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▶気ままな転生

 私は筋肉質で腕っぷしの強そうな男たち六、七人に囲まれながら黙々と薄暗い廊下を歩いた。しばらく歩くと一番偉そうな男の一人が「止まれ」と言ったのでおとなしく歩みを止めた。目的の部屋についたらしい。


 歩みを止めずに男たちに抵抗してみようかなと面白半分に思ってみたもの実行するのもばかばかしいのでやめた。私の体は細身で非力なのでやっても無駄なのである。


 腕っぷしの強そうな男の一人がその部屋の扉を開けた。よほど重いらしく男の腕には力がこもっていて少しばかり血管が浮き出ていた。扉があいたのでまた一番偉そうな男が「進め」というのでそれに従って進んで部屋の中へと入った。


 その部屋に入ってすぐで「止まれ」と声があったので歩みを止めた。男たちの中で一際筋肉質の男四人が私の横に立ち、ほかの男たちはその部屋の中央で静かに作業を始めた。その部屋は窓のないコンクリート壁に囲まれていて、男たちの足音をコツコツと反響させていた。照明器具は十畳以上の広さに対して蛍光灯が二本光っているだけであった。しかしそれで十分な明るさであった。部屋には椅子や机といった家具はなく光を遮るものは、ほぼ無かった。天井の中央からぶら下がる太く丈夫そうな綱とその下にあるちょっとした階段の先の絞首台を除けば。


 もうすぐ死刑の執行だというのに、私には加害者として被害者やその遺族に対する謝罪の気持ちや、こうなってしまったことへの後悔といったものは無かった。さらに言えば死に対する恐怖というものも、この世からの離別を悲しみといったものも私は持ち合わせていなかった。


 勘違いしてほしくないのは、死刑判決を受けて死にたいからわざと凶悪事件を引き起こしてここに来たことを幸福に思う、といった類の人ではないということだ。実際私は法に触れることはしていない。私は望んでこの場に来たわけではなくむしろこの場所に来ることを避けたいと思っていたし、今も避けたいと思っている。理由は痛いことからは避けたいという生物としては当たり前の心理である。


 絞首刑というのは執行されるとすぐに意識を失うから痛くないと言われているが、実際は首に綱を取り付けるときこの時点で軽く首を絞められるわけですでに十分痛い。そのためできれば綱を首に取り付けたくない、というのが本音である。


 ではなんでまたここにいるのかと疑問に思うだろう。自分でも何でこんなことにと思っている始末であるからそう思うのが一般的だろう。私がこうなってしまったのには随分と前の話になる。






 私が日本でサラリーマンをしていた時のことである。たしか私は三十代半ば頃だったと思う。結会社の仕事で取り返しのつかないことをしてしまった。発注が大口の会社との会議を忘れていて最終的にその会社からの発注を無くしてしまったのだ。言い訳がましいが、スケジュール帳にはしっかりと予定を入れたつもりだったのだが一週間後ろにずれて書いていたからで、取引自体を忘れていたわけではない。言うまでもないが会社内では批難轟々。その雰囲気に私は職場に出勤できなくなりそのまま会社を辞めた。


 会社を辞めてからは中途採用を目指して就職活動をしたもののなかなか採用されなかった。三十代半ばでまだ家庭を持っていなかったために貯金は十分にあったのだが、収入がなく日に日に減っていく通帳の数字を見て焦りがあった。


 人間は心に余裕が無くなってくると短絡的な行動をとってしまうものである。私は会社が雇ってくれないのなら私が会社を創ってしまえばいいのだという考えにたどり着いてしまい、特に知識のないまま消費者金融からお金を借り飲食店を始めた。


 これがまずかった。とりあえずテナントを借り、設備を買い、商品開発をして、店をオープンした時にすでに莫大な借金をしていた。ここまで私の心境は絶対に成功すると信じて疑っていなかったので借金はいずれ返せると思っていた。今思い返せば心が疲れ切っていたのだと思う。


 店を開いて半年もたたずして、店は立ち行かなくなった。私は身の回りにある負債の山で首が回らない状態となり破綻した。

 自分でももうどうすればいいのかわからなくなってある日の夜、家賃を延滞している小さなアパートの二階の一室の窓から外へ頭から飛び降りた。


 落ちているときはスローモーに感じられた。アパートの外壁のコケがよく見えた。私はどうして、生活をしたかっただけなのになぜこのようになってしまったのか。アルバイトをして何とか食いつないでいたらそれはそれでよかったのではないかと後悔が襲ってきた。


(ああ、私はお金に振り回されてしまった人生だった。ああ、お金を気にせず生活がしたい。)


