21.
金曜日の夜、吹は厨房に立っていた。約束していたケーキを作るためだ。紅茶のシフォンケーキ。米粉を使って作ることに決めていた。紅茶はごく普通のティーパックだ。袋を切って中身だけ使う。ありがたいことに電動ミキサーがあったため、筋肉痛になることはなさそうだ。
うぃぃぃぃん、と大きな音を出してミキサーが回る。ふわふわにするために、絹のようなきめ細かさに焼きあがるように、しっかりとメレンゲを作る。ちょん、とつのが立ってやっと音からは解放された。この後の作業のほうが大切で、緊張からは出られそうにない。
オーブンから出したシフォンケーキをひっくり返す。粗熱がとれるまで待つ。
焼いている間にもうひとつ、作っていた。これはクリスマスのときのではなく、明日のための準備だ。誰もここに来ないということは、もしかしたら四人が持っていくものは手作りではないのかもしれない。
と思っていたが、食堂の厨房を使い慣れている吹と違い、四人は一生懸命、家庭科室を借りて同じ時間にそれぞれ協力しながら制作していた。
「完成」
九個の完成品。人によって甘さなど細かい点は変えている。
おいしくできているか。おいしいと感じてもらえるか。それが心配だ。
告白するつもりはない。でも、喜んでもらいたい。あの笑顔を見せてほしい。
「みんなが幸せになりますように」
ひとつずつ、丁寧に包む。大げさなラッピングはできない。ただ透明のフィルムに入れて、リボンを結んだだけ。それが誰のものなのかわかるよう、リボンの色は変えてある。あとはメッセージも添える。
待ち合わせは二か月ぶりの恵一の家。またご両親は出かけているという。いや、出かけてもらったのかもしれない。また十人で他人様のお宅を独占だ。
「遠いところあっりがとー!」
最初からハイテンションなのは、バレンタインデーだからか期待があるからか。
「いらっしゃい」
「お疲れさまです」
なんとなくぎこちなさを感じるのは、ほんの少し特別の日を意識しているからか。
「みなさんお疲れですか?」
この間と同じ場所にいづみが座りながら尋ねた。
「うん、そうだね……」
そんなことない、といつもどおりぴしっと返ってくるかと思いきや、肯定だ。
話を聞いたところ、毎年バレンタインデーは休校なのだそうだ。というのも、秘書専門の勉強をしていて将来有望、男性として女性の扱いもばっちり、気遣いもできてさらにお顔の整った人が多いとなれば、出待ちする女性がたくさん集まる。
学校の存在は隠せない。生徒たちが女性に群がられてまわりに迷惑がかかり、苦情も多かったことから、いつからか休校としているそうだ。それでもやっぱり渡したい女性たちは、バレンタインデーの前だったり後だったり、こっそりと想い人を捕まえて渡している。断ることはできない男たちは、受け取るしかない。その後は人それぞれになっている。
今年は休日だったため、昨日一昨日とその前からも、女子が学校のある道ぞいに距離を保って群れていた。通れば捕まって受け取って、歩けば捕まって受け取って、しかも会話とたまに諍いもついてくる。それに疲れている。そして今日、たまたま駅近くで彼らのことを知らない女性たちに捕まってしまったらしく、すでに疲れてしまったのだ。
「逆ナンですか」
「イケメンは大変ですわね」
「え、オレってイケメン?!」
麗華にイケメンと言われてくいつく恵一だけは元気っぽいが、恵一も捕まってしまったひとりであり、離れられなかった四人をうまくかわした立役者だ。
「というわけで吹ちゃん、消耗した俺たちに遅いクリスマスケーキ、よろしくな」
孝支が笑う。でも疲れている顔だ。彼は三年生。これで最後だといいけれど、進学でも就職でもなんでも、同じことは続くと思う。きっと幸もたくさんの女性に近寄られていたのだ。もやもやする。そういえば、顔を見ると赤くなってしまう気がして、まともに顔を見られていない。きっと疲れた顔をしているのだろうが、労いの言葉もかけられない。吹はどうしていいかわからなかったため、孝支に助けられた。
