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光呑む

作者: 雉白書屋

 ジョギングが趣味である美咲は今夜も一人、部屋でストレッチ後、自宅マンション前から走り始めた。

 仕事のストレスなどは走って解消が彼女の常。主にこの近辺を走るのだが今夜は余力がありそうだ。なので少し足を伸ばしてみることにした。

 探検気分、と言うほどでもないが知らない道と知っている道が繋がるのが少し楽しい。順調だった。ある橋に来るまでは……。


 ちょうど橋の中央で美咲は足を止めた。

 ふと眺めた川。川沿いの道に立ち並ぶ外灯が水面に映る。

 暗いから見下ろしても鯉などの魚はきっと見えないだろう。目を閉じ、緩やかな川の流れの音に聞き惚れる。


 ――ん?


 目を開けた時だった。違和感。まるで間違い探し。先程とどこか少し違うように感じた。

 なんだろうか……。いや、気のせいだろう。そうでなくても、そう片付けてしまっていいことだ。深く考える必要はない。

 そう考えた美咲はまた走り出そうと足に力を込めた。


 ――えっ


 まただ。違和感。しかし、気のせいではない。もしかして、の段階ではあるがそれは


 ――あ


 今、確信に変わった。光だ。光が消えたのだ。

 一つ。また一つと。水面に映る光が消えた。

 何かがおかしい。何か……そうだ、外灯は点いたままだ。消えたのは水面に反射する光のみ。

 そう気づいた瞬間、美咲は走り出した。その怖気を振り払うかのように。



 マンションの自分の部屋にたどり着き、鍵を閉めると、ようやく安堵の念が込み上げてきた。

 しかし、先程のものを思い返すとまた肌が粟立った。


 ――川の中に何かがいた。巨大な何かが。そしてそれは私を見ていた。


 美咲はその日を境に川には近づかないと心に決めた。

 しかし、夜走ることはやめなかった。学生時代、陸上部だった美咲は走ることが習慣であり、喜びであった。

 日を空け、川とは真逆の方向、山と畑の間の道路を走った。

 人気はない。外灯も疎らだ。不審者に追いかけられたら……と思わないでもないが、追いつかれない自信があった。


 順調だった。あの川の怪物などなかった。気のせいだと思い始めたほど何も起きなかった。そうとも、あるはずがない。怪物なんて。


 ――え


 だが、またしても全身の毛が逆立つ感覚がした。

 そして、進路上にある外灯の光が消えた。否。消えてはいない。一瞬、消えたと思ったが点いていた。ただ、外灯の下、円状に広がっていた光が消えたのだ。

 一つ。また一つと。こちらに迫るように。

 そして美咲は気づいた。


 川の中にいたんじゃない。上だ。


 見上げた瞬間、美咲の全身を影が覆った。

 あるいは影が覆った瞬間、反射的に真上に向いたか。どちらでもいい。そこにはあるはずの星空はなく、暗い暗い闇。穴。

 逆立つ髪の毛。全身を引っ張られ、足が浮く感覚は気のせいではなかった。

 頭によぎったのはいつかテレビ番組で見た話。荒唐無稽だと、馬鹿だと鼻で笑った。

 UFOなどと。エイリアンなどと。誘拐などと……。

 だが、もう乾いた笑いさえ出なかった。

 その穴は恐怖も意識も全身丸ごと呑み込んだ。

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