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娘の話

作者: 保田の母

近所の病院に行った。その病院は、古びた青リンゴのように見える。病院の中に蛍光灯が見えた。丸い小さな椅子に座った。めがねの先生がこっちを見ている。先生は女性の先生だ。2個か3個か、どうでもいい話をした。カタカタと音が聞こえる。瞳孔が開いている。やがて動いた口が、歪んでいるように見えた。


私は家に帰る。なんだかやけに疲れている。腕と肩が痛い。腰も少し。肩のあたりを少し下げるとそこにシミがあった。なんだかやけに疲れていた。


靴を脱いだら椅子に座った。椅子に座って沈み込んだ。沈み込むと酔いが回って、やがてぐるぐる落ちていった。遠くでトンネルの音がした。反響している。森の声が聞こえる。さらさら言っている。少年のような、少女のような声が立て続けに聞こえると、やがてジャリジャリ言い出した。ジャリジャリジャリジャリ言っている。しばらく音が鳴り続けてから、どつんと何かにぶつかった。ぶつかってなぜか前に倒れて、倒れ込んだ地面の感触が、ゴツゴツとして痛かった。その時初めて、脳がガツンと揺すり震えた。血の匂いがする。きっとすりむきでもしたのだろう。しかし前が見えない。思ったらさっきからずっと真っ暗だ。何にも見えない。怖くなってくる。汗が滲んでくる感覚だけわかる。しかし辺りはさっきよりも、寒くなったような気がした。薄寒い。怖くなる。走り出す。ジャリジャリ音がする。足元がおぼつかずぐらつく。しかし走る。脳が揺れる。平衡感覚をどんどん落としていく。渦の中に落ちていく。グラグラしながらまだ走る。

走る。

走る。

走る。

走る。

「どん。」


「遠嶋さん、昼頃から行方不明になっておりました、例の病院の罹患者ですが。」

「あぁ、あの妙なやつか。診察中に急に人が変わったように激昂し出して、意味のわからんことをまくし立ててから、相手の先生を、鞭のようなもので殴り始めたって言う。」


その後、悲鳴を聞きつけた病院のスタッフ数名が制止しようと駆けつけるもそれを薙ぎ倒し、狂ったようにして逃亡。やがて行方が分からなくなっていた40代の男。徒歩で来院していたという男の情報を聞いた県警の刑事は、病院が山の麓に位置していたこと、男が正気を失っていたことを考慮し、近くの住宅街と、その山中とに警官をバラけさせて捜索。捜索から三時間ほど経ってからの発見となった。


「それがですね遠嶋さん。その男の発見場所というのがなんとも妙な場所でして。」

「妙な場所?」

「ええ。それが、あの村の、小屋のひとつ。発見された檻の真ん前で、血を流して倒れていたと。」

「なんだって?」


その日、3名の死体が上がった。女の子は檻に繋がれていた。男はトンネルで寝ていた。件の彼は、檻の前で倒れていたと、刑事さんらしき、声がふっと聞こえた。目の前が見えなかった。母が泣いている声が聞こえた。


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