とある記者の手記 1
この学院はやはりおかしい。
私になにかあったときのために、同一魔力による解錠が必要なこのダイアリーブックに記録を残す。
はじまりは数ヶ月前。久しく使われていない事務机を倉庫に片付けていたところ、先輩記者によるものと思われるメモを発見した。
内容を要約すると、
・栄誉ある学院の、神聖魔法学科のみ卒業者が少なすぎることに疑問を抱いた。
・他の学科は大勢受け入れており、今年は神聖魔法学科の定員もかなり多い。
・そう思っていたのは実は何年も前からであったようで、パスワード付きのダイアリーにその年の入学者の数を書きつけていたものが五年分発見された
どの学科も百以上の入学者がいた。
・しかし卒業者名簿を調査したところ、入学者も卒業者も神聖魔法学科のみ二桁。ひどいときは一桁に減っている。
・自分がメモに残していた入学者の数と、学院や公的機関が公表している入学者の数が食い違っており、卒業者の人数に合わせられている作為的なものを感じた。
・学院は禁忌である記憶洗浄儀式を用いている疑惑があるうえ、卒業者に数えられなかった大多数の入学者はどこへ消えたのか?
・調査をするために私も学院の神聖魔法学科への受験を試みることにして、見事合格した。
という内容だった。
また、ダイアリーブックの内容が消えないのは、魔力干渉を防ぐ希少な黒色魔硝石を外装に使用しているからだろうという考察が書いてある。
故に私も同じように黒色魔硝石を使用したダイアリーブックを使用し、外から登録魔力以外では開かない鍵をつけることにしたのである。
先輩記者の名前と日付を確認し、入学者名簿と卒業者名簿を確認したが、彼女の名前はどこにもないことを確認済みだ。
また、このことが本当ならば私の疑問も解決する。
私は新入社員だった頃の教育を担当していた人物がいない。本来ならありえないことである。
急いで探した私の過去の手帳にも、「先輩がいなくなった」と書いてあるのを発見した。身に覚えなないメモ書きである。しかし、確かに私の字だった。
存在を消されたのであろう彼女が私を教育した先輩記者であったのなら、私が彼女の調査を引き継がなくてはならない。
よって、私はこうして入学してきたのだが、ダイアリーに切り貼りした入学の祝辞や学生寮でのルールに関する項目を見てほしい。
明らかにおかしい。
そもそもが、なにか事件が実際に起こることを前提に書いてある規則などあってはならない。
なにが死にたくなければ読め、だ。
校内安全マニュアルを確認してみれば、「噛みつき薔薇」のように生徒が変異してしまっている例も散見される。
ここの学院はいったいなんなんだ。
どうしてこの学院は、いや神聖魔法学科はこんな状態になっているのだろう。
愛と平和の女神シアンリリィにより世界は平和が保たれているはずなのに、どうしてこんなにも恐ろしい場所が世界でも名門と数えられる学院となっているのか。謎は深まるばかりである。
さしあたって、私自身も命の危険がないように安全マニュアルを熟読し、学院生活をしばらく続けようと思う。その中で先輩が存在していたことの手がかりも捜索しよう。
こんな大スクープ。逃すわけにはいかない。
たとえ契約違反で私に裁きがくだろうとも、必ずこのダイアリーだけは残さなければ。
入学者以外であれば学院の秘密を漏らしても天罰はやってこない。
思い出せない彼女のためにも、私は必ず調査を成功させてみせる。
明日から授業が始まる。
手っ取り早く教師に泣きついてどうしてこんな学校なのかと聞いてみてもいいかもしれない。