 すぐに強い衝撃を感じた。




 気が付いたら私は暗闇の中にいた。周りを見渡しても光の一筋もなくまがまがしいほどに黒かった。物音もなくシーンとした音も聞こえなかった。ふと下を見てみるとやはり黒々とした空間が広がっていて自分の姿は見えなかった。事実、自部の体に触ろうとしても触る対象となる体も触るための手指もなかった。


先ほどのこともあって、ここは現世ではなくあの世だとなんとなく分かった。花畑を歩き三途の川を舟で渡してもらう、そのようなあの世を想像していた私はこんなものかと思っていると暗闇から声がした。その声は低いとも高いとも言えず重々しい口調で私に話しかけていた。


「あなたは、なんとも強欲な思いを持ちながら自殺したのですね。自分の心がけを省みず思いつめて自殺した。なんて軽率なのでしょう。しかし私はあなた様の願いをかなえなければならない。こういった立場上なのでね。あなたの望んだ『お金を気にせず生活すること』を実現させる異世界転生を行いましょう。この異世界転生はもし次の転生で死んだとしてもまた同じお金を気にすることのない生活ができるように自動で異世界転生を行うので心配することはないでしょう。では、転生して天寿を全うしてください。天寿を全うすればいいこともあるかもしれませんし。行ってらっしゃい。」




 こうして手に入れた異世界転生。転生先の異世界は魔法が日常的に使える獣人、魔人、人間が入り混じるのどかな世界であった。私は生まれた時から孤児院の子であった。私は異世界転生で生まれてきたのだからそれなりに力があるのかと思ったらそうでもなかった。それどころか魔法はマッチの火ぐらいしか出せないほど才能がなかった。だから捨てられたのだと思うのだが。漫画みたいに「弱いと思ったら……」というのも別になく、異世界転生前のそれなりの知識しか取り柄がない人間であった。それでも孤児院の先生は優しいし友達も出来てそれなりに楽しかった。


 転機は突然やってくる。転機と言っても事態が好転するばかりではない。そろそろ成人を迎える十四の私のところに治安警察が訪ねてきた。警察の言うことには私の会ったことのない生みの両親が牢獄行きになったらしい。だから何だというがこの世界では一家断罪制度で家族の一人が有罪となると家族全体が罪に問われるという。両親の子供だといっても、捨て子で会ったこともないのにここまで来るのは両親が捨てた場所を言ったからか。分からないが警察によって私は連行されてあれよあれよという間に死刑が判決されていた。そうして執行日まで牢獄暮らしになった。


 ここにきて私は気づいたのだ。あの世で聞いた「お金を気にせず生活」の意味を理解した。不可解なほどに逆トントン拍子の私の人生、確かに衣食住の最低限が保証された生活を続けていた。そして処刑されるまでも。今回はこんなエンドだが次回も「お金を気にしない生活」があの世で保障されている。次回は王室生まれで豪遊できるかもしれない。そんな気の持ち方で位牢獄生活は感情を持たずにボーっと過ごし異世界転生一回目の私の幕は閉ざされた。この時は絞首刑だった。


 二回目の人生、またもや同じ異世界の別の孤児院始まりであった。そして成人前に治安警察が来て身柄が確保されて牢獄に入れられた。斬首刑であった。

 三回目の人生、またもや同じ異世界の別の孤児院始まりであった。そして成人前に治安警察が来て身柄が確保されて牢獄に入れられた。この時の処刑法は魔物とコロッセオに入れられて瞬殺されるものだった。

 四回目の人生、またもや同じ異世界の別の孤児院始まりであった。そして成人前に治安警察が来て身柄が確保されて牢獄に入れられた。貼り付けの刑だったかな。

 五回目の人生、またもや同じ異世界の別の孤児院始まりであった。そして成人前に治安警察が来て身柄が確保されて牢獄に入れられた。電気椅子での処刑だった。


 六回目の人生、またもや同じ異世界の別の孤児院始まりであった。そして成人前に治安警察が来て身柄が確保されて牢獄に入れられた。そして今に至る。今からまた絞首刑だ。そして死んだら同じような七回目の人生がやってくる。確かにお金を気にせず生活できているが、何かを成し遂げることもなく繰り返しの人生で飽き飽きした。それに死に際はどれも苦しい。同に過去の負のループから抜け出そうとしたが、才能がなく努力もできない分際なので今までの人生合わせても会社員やっていた時が社会的に最高地位だったかもしれない。






 過去を回想していたらいつの間にか自分の首には縄が巻かれていた。この後数分後の一瞬が苦しいだけ。なんだかんだこの生活も板について気ままでいいのかもしれない。なんてったって気分は残機無限のRPG主人公みたいなものだから。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

ではまたどこかで。


※ネタ切れのため最終回!

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