「あ、はい」
ケーキを箱から出す。
「お?」
見た目はとてもシンプル。茶色のドーナツ型のふっくらしたケーキ。ちょっとつぶつぶしているように見えるのは、茶葉だ。
「紅茶のシフォンケーキです」
「うお、手作り!」
手作りは重いと思われると聞く。でも、この反応は大丈夫か。
「すごい、シフォンケーキって難しいんだよね」
「ふわふわ!」
包丁を入れただけなのに、その重みでケーキが沈んだのを見て、女性陣もはしゃいでいる。
それぞれのお皿に乗せてから、もうひとつ、タッパーを取り出す。ぱこっと蓋を開けると、ホイップクリームがたっぷり詰まっていた。
質の良いクリームは、簡単にホイップできる。朝にかきまぜて詰めてきた。保冷材もばっちり。ほんの少しとろけて流れるくらいに、ゆるい仕上がりにしてある。とろりとかけると、うまそー、と声が漏れた。甘さ控えめのクリームがしっとりしたケーキを包む。
「ど、どうぞ」
クリスマスのとき、みんなは購入したホールケーキを持ってきていた。もちろんプロが作ったものだから見た目も味もばっちりで、自分の手作りと比べ物にならない。口にしても問題ない味でありますようにと、どきどきしながら待つ。ホールケーキのため、味見をしたのは型に残ってしまった生地のかすだけ。
「うまーい」
「おいしいですわ」
「おいひぃ~」
「手作り最高!」
「クリームばっちりです」
賛辞がとんでくる。本当かわからない。みんな優しい。とりあえず口に運んでくれるということは、食べるには問題ない味なのだろう。そこだけは安心した。やっと自分もフォークをケーキに入れた。
「おいしいぞ」
はっと顔が上がる。今日、初めてしっかりと彼の顔を見た。
空になったお皿。食べ終わっている。
「ありがとう、ございます」
途中で顔をそむけてしまった。嬉しくて恥ずかしい。
続ける言葉が選べずに、ケーキを食べることでごまかす。何人かが、平和に見守っている。
おしゃべりしながらケーキを食べ、今度は全員で片付けた後。
「よっし、じゃ、ここ行こ!」 元気に恵一が言った。
「お疲れでは?」 澄子の心配に、
「ケーキで元気出た!」
単純な方ねぇ、と呆れている麗華をよそに、カフェに行こうと言ってくる。そこは、バレンタインから一週間、カップルで行くと一人分無料になるキャンペーンをしているそうだ。ちょうど五対五だからみんなで行って、半額で飲み食いしようという算段。
お店を検索すると、おしゃれなカフェだった。花がたくさん飾られている。
「素敵なところね」
というわけで反対意見はなく、さっそく出発。さっき食べたばかりなのに出発なのは、男たちの間では話し合いが終わっていたようだ。それぞれ近くの女性の手をとって、すぐに外へ出た。そのまま女性陣は帰宅のため、荷物を持って。でもほとんど相手に持たれてしまう。これはバレンタインと言えるのか。
そしてなぜ、こういうときに。
「行くぞ」
吹の案内は幸がしてくれた。
「じゃ、店で!」
「え?」
それぞれ違う道で同じ道へ案内するらしい。
「まとまっていると、目に留まっちゃうから」
そういう理由。
まだ心の準備ができていないのに。
手をつないでいる。
もちろん、恋人同士のそれではない。
でも、でも。
心臓が大きく脈を打つ。
どうしていいか、わからない。
「どうした、なにかあったか」
ありました。心境の変化。名前のついてしまった感情。
「いえ、その、ケーキ、心配だったので」
嘘ではない。これからのカフェで、口直しができて安心している。
「うまかった」
心臓が跳ねる。どうしよう、この一言で、こんなに嬉しいなんて。
自分で持つと言っても聞いてもらえなかった、もうひとつの紙袋。それは、どうだろう。毒見はしてある。味は好みだろうか。
ずっと下を向く吹きを心配したのか、足が止まる。手をつないでいるため、吹の足も止まる。
手が離れた。
ぽん
