プロローグ
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緑が豊かでありながら、世界有数の発展国として名を轟かせているアトレア王国。
その王都では今日も人々の活気あふれる生活が送られていたが、王城の会議室では全員の表情が重かった。
「やはり、『デュデチム・クラディス』の復活は近いか」
国王と思しき老年の男は呟いたが、少しの者が多少の相槌で応答するだけである。
「我々にできることは何もないのか」
「国民に公表しては…、必ずや混乱を招きます。未だ不確定に近い情報ですし…」
「分かっとる。しかし、奴らが復活すれば確実に最初に狙われるのは我が国だ。かつて奴らを封印したのは我の先祖なのだから」
老年の男は天を仰いだが、視界に広がるただの天井にため息をこぼした。
「せめて、国民たちだけでも助かればよいのだが」
「やはり、辺境伯たちを呼ばなかったのは間違いだったでしょうか」
「不確定に近い情報で辺境伯たちも死の危険にさらし、万が一の時にこの国の政治を行える者がいなくなっては困る。ただそれだけの話だ」
途端、老年の男は一瞬表情を曇らせたが、すぐに表情を戻した。
「やはり来たか、『デュデチム・クラディス』」
「今日は俺、フィニスだけだ。他のメンバーの顔も見たかったか?」
フィニスと名乗った青年は、黄土色の髪にサファイアのような瞳を持つ普通の人間に見えるが、その雰囲気からは禁忌を漂わせていた。
「それで、かつての恨みを果たすべくこの国を滅ぼしに来たか」
「滅ぼしに来たのはお前らアトレア家の血だけだ。俺たちは世界を滅ぼしたくてやってるワケじゃない。支配が最終的な目的だ」
「そうか。ならば一つ約束してもらいたいことがある」
「何だ、命乞いか?」
「このアトレア王国の民を、誰も傷つけないでくれるか?」
「向こうから襲ってきたりしなければそれは約束しよう」
フィニスは爽やかな微笑みを浮かべたまま、右手の掌に紫色の小さな球体を作る。
「それじゃ、さようなら」
その球が床に落ちた刹那、その空間は歪んだ。
「次こそは、我が国民が貴様らを討伐する」
「そっか。じゃ、期待してるからな」
それだけ残して、フィニスは姿を消した。
王城は膨張した魔力の球に捻じ曲げられ、押しつぶされ、たった数十秒でその敷地から全てを消し去った。
*
その様子を国立図書館の窓から見ている一人の少女。その目には、禍々しい魔力によって美しい城が崩壊していく過程が映されている。
群青の長髪を揺らし、緋色の目をいっぱいに開くその少女の名は、ソーラ・クランベル。
十二歳の少女は、その光景に涙していた。