嘘しかつけないチート能力
「だったらチート能力を持たせて転生させてくれよ!」
手違いによって命を落としてしまったと説明された青年は目の前にいる女神相手にそう食ってかかっていた。
女神は駄々をこねる子どもに向き合う大人のような辛抱強い態度で青年の言葉を聞き、そして口を開く。
「悪かったとは思っているんです。だから人間に過ぎないあなたに対してわざわざこうして時間を割いてまで説明してるんです。そも神に謁見できるという栄誉だけでも手違いに対する報酬としては十分では?」
かつてはその権利のためだけに命をかける人も多かったと言う女神。
しかし青年は納得しない。いつまでもチート能力、転生と騒ぎ続けた。
やがて女神はうんざりしたようにため息を吐くと、とうとう根負けしたようにこう言った。
「分かりました。分かりましたよ。チート能力を授けて転生させましょう。どうせ記憶もと言うのでしょうしそちらもオマケしてあげます」
青年はよっしゃと腕を振り上げた。そして女神が示した転生用の出口へと走っていった。女神に対する礼もなにも言わずに。
女神はふんと鼻を鳴らし、青年にチート能力を授けて転生をさせてやった。
「もう少し敬意を見せてくれればある程度望む通りにしてあげても良かったのですけどね。文字通りのチート能力ですよ」
「あのクソ女神!」
転生した青年は天に向かって唾を吐きながらそう叫ぶ。「これが欲しい」と素直な言葉を吐くことすら許されず、パンを買うのにも苦労するような能力を与えられてはそう叫びたくもなるだろう。
彼が女神から授けられたチート能力は「どんな人でも騙す嘘をつけるが、人と話すときには嘘しかつけなくなる」というものだった。