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体さがし  作者: 青山獣炭
六日目
59/67

Part4

「もう体は、さがさないのか?」

「こんな顔になってまで、体をさがせないわ。とても周囲の目に耐えられない┄┄。それに、それなりの覚悟をして、秀弘の体を焼いたんだし。もういいわ」

 窪原は何て言ったらいいのか、まるで分らなかった。頼子が精一杯強がっているのが、伝わってきて胸が痛んだ。


 彼は、頼子をそっと抱き寄せた。彼女はそうされると、さめざめと泣いた。

「┄┄さようなら。今まで、いろいろありがとう」

 ひとしきり泣いた後、彼女は言った。

 頼子は踵を返して、小屋を去ろうとした。

「待ってくれ。せめて海まで見送らさせてくれないか」

 すると頼子は、かん高い声で笑い出した。狂ったような、もの悲しい声だった。そんな笑い声を、窪原は今まで聞いたことがなかった。最後まで心を傾けなかった彼を、糾弾するような笑い声だった。


「ちゃんと見届けなくても、だいじょうぶ。わたしは、あの女みたいに死の淵から蘇ったりしないわ」

 皮肉めいた言葉を残して、頼子は窪原の許から去って行った。


 彼は目眩を覚えて、その場にへたり込んだ。頼子は俺が殺したようなものだ、窪原は思う。とうとう頼子を死に追い遣ってしまった。俺に出会わなければ、こんなことにならなかったのに。現実の世界のみならず。この島に来てからも、俺は随分と酷いことをした。夢に翻弄された結果とはいえ、どこかで妥協できなかったのか。できたはずだ。頼子を現実の世界に連れ帰ることは、彼女を裏切り続けた俺の義務ではなかったのか。


 考えれば考えるほど、後悔が頭を駆け巡り、決して戻ることのない時の流れが、窪原を苛んだ。



          *



 〈導き〉は、危篤に陥った人々が、この島で必ず最初にやって来る草原にいた。

 足元には、水色のパジャマを着た赤子が横たわっている。まだ半年にも満たない赤子である。怯えているのか、声の限り泣き叫んでいる。

 〈導き〉は、例の無表情な顔つきで、赤子を見つめていた。


 彼の傍らに、突然男と女が出現した。この二人は赤子の両親であった。

「今日もご苦労様です」〈導き〉は二人に声を掛けた。

 母親の方が、赤子をひろい上げて、やさしく抱きしめた。赤子の泣き声が止まる。

「直人ちゃん、もうすぐだから、がまんしてね。パパとママが今日中に体を全部見つけてあげるから」母親は言った。


 危篤になった者が、まだ幼くて独りで体さがしができない場合、特別な措置が取られる。より血縁関係の近い者が代わりに作業をすることになる。この赤子の場合は、両親なのである。

 彼らは夜、夢の中だけで息子の体さがしをしていた。当然のことながら、昼間は現実の世界の生活があり、覚醒しているため、この島での体さがしはできない。


 親子は急ぎ足で、体さがしに出掛けていった。赤子の、痛みに反応して泣き叫ぶ声だけを頼りに、体さがしをするのである。彼らに与えられている時間は少ない。両親は、夕暮れ前に現実の世界に帰らなければならないのである。


 もちろん赤子も、夜は悪夢を見せられる。小屋の中で、ただ独り地獄を味わう。〈導き〉は、赤子自身の深層心理を常にチェックしていて、死を選択した場合、すぐに北の海に連れ去ることになっている。

 もしそれが近しい者といっしょにいる昼間だった時は、必ず修羅場になる。例えば、どうしても諦めきれずに強く抱き締めている母親の腕から強引に、赤子を奪っていくのである。人さらいのようなものだ。


 感情の動きというものが、ほとんどないと云っていい〈導き〉でさえ、懇願し泣き崩れる親族の叫び声に、やり切れない気持ちになるのであった。だから、〈導き〉は赤子のようなケースの場合、体さがしが、うまくいってくれることをいつも願っていた。

 〈導き〉は、親子の後ろについて体さがしの手伝いをしたくなる衝動を抑えながら、じっと見送った。


「あの┄┄」

 ふと、少女の声がした。

 声のした方角に首を振ると、そこに美咲が立っていた。少女は、スコップ両手で持ち、首筋にあてがっていた。

「どうかしたのですか」

「おしえてください、〈みちびき〉さん。わたしの頭はどこにあるの?」

「そんなことは、教えられないんですよ」

「わかってます。でもおしえてほしいんです。わたし、いっしょうけんめいさがしたわ。でも頭だけ、どこをさがしても無いの。頭が、たくさんある所にも行ったわ。┄┄でも見つからなかった。どうして? どうしてわたしのだけ無いの?」

「頭だけ見つからない人は、貴方だけじゃないですよ。みんな苦しんでいるんです」

「どうしても、だめなんですか」

「そうですね」

「じゃあ、いいわ。わたし、自分の首を切り取って、それを頭のかわりにする」

「何だって?」

 美咲は、反動をつけて、スコップで自分の首を刺した。

 血しぶきが上り、ひゅううという笛が鳴るような声がして、美咲は倒れた。

 〈導き〉は、あわてて駆け寄り、少女を抱き起した。

 血が、傷から吹き出し、美咲のパジャマや〈導き〉の手を赤く染めてゆく。

 美咲の瞳が虚ろになる。遠ざかろうとする意識の中で少女は、なおもスコップを横にずらして首を切断しようとした。

 〈導き〉は、少女の手を握って、それを制した。すると、美咲の瞳に生気がよみがえり、凄まじい目つきで、彼を睨んだ。


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