8番目、恋と嵐。98
めちゃくちゃ怒っていたらしい私。
ぷっくり膨らんだ頬を鏡で見て、慌てて顔を直したけれど‥。
「絶対バレてるよねぇ‥」
以前、怒ると頬が膨れてしまう私を見てベル様に笑われたことを思い出し、ズーンと落ち込む効果音が頭の上に乗っかってきた。おい勝手に乗るな。
ま、まぁ、別にね。命の恩人だから感謝されたってことで?
それに私とベル様は仮とはいえ結婚しているからね‥って、思ったけれど、正式ではない。しかも私は自分の気持ちを伝えていないし、ベル様からもない。
まったくもって危うい関係だ‥‥。
でも自分の気持ちを伝えて、「実は一時しのぎに‥」なんて言われた日には速攻で帰りたい。でもそれさえも簡単にできない。ノルチェに乗れば2時間くらいだけど、陸路で行けば軽く2週間かかる。詰んでる。全てにおいて詰んでいる気がする。
小さくため息を吐けば、窓の外を見れば相変わらず風が吹き荒れ、木々がなぎ倒されそうな勢いだ。
「とりあえず、甘いものでも取ってくるか」
キッチンに何かしらあったはずだ。
と、パタパタとキッチンの中で足音がした。レーラさんかな?
お菓子がないか聞いてみようと、扉に手を掛けたその時、
「え!?オルベル様ったら、助けた女に会う約束をなさったの?」
「そうみたい。ま、二度目はないと思うけど」
「当たり前です。それにしても珍しいわね‥オルベル様、そういうの約束なさる方じゃないのに」
フィプスさんとレーラさんが話している内容に、心臓がドキドキと激しくなる。
‥助けた女性が結婚してって言い始めた。
と、リリオン様が言ってた言葉を思い出した。でも、断った‥とは聞いたけど、会う約束はしたんだ。胸の中に重い重いおもしがズンと落ちてきて、扉からゆっくりと手を引いた。
どうしよう。
ベル様のいる食堂へ、私は笑顔で戻れるだろうか。
好きだという気持ちも伝えてないのに、勝手にヤキモチをやいて、勝手に落ち込んで。でも、その気持ちをベル様に悟られなくない。
なんだかここへきて、私は初めて一人ぼっちの気分になって、そろそろとキッチンから離れた。
どこへ行こう。
いや、こんな嵐の中、外へ出かけられないんだけど‥、ここにいるのがちょっときつい。ふらふらと長い廊下を歩いていて、ふと中庭の方に目を向ければ小さな畑。
「お母さん‥」
小さく呟いて、中庭の端っこにある小さな畑の前へ行くと、外の天気を無視するかのように穏やかな風景だ。それだけなのにホッとして、私はトマトの伸びた茎の側にしゃがんだ。まだ青い実は食べられないけれど、それでも随分と早い成長だ。
お母さんが、「野菜でも花でもちゃんと向き合っていると、元気に育ってくれて楽しいわ!」と、言ってたのを思い出したら、じわっと涙が出てきた。
恋って全然楽しくない。
お姉ちゃん達は楽しそうに話していたけれど、楽しいどころか苦しい。自分の心が自分のものじゃなくなっちゃったようだ。冷静でいたいのに、早く食堂へ戻らないと心配させちゃうのに、足が動かない。
「リニ!?」
ベル様の声が聞こえて、ビクッと体が跳ねた。
後ろを振り返れば、ベル様がこちらへ駆けてきた。ううっ、一番心配させちゃいけない人がやってきてしまった!
「す、すみません!キッチンへ行こうとして、その、つい、フラフラとこちらへ‥」
オロオロしつつもなんとか言い訳をすると、ベル様は小さく微笑み、
「畑が好きなんだな」
なんて言うから、自己嫌悪がバーストを掛けてきた。
すみませんを心の中で100回言いつつ、小さく頷き、
「ご心配お掛けしてしまって‥」
「いや、慣れない場所で過ごすんだ。落ち着いた場所があるならそれでいい」
だめだ、心の中で申し訳ありませんも100回追加だ。
チクチクする心の中をどうすればいいかわからず、チラッとベル様を見上げた。
「もう少し、ここにいてもいいですか?」
「え?」
「ちょっと、その、畑を見てからでも‥」
「あ、ああ、」
「リリオン様がいらしているのに、すみません」
「あいつは全然、まったく、気にしなくていい」
「そ、そうですか?」
王族だぞ?
ついベル様をまじまじと見つめると、黒と赤の瞳が小さく揺れた。
「‥リニが、元気ならいい」
「そう、ですか」
どこか寂しそうなのに優しそうな瞳に、嬉しいのに、上手く言葉が出てこないし、心は結局グルグルしたまま私は静かに屋敷の中へ戻って行くベル様の背中をぼんやりと見つめた。
恋って‥、嵐のようだな、と、思いつつ。
あけましておめでとうございます!!
ご飯を作って草刈りして新年を迎えた私です。
今年もよろしくお願いいたします!!




