8番目、恋と嵐。100
せっかくだからとレーラさんと今度は果物を入れたケーキを作ることにした。前回もだが準備が良いレーラさんのお陰であっという間に出来上がりそうだ。
ボウルに入れた生地をかき回していると、
「おやおや、美味しそうな物を作っているね」
「へ?」
振り返ると、ニコニコ顔のリリオン様!??
素早くレーラさんが私とリリオン様の間に滑り込み、フライ返しを突きつけた。
「リリオン様?本日はいらっしゃる旨をお聞きしておりませんが?」
「そうだったっけ?年を取ると忘れやすくていけないね」
バチバチと火花を散らすレーラさんを、ニコニコ微笑むリリオン様。
毎回思うけど本当に神出鬼没だな〜、この人。
「で、リニは何をしてるの?」
「ケーキを作ってるんですが、リリオン様も出来上がったら召し上がりますか?」
「食べる!あ、じゃあ僕が持ってるエッセンスも入れてあげるよ」
「エッセンス?」
バニラ的な?
首を傾げると、クリーム色だった生地が、一瞬にして可愛いピンク色に変わって目を丸くした。
「生地が!」
「リニ様、それは毒物です。捨てましょう」
「ええ〜〜、毒なんて入ってないよ。お花!お花のエキスを入れたの!香りが良くなるし、僕もそれをお茶に入れて飲んでるよ」
「そ、それなら‥?」
要するに紅茶味のケーキ、みたいなことでしょう?
レーラさんはリリオン様を睨みつけながら「万が一のことがあったら即廃棄しましょう」と、言うし‥。落ち着いてケーキを作らせてくれ‥。
それでも型に流し込んで、オーブンで焼いたらふんわりと甘い香りがする。オーブンから出せば、こんがり焼けていて、切り分けた断面が綺麗なピンク色だ。
「美味しそう!」
「ウンウン!やっぱりこのお花のエキスはいい仕事をするね!」
「リニ様、リリオン様に毒味をさせましょう」
「‥レーラさん、一旦落ち着いて」
とはいえ皆で一度は味見をしないとね。
端っこを切り分けて、それぞれ味見をしてみると確かに口の中でふんわりと甘い花の香りがする。
「美味しい‥!」
「でしょー!この花の香りがなんともいえずいい役目をするんだよね。ね、レーラ、どう?美味しい?」
「‥‥エキスを入れた人間だけが問題ですね」
「美味しいって素直に言ってよー!」
「‥あの、とりあえずケーキをベル様に持っていっていいですかね?」
この二人、放っておいたらずっと喧嘩しているな。
そんなことを思いつつ、トレイにケーキとお茶をセットして持って行こうとすると、さっとレーラさんが持ってくれて、
「執務室の前までお持ちします」
と、爽やかな笑顔で言ってくれた。
いや‥、それくらい運べるけど。と、思ったが、後ろでリリオン様が「僕も行く〜」と言っていたので、レーラさんと一緒に行くことにした。安全第一である。
薄暗い廊下を歩いて、執務室の前まで来るとレーラさんがドアをノックする。ベル様の「入れ」の、声が聞こえてちょっと、いやかなり緊張してきた。は、話し合い‥いや、その前にお茶、お茶だ。
手早くドアを開けたレーラさんが私にトレイを渡すとウィンクして、リリオン様の襟首を掴み、
「今ですわ!」
と、小声で言うと私の背中をそっと押した。
その勢いのまま私は部屋の中へ入ると、静かにドアを閉めてくれた。えっと、リリオン様はいいのかな?まぁいっか。
そろっとベル様の方を向けば、顔を上げることなくガリガリと書類にサインをしている。よし、私の存在は気付いてないな。できるだけ足音を立てないように近くのテーブルにトレイを置いて、お茶を注いでからケーキの小皿をそっとデスクの方へ持っていく。
どうしようかなぁ。
声を掛けてから食べてもらった方がいいよね‥。
なんて迷っていると、ベル様のデスクの脇にあった書類の中に、
『ブレスレット、石、20個、黒と赤、薄茶色の可愛らしい形のを50個、至急!』
と、書いてあり、デザイン画なのだろうか、輪っかがグルグルといくつも描いてある‥。デート、楽しみにしてくれているのかな?なんだかそれだけで、心の中がほわっと溶けていく。
「ベル様」
「‥‥ん、ん!??」
隣に立っている私の存在にようやく気付いて、それからハッとしたように慌ててデザインしてある書類を下の書類の中に挟んだ。‥いや、全部見えとるがな。
耳の先が赤いベル様に、小さく笑って、
「ケーキ、焼いたんですけど食べませんか?」
「食べる!」
よしよし良い返事だ。
私はイタズラ心でなく、今度は明確な意思を持ってケーキを目の前でフォークで小さく切って、ベル様の方へ向けた。
「では、アーンして下さい」
「あ、あ‥‥!???」
耳先だけでなく、顔まで赤くなったベル様。
うむ、大変良い感じだ。私だって耳が熱いし、顔も熱い。めちゃくちゃ恥ずかしいし、半年後がどうなってるかまるでわからない。けれど今だけ私を意識して!と、目をウロウロさせまくっているベル様にお願いと一緒に口の中にケーキを入れた。
攻めていくスタイルです。