「安心しろ」
大きな手が、頭に乗っている。この大きさが、やさしさが、あたたかさが、好きでしかたないんだ。
くすりと幸が笑う。今日はサングラスはしていない。下から見た幸のきれいな目も、笑っているのがわかる。
「こうすると、上、見るんだな」
吹が下を向かないように、してくれた行為。
「遅れるぞ、行こう」
大きな手にもう一度手が包まれる。ゆっくりと目的の店へ進んでいった。ほんの少し擦れる二人のコート。これだけでも胸がどきどきする。早く店に着きたい、でも着きたくない。どきどきしすぎて、心臓がどうにかなりそうなのに。
「お、来た来た」
四番目の到着だった。最後は意外にも恵一。
「れいかちゃんが人目気にしちゃってさー」
麗華がふん、と顔をそむけているが、恥じらっているのは間違いない。耳が少し赤い。こそこそしながら歩いてきたらしい。そっちのほうがより人目につくと思うが、本人はそう思っていないらしい。
「ちがいます! お店がみんな素敵だったのです!」
「うんうん、そういうことにしとく」
第一に到着した仁志が名前を書いて待っていたため、十人一緒で入れる。
「今日は予約できなくて。待たせてごめんね」
一人分無料となれば、並んでもらうのが平等だろう。待ち時間はメニューを見てなにを食べるか選んでいた。カフェであり、特別キャンペーンをしていることも重なって、なかなか順番は回ってこない。待ち時間はあの漫画の話題で盛り上がっていた。吹が読み終わり麗華に渡した後、一気読みしてしまった麗華は既に郵送で返却したという。
どこが好きだったか、想像と違ったシーン、今後の進みの予想などを語り合う四人と恵一。たまに仁志と巧が口をはさむ。それを三年二人は保護者のように見守る。聞いているだけで楽しい吹は、まとまった列の後ろで耳を傾けていた。
「おまえは入らなくていいのか」
幸の顔が近づいてきた。つい後ずさると、ぽん、と孝支の体にぶつかる。
「あ、ごめんな、さい」
「問題ない。せっかくならあのなかに入ってきたら」
今度は孝支の顔が近い。ひぃ、と心の中で叫んでから答える。
「いえ、あの、わたしは聞いてるの、だけで、十分、です」
「そうか」
いつも深入りしないでくれる孝支のやさしさが身に染みる。おかげでさっきの恥ずかしさが薄まる。
「もうすぐ順番だよ」
背中にそっと孝支の手がまわったが、後ろの人に迷惑がかからない程度に詰めただけだった。そのまま少しの間、漫画のことを聞かれて答えてを繰り返す。はいといいえと、ちょっとした感想で済ませることができる質問で話しやすい。ほっとする。
幸は二人が楽しそうに会話しているのを見て、どこか落ち着かない気持ちだった。なぜだかわからない。孝支と自分の立場がどうして逆ではないのか。考える前に手が動いた。が、吹に気づかない角度で孝支がその手を阻む。器用なやつだ。
「今はこのままで」
そういえば、少し前から吹の様子がおかしい。どこかよそよそしい。なにかしたか。孝支は吹のために距離を置けと言いたいのだ。理由はまったく違うが、商店街のときのように。
手はすぐにひっこめた。が、動かしたい。ぎゅっと拳を握ることでこらえる。あとは二人の姿が視界に入らないよう顔をそむけることしかできなかった。
「お待たせしました、十人でお待ちのイチさま~」
仁志が一番だったが順番表にはイチと書いたらしい。店員の声が呼んだ。十人というとカフェに入る人数にしては多すぎる。四人と六人にわかれると説明を受け、もちろん了承した。
「すてきね」
ドライフラワーが店内にところせましと飾られている。ほこりがついているものはひとつもない。
混雑を予想していた店は、並んでいるお客様に先まわりで注文を受けていた。追加は問題ないが変更はなし。プレートの料理が思った以上に早く運ばれてきた。
「意外にもりもりじゃね?」
「ですね」
