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8番目のお迎え。


小さい頃の記憶で、一番古いのはいつ頃だろう。


私はハッキリと覚えているのは、3歳の時だ。

父の働く執務室で、前髪の一房が赤く、あとは黒髪で、黒と赤の混じり合うような瞳をした大きな男性が私を抱き上げて、嬉しそうに見つめ、



「お前をずっと待っていた」



と、言われた記憶である。


その頃の私は、ぼんやりともしかして私は生まれ変わったのか?と、前世の記憶が思い起こされ、ちょっと混乱していた時期だった。それだけに、その男性との出会いは鮮烈だった。


しかし、もっと驚いたのはその後で、


「あと15年後にお前を迎えに行く」

「迎え?」

「‥嫁に迎える」

「はい?」


どう見てもお兄さんは私よりかなり年上である。

私が18歳になる頃にはお兄さんはおじさんになっているぞ?この世界って、倫理観ぶち壊れている感じ?まじまじと見つめる私をその男性は大きな手で、私の頭をゆっくりと撫でると、ハラハラした顔をしたお父さんに手渡した。


「では、王よ。娘と約束したので、18になったら迎えに行く」

「え、ええ!?や、約束?!」

「今したではないか」

「オルベル様、む、娘はまだ3つで、今のは話が全く理解ができていないと‥」

「俺に指図をするのか?」


目の前の男性は体がそれは大きく、筋肉がしっかりついている体だ。

王である父もそれなりに鍛えているが、体の大きさが全然違うし、迫力まで違う。私はこれはまずいな‥と、前世の記憶もあったお陰か空気を読んだ。



「お父様、リニはお嫁に行きます」

「り、リニ!??」

「そうか‥!では、待っているんだぞ」

「はい」



父に抱っこされたまま頷くと、その男性は嬉しそうに口元を緩めたかと思うと、大きな黒いマントがバサリと翻り、あっという間に消えてしまった。えっと、あれは魔法、かな?ポカーンとしていると、父は青ざめた顔で、


「な、なんで嫁に行くなどと‥!」

「勝手に決めちゃってすみません‥。でも、私まだ3つだし、あの人もその間に他に好きな人ができるんじゃないでしょうか」

「そ、それもそうか‥?」

「きっと大丈夫です。私まだ3つですし」

「‥リニは3つとは思えない物言いをするなぁ」


‥多分、ぼんやりと前世の記憶があるからだと思います。

しかし、呑気な私と父はその時はまだ知らなかったのだ。私に求婚を申し込んだオルベル様とやらは、魔族国家フィヨルムを守る4つの軍をまとめる軍団長で、最強の魔族だということを。



父は、後からそれを知って卒倒した。



そして私が自分や国を守る為に嫁に行かなくていい!と、言ってくれたけれど、私3つだからその辺大丈夫だと思うんだよね〜。


けれど毎年私の誕生日になると、ものすごい量のプレゼントが贈られ、誕生日カードには『待っている』と、書かれたものが送られてくる度に父は倒れ、私は毎回不思議に思った。だってうちの国は小さな島国で、王様自ら畑に繰り出すくらいの貧乏国である。一体なんの得がある?



父はあちこちの国に助けを求めたが、貧乏国家は相手にもされない。

あと魔族に目を付けられたら困るので、関わりたくないっていうね!割と絶望的な環境だったけど、私はまぁなんとかなるでしょ〜と、心配する父をよそに畑を耕していた。未来の結婚より、今日のご飯の確保の方が切実だ。



そうしてすくすくと育って、あっという間に18歳の誕生日。

いよいよ父は頭を抱えた。結婚はやっぱり無理って連絡が来ると思ったのに、「8回目の満月になったら迎えに行く」なんて手紙が届いたからだ。



「いよいよ明日なんて、どうしたものか‥」

「お父様、もう諦めましょう無理ですよ」

「ううっ、まさか本当に結婚なんて‥!リニ、国の為にお前が犠牲になる必要なんてないんだぞ!」

「そうは言っても魔族からしたら吹けば飛ぶような島国なんて、反抗するだけ無駄ですよ。それに何度か手紙を書いても返事は来ないし諦めましょう。幸い魔族は人を食べないそうですよ」

「食べっっっっっ!!!」



真っ青な顔をして後ろへ倒れ込む父を、すかさずキャッチしてくれたのは一番上のヴィリー兄さんだ。


「リニ、父上を怯えさせるな‥」

「すみません、つい面白くて‥」

「父で遊ぶんじゃない。お前は本当に魔族に嫁に行くというのに落ち着いているな‥。こっちは毎年まだ諦めないのかとヤキモキしていたのに」

「‥なんだかここまで来るといっそ面白くて」


ヴィリー兄さんに呆れた顔をされたけど、前世の私はどうやらあまり恵まれた環境に生きていなかったようだ。記憶はもう薄らとしたものだけど、父や母が帰って来ない家に一人でいるのは覚えている。そう考えれば、私は親や兄妹に大事にしてもらって幸せだ。



「まぁ、結婚してもすぐ返品されますよ。王族とはいっても、その辺の普通の娘よりも平凡な人間だし」

「‥平凡な人間は魔族の嫁になるのをそんな鷹揚に構えていないぞ」



兄さんにまたも呆れた顔をされてしまったが、先日の嵐で畑が荒れてしまった方が私は大問題である。明日は8回目の満月。未だに「本当に迎えが来るの?」と、ちっとも現実感がないので、私はとりあえず畑を耕しにいった。働かざるもの食うべからずで、ある。





はい!!

新しいお話開始です!!

どうぞのんびりお楽しみくださいませ〜!

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