼットに入れても大丈夫なのかしら‥」
「それはちょっと思った。虫除けをたんまりクローゼットに入れておくよ」
なにせこんな素敵な衣装、虫に食われたら悲しすぎる!
お母さんはそんな私を笑って、一緒に部屋まで運んでくれた。部屋も私が去った時と変わらず、時間が止まったままのようだった。
「部屋、変わってない‥」
「もしかしたらリニはすぐ帰ってくるんじゃないかってお父さんが言っててね。ま、ただ寂しいだけってのもあるけど?」
「お父さんは‥?」
「西の町へ貿易の交渉に行ってるから、夕方には帰るよ。あ、ピンピンしてるから安心して」
「そりゃ良かった」
なにせ私がフィヨルムへ行く前に腰を壊してたし、畑は荒れてたから‥。
お母さんはクローゼットに持ってきた服をギュムッと詰め込み、それから窓を開けると、ふわりと甘い花の香りとベル様の匂いが服から香った。
ギュッと‥、胸の奥が掴まれて、私は泣くのを堪えようと下唇を噛んだ。
そんな私にお母さんは小さく笑って、ポンポンと肩を叩くと、
「動きやすい服に着替えたらお茶にでもしよっか。それで、夕飯にはあんたの好きなシチューにしましょ」
「‥‥ありがとう」
「お礼にさっきのお菓子を提供してくれればいいわよ」
「ちゃっかりしてるなぁ」
「うふふ、女は度胸、愛嬌、最強だからねぇ」
「お母さんだけだと思うなぁ」
「何言っているの!みんなその血が確かに流れてるわよ?」
しれっとそう宣言したお母さんが鼻歌を歌いつつ、キッチンへ向かい、私は窓の外にもう一度視線を戻した。遠くに見える海‥。戻るとしたら、私はあの海を渡ってもう一度ベル様のいる国へ戻れるのかな。
そう思った時、手首につけていたブレスレットが小さく動き、黒と、薄茶と半透明の石がキラリとお日様の光を受けて光り、どこか漠然と「大丈夫だよ」と言ってくれたような気がした。
実家へ帰るとホッとし‥ないんだよな〜〜。
草むしりから始まるからかもしれない‥。