こういうカフェは、映えることで人気になる。SNSで目に留まるだけで人がくるのだ。だが実際は見た目が同じでも量が少ないことが多かったりもする。が、ここは先にスープが運ばれて、たっぷりの野菜が盛られたメインプレートがあとに机に並ぶ。
恋人ではないがペアで来店している十人はしっかりカップルと認識された。デザートと一緒に飲み物までついている。ブラックボードには野菜の産地まで書いてあり、メインのおかずも時間をかけて作っていることがわかる説明がある。デザートは今のキャンペーン中のみ店主の気分次第ではあるが、本来はいくつかのメニューから選べるそうだ。飲み物はコーヒーか紅茶。アイスとホットを選べる。
「また来たいところね」
「ひとくちちょうだい」
そんな会話が飛び交う。吹は豚の角煮に見える豚バラを使用した洋風ローストポークにした。
「吹さんはお魚のイメージでした」 意外なのを面白そうに巧が言った。
「僕も」 仁志も同じらしい。
厨房を借りて作れないことはないが、煮豚は時間がかかるので作っていない。こういうときしか食べられない手のかかるお肉にすぐに決定した。それを説明すると
「作れるの? すごい」
調味料を入れて煮るだけの簡単料理だ。ほんの少しだけ時間がかかる。すごいなんてものではない。なんて答えればいいかわからず、野菜を咀嚼することでごまかす。
「お魚も、えと、悩んだのですが」
なにも答えないのも気が引けて、伝えてみた。白身魚の香草焼きがどんとプレートに乗っている。これは作れなくはないが、香草の選び方で味は異なる。食べれば参考になると思った。だが天秤は豚肉に傾いたのだ。
「食うか」
フォークに乗った魚の切り身が、声がかかったほうに顔を向けたとたんに目に入る。一緒に幸の顔も。
目の中にうずまきがまいている。
これはどうすべき?
いただきますと、そのままフォークの先をぱくんと口に入れられればなんともなかっただろう。だがそれはできない。だって、だって。
「幸さん、ちょっとそれは~っ」
吹の相談を受けている澄子が、がたっと椅子を立って止める。吹の気持ちを考えてのことだ。
「せめてお皿に乗せてあげてください」
巧がいらない一言を発する。ばっと澄子が巧を見るが、巧は、この人はもう、と幸を見つめるばかりでその視線に気づかない。オフだと敏感さが鈍るのか。
「悪い」
ぽん、とプレートの端に魚が乗っかった。これでは自分もあげないとフェアではない。
「ではこちらも、どうぞ」
いらないと言われる前に、脂ののったバラ肉を大きく切って同じく幸のプレートへ。これでバランスがとれる。
「すまん。そんな気はなかった」
「わかってます」
なんかぎこちないですね、と巧が澄子に囁くが、澄子は苦笑いでかわしたのだった。
デザートが届く。バレンタインのキャンペーンだからかチョコレート系はさけたのだろう、チーズケーキだ。吹は自分の選択を恨む。
いつもはなんでもおいしそうに食べる吹がどこか不安な顔でいるのを見て、男三人は今度こそ首をひねる。
「悪いが待っている人が多い。早めに出るぞ」
孝支が声をかけた。お茶までゆっくり楽しんだ。おしゃべりしていては並んでいる人に申し訳ない。次の人のことも考えて行動する孝支。孝支でなくてもそうしただろうが、すぐに指示を出す彼はさすがリーダーだ。
「お会計は……」
レジで店員とやり取りしている間に外に出る。ごちそうさまでした、と伝えるのを忘れない。
「自分の分は自分で出します」
外に出て財布を取り出すみんな。
「いや、いいって」
「今日は半額ですよ」
「でも」
「あのね、ホワイトデーにはたぶん会えないから、お返しってことなんですって」
こそりと麗華が言った。恵一から聞いていたそうだ。まだ誰もバレンタインのお菓子を渡していないのに。だがみんな受け取る前提で進めていた。ふてぶてしいとは思わない。彼女たちがきっと用意してくれる人間だと、わかっているから。
「と、いうわけで」
恵一が持っていた袋を指さした。
「そちら、バレンタインのチョコですわ! みなさんで召し上がって」
