82.春休み・(師匠と買い物①)
「忘れ物はないかい?」
「はい。ありません。」
私は家の鍵を閉めた。
「じゃあ、行くよ。」
と言って師匠はスタスタ歩き出した。師匠について行きながら
「今日はどこに行くんですか?私を何買えばいいか決まっていなくて。」
「だと思ったよ。羽形織の製品はどうだろう?小銭入れやキーホルダーみたいな雑貨が人気らしいよ。羽形織は冨久岡の伝統工芸だし、知り合いの職人の工房で安く買えるから、あんたの小遣いでもそこそこいいものは買えるだろうよ。」
「いいかも!」
私は喜んで師匠について行った。
家(高尚院)を出て、30分ほど歩いた所で
「そろそろだよ。」
と師匠が涼しい顔で言った。師匠は小さな年寄りなのに歩くのがとにかく速い。師匠と出歩くだけでかなりの修行になっているのだと思う。私はハアハアと息を整えながら辺りを見回すと工場は見当たらない。そのまま師匠について行くと、ガチャン、ガチャンと音が聞こえてきた。私たちは四つ角に出ると、師匠が
「あそこだよ。」
と指差して言った。通りの向こうにある建物の看板には『 羽形織 三光』と書いてある。
ガラガラガラ
「いらっしゃいませ。あら、庵主様。お久しぶりです。先日は孫が大変お世話になりました。」
と品のいいおばさまが深々と頭を下げた。すると師匠が
「頭をお上げなさい。そんな事はどうだっていいんだよ。それに、あんたのところの孫にうちのひ孫も世話になってるんだ。お互い様だよ。」
と言った。するとおばさまが
「先日は弘を助けてくれてありがとうございました。そしていつも弘と仲良くしてくれてありがとうね。」
と言った。弘?・・・誰?私は弘さんが誰かと聞き返すことが失礼だと思って、とりあえず
「こちらこそ、いつも弘さんにお世話になっています。」と頭を下げた。三光弘くんって人、学校にいたかしら?私が考え込んでいると、電話が鳴りおば様は
「ちょっと失礼しますね。」
と言って頭を下げ、電話に出た。私はそのチャンスを生かし
「師匠、三光弘くんって人、学校にはいませんよ。三光くんって誰なんですか?」
と尋ねました。すると、
「三光はここの会社の名前だよ。なんだい、誰だかわからずに話をしてたのかい。呆れた。彼女のお孫さんは中村くんだよ。」
「え?あ、中村くん?あ、そうだ、中村くん、名前弘だった。あーそうだった。じゃあ、中村くんのおうちは博多織の会社なんだね。」
「そうさ。私たちが学校で魔物退治した次の日に中村くんのご両親と彼女がうちにお礼に来てね。私もその時に知ったんだけどね。」
私たちは、そんな話をしながら馬鹿皇子への贈り物を選んだ。




