ある編入生の日記 3
ダイナもマルガレーテ寮長も日記をつけているみたいだし、私も日記をつけてみることにした。
この部屋に元々あった日記帳は、さすがに処分して自分で新しいのを買って使ってる。
なんか日記帳の中身も変な文句ばっかり書いてあるし、ページがいくつか破けて抜けてるし、動物の毛みたいなのが挟まってるし、怖かったんだもの。
ダイナも呪われそうだから早く捨てちゃいなさいよ! って言ってくれた。
日記自体は学生の間、書くのを推奨されてるみたい。学内で出会った徒花事案を幻覚魔法かなにかをイタズラでかけられたんだと思って全然認識してない子がたまにいたり、悪い言いかたをすると失踪したときとかに原因を特定しやすくするために必要なんだって!
だから徒花事案だって分からなくてもとにかく不思議なことがあったら日記に書かなくちゃいけないみたい。
この前遭遇したのは「組みかえ校舎」ってやつとなんか変なイモムシだったわ。
ダイナと行動できないときは、まだ広い校舎を地図とにらめっこしながら歩いてるんだけど、地面が震えててもそのときは校舎が組みかわる徒花事案なんて知らなかったから、立ち止まっちゃったのよ。
さすがに一週間じゃあんなに分厚い本を暗記なんて無理無理! 小さい頃の詩の暗誦だって、覚えていないところをなんかそれっぽく適当に言葉を加えて完璧に誦じてますけど? ってフリをしがちだったんだから! 覚えるのって嫌いなの! 夢の中でまでヘンテコな詩を歌ってて、完全にそれが正解だと思い込んでたことすらあるわ!
だから廊下の様子がおかしくなってることに気づいたときにはもう組みかわったあとだったの!
なんか廊下がすごーく長くて、地図とは全然違ってびっくりしちゃった。
びっくりしてダイナに端末で連絡をとろうとしたら、全然繋がらないし……でも一応、空間型の徒花事案は魔導ネットも繋がらないって聞いたことがあったし、そういうときは大抵学内掲示板? だけは開けるって話だったからスレ立てってやつをしてみたの!
なんで学内掲示板だけ繋がるんだろう? 不思議ね! こっちもよっぽどヘンテコだわ!
そこで言葉を認識できる機能? みたいなのを使って、通話みたいな状態で文字がどんどん表示されるようにしてから廊下を歩いて、適当に扉に入ったの。あとで掲示板を確認したらみんなすごい止めたり心配してて笑っちゃった。次はちゃんとスレを確認しながら歩くね!
扉を開いて部屋に入ったら、入って一歩分踏み出したくらいのところから森? っぽくなってて、中心のほうはキノコの群生地みたいになってたの。
行き止まりみたいだしと思って後ろを向いたら、通ってきたはずの扉がなくてちっちゃなネズミ穴だけ残ってて閉じ込められちゃってた。
だからもう、部屋中歩き回ってみるしかないと思って! 真ん中の近くまで行ったの。そしたら私の身長くらいあるおーっきいキノコの上に緑色の気持ち悪いイモムシが座ってた。なんか枝みたいなのを咥えたり煙を吐き出したりしてて偉そうで格好つけてる嫌な感じだったわね。
さすがにこっちは徒花事案っぽいことはすぐに分かったわ。けど、出口がどこかは聞いてみないと分からないし、話しかけに行ったの。
結局、訳の分からない問答をしてお互いに疲れるだけになっちゃった。あのイモムシ、イモムシのくせにすっごくムカつく爺さんだった! 話したのは時間の無駄になっちゃった。怒ってイモムシもキノコから離れたし、私も怒って離れたあと、どうしようかなって考えながら壁際に座ってたの。
そしたら、しばらくするとイモムシが戻ってきてまたキノコの上でぷかぷか煙を吐き出しはじめたわ。
今度は遠目で観察してたら、ときどき煙をぷかぷかするのをやめて、キノコをかじってはもっと大きくなったり、小さくなったりを繰り返しててもっと気持ち悪いことが起きちゃった!
ただ、キノコの食べる部位によって大きくなったり小さくなるのはなんとなく見てれば分かったから、あのキノコをうまいこと食べればネズミ穴から出られるって思ったの。
イモムシがキノコを食べ尽くすとお腹が膨らんで、下からまた新しいキノコがむくむく生えてきてまた食べ始めてイモムシはお腹を大きくする……のを繰り返してたから、このキノコが生えてくるタイミングを狙うことにしたわ。だってイモムシが食べたあとのキノコを食べるなんて気持ち悪いし。あんなジジイとシェアしたくなんてないわ!
それで、一個キノコを食べ尽くした段階で私はお菓子をえいや! って投げたの。イモムシが三回キノコを食べて随分ずんぐりむっくりしてきたくらいのタイミングだったけど、ちゃんとお菓子に釣られてくれたの! 甘いお菓子を持ち歩かないといけないのはこれもあるからなのね! きっとそうよ!
このあとは素早くキノコに近づいて、小さくなるほうのキノコを多めにちぎってネズミ穴のところにまで戻ったの。
それから、縮むのなら端末は持てないだろうからスレに今からやることを報告して、ネズミ穴の近くに置いた。
ここで気がついたの。服ってどうなるの!? って。
イモムシは服なんて着てないから、服ごと大きくなったり小さくなったりするのか分かんないのよね。
だからイモムシがいなくなったタイミングで全部脱いじゃった!
小さくなるときにもし服がそのままなら、布の波から抜け出すのってすごく重そうだし大変そうじゃない? だから絶対ネズミ穴からすぐに出られるようにしようと思って。
で、ネズミ穴から出たら元の廊下に出られたんだけど、今度は大きくなって元の姿に戻る方法がなくなっちゃってもうパニック! 戻る方法については全然考えてなかったの!
ネズミ穴を抜ける前に大きくなるほうのキノコの欠片も取ってきて、穴の前に置いておけば小さくなってからまた欠片を千切って持っていくってことができたんでしょうけど、小さくなったあとじゃあ、もう大きいキノコから千切り取りに行くなんてできないわ!
そうして壁際で縮こまって困ってたら、突然巨人が現れたの! と言っても、私が小さいだけなんだけど。
裸で恥ずかしいから座り込んで手で隠してたんだけど、誰かも分からない巨人さんがなんかすごい大きい声でいろいろ言ってるのがきこえてたけど、耳が痛くて塞いでたからなにを言っていたのかはちょっと分からない。
気づいたら目の前にキノコが差し出されてたわ。そう、大きくなるほうの色をしたキノコ!
急いでかじりついたけど、ぐんぐん大きくなる身体に、そういえばまだ人がいたんだった! って焦っちゃった。
でも、私が元の大きさに戻る頃には人影が窓から落ちるところがちょっと見えただけで、頭から古臭いローブみたいなのを被ってそのあとは見えなくなっちゃったから、結局どんな人だったのかは分からない。
なんとなく、猫の耳みたいなのが頭についてたのは分かったから今度お礼を言わなくちゃ!
裸を隠すローブも貸してくれたし、直視しないように逃げてくれたみたいだし、随分と親切で紳士的な人だったわ。
先生たちにオオカミじゃなかった? なんて聞かれたけど、あれはきっと猫よ! 絶対猫! ピンと立った三角のお耳が可愛い黒猫! そうに決まってるわ!
また会いたいな。あのヘンテコな猫さんに。