「ちょっとー、そういうのは直接ほしいんですけど!」
はいはい、と返された袋を受け取る麗華。仕方ないですわね、とみんなに手で渡す。
「ありがとうございます」「ありがとう」「嬉しい」
そんなかんじであとの三人も続く。吹も続こうとしたときだった。
ぞくり
背中に寒気が走る。振り返ってはいけない。この場を、離れなければ。
離れたい。
離れないと。
だって、わたしは。
そう思っているのに、足が動かない。
「吹」
ぞっとした。そうだ。この声。やはりそうだ。背中側にいるその人の顔は見えない。声も大人のものに変わっている。でも、これは、あの人だ。
「失礼ですが、どちらさまですか?」
吹の顔が真っ青になっているのを見て、孝支が全員を庇うように声のした方向へと体を向け、前へ出る。吹はほんの少し、顔を後ろへ向けた。その人の顔が、端だけ目に入る。その後ろに、ずっと後ろに、もうひとり。
「突然に申し訳ありません、僕は、吹の……吹さんの、婚約者です」
人前ですので名前は伏せさせていただきますね、と屈託なく笑う。
「「え?!」」
同じ反応がいくつも重なる。
「吹、偶然会えるなんて、これは運命としか言いようがないね」
近づいてくる気配。孝支も婚約者と聞いたからか、するりと通りぬかれてしまっている。すぐそこにいる、声の主。
離れろ。離れろ。ここから離れろ。
ぽん、と肩に乗せられた手が硬い。
「そんなに緊張しないでよ。もっと喜んでくれるほうが嬉しいんだけどな」
今度は困ったように笑う。顔を動かせないのに、目の端で、捉えられてしまう。
「すみません、ご友人との外出を邪魔してしまって。ですがつい、婚約者を見つけたら勝手に体が動いてしまったのです」
どうかお許しを、と彼は頭を下げる。
「悪いから早々に退散するね」
立ち去るすれ違いざま、彼は吹に囁く。しっかりとその言葉は聞こえた。脳内に響くように。
「じゃ、またね」
手を振って、もう一人のいるほうへ小走りで去っていく。
「ご、ごめんなさい」
手が震える。ばれてしまった。だめ、もうここにはいられない。
「わたし、ちょっと気分が悪いので」
帰ります! と思った以上に大きな声が出た。叫んだ時にはもう走っていた。
「誰も、追ってこないで」
お願い、追ってこないで。ひとりで、帰らせて。
「ど、どうしたのかしら」
動揺する麗華たち。唖然とする男たち。その足は地面に張り付いたままだ。
「事情があるのかもしれない。明日、聞いてみてくれるか」
全員首を縦に振った。
「あ、幸先輩。それ」
巧が見た先は。それとは、幸が持っていた吹の持ち物の袋。
「バレンタインのお菓子じゃない?」
「申し訳ないけど、配ってわたしたちも帰ろう」
袋の中には、九個の三角形がきれいに平衡に並んでいる。
「チーズケーキ?」
底にクッキーが敷いてある、ベイクドチーズケーキ。保冷剤も入っている。
「そういえばさっき、デザート出てきたとき、あって顔してたかも」
「そういうことでしたか」
かぶったからだ。取り出した澄子。
「人によって違うみたいよ」
リボンに名前が書いてある。
「これは孝支さん、これは恵一さん、これは……」
それぞれ渡されていく。
「わたくしたちの分もあるのね」
それらは袋に入れたまま帰ることになった。
「リボンがカラフルで。かわいい」
イメージカラーだろうか。赤、青、茶色、黄色、金色、他にも。
「せっかくなら、直接がいいって言ったのになー」
「事情聴取、頼む」
孝支が別かれる際に言い残し、運転手は車を動かした。
「あのときの吹さん」
ぼそりと仁志が話し始める。
「なんか怯えてるみたいに見えた」
うん、と恵一もうなずく。
「なにか、嫌な予感がする」
それは誰も口にしない。思っていることは同じだ。
「あの男、誰か知ってるか?」
「いえ」
「全力で調べる」
休日のはずだが、全員、学校だったり家だったり、自分で調べるのにちょうどいい場所へと、散っていった。




