8番目、強制実家移動。111
まさかの実家へ一時避難することになってしまった。
本当の夫婦だったら、こんな事態に一緒に乗り越えていくんだろう‥。どこか胸がチクチクと痛むも、レーラさんが爆速で私の服や本、「これもお土産に!!」と、箱に次々と詰め込んでいくので、そんなに持たせてくれなくても大丈夫だよ??と、いうハラハラした気持ちの方が大きくなっていく‥。
「あ、あの、服はそんなになくても‥」
「いいえ!念の為です。ね、オルベル様?」
「そうだな。こっちの宝石も詰めておけ」
「いやいやいやいやそんな素晴らしい物を閉まっておく金庫もないのに‥」
「フィプス、金庫を。リニしか開けられない魔法も追加で」
「了解です!!」
「あ、あわわわわ‥‥」
一時避難だよね?
一時避難でそんな持たされる必要ってあるの?
私はもう胃がキリキリとしてきたぞ?チラッとベル様を見上げれば、小さく微笑み、
「野菜は俺がしっかり世話をしておくから安心してくれ」
「野菜‥」
「リニともっと色々育てたかったんだがな」
「ベル様‥」
そうだ、野菜。
一緒にあれもこれも育てようねって約束してたのに‥。本当に、離れないといけないの‥?私は、何もできないの?
ギュッと思わずベル様の手を握り、
「あのっ、絶対!すぐに迎えに来て下さい!それで一緒に野菜を育てましょうね」
「‥‥‥ああ」
突然手を握っちゃったのに、耳を赤くすることも、照れることもなく、ベル様が困ったように微笑むと、後ろの方で話を聞いていたリリオン様がこちらへやって来た。
「オルベル、そろそろ来たぞ」
「もう来たか。早いな」
「え、来るって‥」
「さ、リニ。リリオンと実家へ。すぐに手紙を送る」
「ベル様、あの、」
来たって、何が?
他にお客さんがいるの?
と、ドン!と大きな音と共に屋敷が揺れた。
「‥‥人の家に。無作法が奴がいるな」
ベル様がちっと舌打ちをすると、私の握っていた手をもう片方の手で優しく包んだ。
「リニがここへ来てくれて本当に嬉しかった。‥本当に」
「ベル様、」
待って。なんでそんなもう会えないような顔をするの?
そう言おうとして、握っていた手がするっと私の手から離れた。慌てて手を掴もうとしたけれど、リリオン様が私の手を反対に握った。
「ごめんねぇ、もう時間が来ちゃったから」
「え、」
時間?
ベル様の後ろ姿を見つめたその時、ドアが大きく開いて、剣を持っている人達が雪崩れ込んできた。
「ベル様!!!」
そう叫んだ時、視界の端っこでベル様がこちらに振り向いて小さく笑った姿が見え、もう一度瞬きをした時、私は実家のボロい玄関に一人、立っていた。
「え‥!?リリオン様?!」
後ろを振り返れば、よく見慣れた我が家の畑が見えるもリリオン様の姿が見えない。代わりにそこには、レーラさんがあれこれと詰めてくれた大きな木箱があって‥。それからこっちへ来る直前に剣を持った人達がベル様の屋敷へ雪崩れ込んできた光景を思い出した。
あれって、大丈夫だったの?もしかしてそれでリリオン様はここにいないの?
唐突に後悔が一気に襲ってきた。
ベル様は、本当に大丈夫だったの‥‥?
そう思ったら、ドクドクと身体中の血があちこち逆流したような感覚になって、足が震えた。
「リニ‥!?」
名前を呼ばれた方をそろそろと振り向けば、鍬を肩に担いだお母さんが驚いた顔でこちらへ駆け寄り、
「あんた、もう里帰り?」
そう言って笑うと、私の頭をふわりと撫で‥、私は堰を切ったように泣き出してしまった。
「お母さぁああああん!!!私、私、どうしよう!!」
「‥なに、喧嘩でもしたの?」
「違う!違うの!危険なのに‥、ベル様助けたかったのに‥、でも邪魔になるだけで‥、側にいたかったのに、帰ってきちゃって‥」
わんわんと泣きながらお母さんの胸で泣いていると、ポンポンと優しく背中を撫でてくれて、余計に泣けてしまう。
「私、帰りたくなかった!!やっぱり帰りたくないって言えば良かったぁあああ!!」
「そうか、そうか」
「どうしよう!!一人ではあそこまで行けないのに!!」
「確かにちょっと難しいね」
「でも、もう帰りたい‥帰りたい」
「実家へ帰ってきたと思ったらもう帰りたいって随分気が早いねぇ」
そう言って可笑しそうに笑うお母さんの言葉にハッとした。そうだ、帰りたいなってちょっと思う時もあったのに、もうあっちへ帰りたいと思っている。
だって、ベル様危険な状況なのに。
私は、仮とはいえ結婚しているのに。
本当は‥好きなのに。何も言えてないのに。
と、ボロボロと泣いている私の顔を、お母さんが首に巻いていたスカーフで乱暴に拭いた。
「とっても大事にしてもらってたのね。安心したわ」
「でも、私はベル様に何もできなくてっ」
「そりゃ人間は万能じゃないからね。まぁ、心配してここへ送ってくれたんでしょ?それならまずは落ち着きなさい。大丈夫、デーンと構えておけばなんとかるわよ!」
そう言って、ふわりと笑ってくれて‥、ようやく私の涙がそこで止まった。




