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体さがし  作者: 青山獣炭
六日目
58/67

Part3

「┄┄判りました。出掛けましょう。置部さんの体も、あと二つなんですもんね」

「それは、どういう意味ですか。僕のためにということですか?」

「いえ┄┄」

 置部の繋がっている手に、真菜の強く握る力が伝わってきた。

 彼は、とまどいを覚えつつも体さがしをするために、彼女と共に歩き出した。



          *



 窪原は、いったん小屋に戻って右手を置き、スコップを持った後、広場中央の建物に向かっていた。


 彼はまず、自らの性器をさがそうと考えたのである。埋まっている場所は、限られた面積なだけに、比較的容易に見つかる気がしたからだ。またも地下室に入ることになるとは、思っていなかっただけに、足取りは重かった。


 小屋の住民たちは、もう体さがしに出掛けてしまっていて、あたりに人影は見えない。

 やはり独りで例の地下室に降りるのは、心許なかった。もし知り合いが近くにいるのなら、いっしょに入って欲しいぐらいだった。

 そう思っているところで、十メートルほど離れたところに知っている人影を認めた。

 置部だった。声を掛けようと思ったが、女と二人連れだったので、止めることにした。しかも彼らは、暗鬱な表情で、言葉も交わさず歩を進めている。とても話し掛けられる雰囲気ではなかった。


 仕方なく窪原は、建物に向かって歩いた。程無くして建物の入り口に着いた。

 昨晩、この建物の前で消えた頼子と男女は、どうなっただろうかと彼は思った。体が揃う可能性が再び出てきて、改めて頼子のことが気掛かりになり始めていた。〈導き〉は罰を課すと言っていたが、果たしてどんな罰なのか。ふと窪原は〈地迷い〉と呼ばれている男のことを思い出した。

 彼は頼子のことを考えながら、入口で躊躇し続けた。


 この建物の入口で、かつて赤本は絶望して泥酔していた。松瀬は、怖じ気づいていた。だが、今や二人とも、もうこの島にはいない。一人は死に、一人は生還した。俺は、はたしてどっちになるのだろうか、窪原は思う。

 意を決して三度目となる階段を、ゆっくりと降りる。


 地下室に入ると、例によって老婆の幻影が近づいて来た。何度経験しても、この笑みに囲まれるのは嫌なものだった。

 目を閉じて、一瞬でも早く股間に痛みが訪れるのを願いながら、歩き回る。


 ┄┄時間の感覚を彼は失った。随分と長く、この地下室にいるような気もするし、つい先ほど歩き始めた気もする。


 そうして、どのくらい歩き回っただろうか。やがて、体験済みの痛みを感じた。目を開ける。

 窪原は、驚いた。そこは、前に性器があった場所と同じだったのだ。

 スコップで掘りながら、ひょっとしたら、他の体の部分も全て見つかった場所に埋まっているのではないかと彼は思った。だとしたら──。

 彼は急いで、陽物を氷の中から取り出し、ジャケットのポケットに入れた。ポケットが異様に膨らんだ。


 忙しい日に、なりそうだった。

 今まで体を見つけ出した場所を、一つ一つ丹念に思い出し、効率良く回ることを考えながら、窪原は小屋に戻った。


 性器を床に置き、ベッドに腰掛け、一本だけになった煙草を吸う。空になった煙草の箱を眺めていると、本当にまたこの箱に、煙草が戻ってくるかどうか不安になる。

 彼は煙草を咥えて、昨日森から持ってきた六つの左手を床に並べた。

 右手で煙草を持って、自らの左手をじっくりと眺めつつ、左手らと見比べる。


 やはり眺めているだけでは、判断がつかなかった。煙草を床にこすり付けて、揉み消す。箱に煙草が戻った。

 窪原は、床に並んでいる左手を、一つ一つ右手で持って、仔細に自分の左手と比べた。間違えると大変なことになってしまう。手相や指紋、指の形、手の甲を検討して、彼はようやく、その内のひとつが自分のものであるという確信に至った。


 自分の左手を床に置き、他の五つの左手を抱え、彼は昨日の森に出掛けることにした。本当は自分の左腕を見つけてから、それとくっつけてみるのが確実な方法だったが、他人の左手を持っているのは気分が悪かった。こうしている間にも、左手をさがして島を彷徨っている者がいないとも限らない。あまり長く持っていると、〈導き〉の懲罰を受けるかもしれないという恐れもあった。


 ドアを開けると、そこに人影があった。

 俯いて、長い髪が垂れ下がっている。髪の感じからして紛れもなく、頼子だった。

「どうした」

「昨日は、ごめんなさい」

「┄┄いや、いいんだ。俺も悪かった。〈導き〉のおかげで、体の方もなんとかなりそうだし。もう気にするな」

「えっ?」

 頼子は顔を上げた。窪原は、その顔を見て、思わず呻いた。

 彼女の顔全体が、酷い火傷を負ったように盛り上がり、唇は曲がって膨れ、両目が細い切れ込みのようになっていたからである。


「┄┄これが懲罰ですって。笑っちゃう」

 頼子の美しかった顔の突然の変貌に、窪原は慰めの一言すら、出てこなかった。ただ目を伏せることしか、できなかった。

「それより──体の方が、なんとかなりそうって、どういうこと?」


 窪原は彼女に、昨晩から今までの経緯を詳細に話した。

「そう┄┄わたしのしたことは、これで全く意味がなくなったわけね。秀弘といっしょに死のうと思って、ここに来たんだけど」


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