憧憬のランドセル
このお話は私の代表作『こんな故郷の片隅で 終点とその後』の第18部分以降のアナザーストーリーとなります。
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遊び疲れて寝落ちしてしまったらしい…
気が付くと男の腕の中に居た。
窓の外はすっかり明るい。
こんなに長い間、腕枕させて悪かったなあ…
私はズズズと頭を擡げて男の腕に絡まっている髪を引き抜く。
それらの気配に薄っすら目を開けた男に口づけして脱ぎ散らかした物を身に着けた。
「そろそろ行くね」
身を起こした男の手を逃れてシャツの袖に腕を通す。
「仕事?」
「うん」
「急ぎ?」
「うん」
「こっち来るときはまた寄ってよ。オレも浄水器買うからさ」
「それはダメ」
「何で?」
「私は枕営業しないから」
「ハハハ じゃあ商売抜きなら?」
「それもダメ」
「何でさ!」
「キミを私みたいな根無し草にしたくないから」
「えっ?! 意味わかんね」
私はちょっとだけそっぽを向いて薄くため息をつき、向き直って彼の頭におでこをコツン!とくっつけた。
「私との遊びは今日までして。キミはいいヤツだから。ちゃんとした人を見つけなきゃ!見境ない私に関わっちゃいけない」
「冴チャソはそれでいいのかよ!」
「私?! 私は『新規開拓』って仕事があるから…全国津々浦々行くところはいくらでもある。そうね、『寅さん』みたいにね。」
「『寅さん』はエッチしないぜ」
「アハハハ!女寅さんになり損ねた。」
「オレが…冴チャソの為に指輪用意したって言っても?」
「嫌いだよ! 女々しいのは! それにね、私の左の薬指は…誰かの背番号みたいに永久欠番にしてあるの」
「ちぇっ!! そんなカビ臭い話をするヤツはオレの方から願い下げだ!」
そう言って彼は私の髪の毛がくっついたままの枕にボスン!と拳を埋める。
そんな彼に私は最後のキスをしてその裸の胸にそっと手を置いた。
「風邪、ひかないでね」
キャリーバッグを引いてエレベーターから表に出ると赤いランドセルとすれ違った。
一年生?
まだまだランドセルがスキップするような可愛らしい背の高さだ。
思わず目で追うと…ランドセルは閉まって行くドアに隠れてしまった。
「優しかったな…」
私がこの世に呼び戻したい大切な人…
優しい彼のなら、来てくれるかもしれない…
私は自分のお腹に…彼にしたみたいに…そっと手を置いた。
もし冴ちゃんが英さんとお別れしたままで…“あかり”を産む為に様々な男たちを渡り歩いたとしたら…
書いているととても悲しくなって、1000文字行きませんでした(/_;)
やっぱり冴ちゃんは幸せで居て欲しい!!
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