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孤独の新月  作者: 瑠璃茉莉
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月下告白

カタンと音がして目が覚めた。

窓から差し込む月の影から見て朝日はまだまだ先らしい。

もう一眠りしようと布団を口元まで引き上げた時だった。


「紬ちゃんおきてる?」


私の身じろぎに反応したのか、愛ちゃんが小さく声をかけてきた。

こんな夜中起きてるなんて珍しいなぁ、と思ったけれど愛ちゃんも先程の物音で起きたのかもしれない。


「いま、目覚めちゃった」


私も小さく返す。

するとモゾモゾと寝返りを打って愛ちゃんがこちらを見たのがわかった。

暗いけれど僅かな月明かりのおかげでぼんやりとは認識できる。


「ね、こっちで一緒に寝ない?」


狭い部屋に3つのベッドを端っこに置いている。

もちろんベッドは広くない。

1つのベッドに2人は十分狭いのだが、愛ちゃんがそんなことを言うのも珍しく、私は素直に従った。


「狭いね」


「そうだね。でもなんか楽しい」


くすくすと2人で笑いあった。

この半年、随分と私は楽しい日々を送っていたと思う。

そして明日、ここを出発したら命懸けのゲームに参加することになる。

正直、未だに実感はない。


「ねぇ紬ちゃん。無理は、してない?」


「うーん。正直わかんない」


「そうだよね。あのね、少しでも怖いとか嫌だとか思ったらやめていいんだからね?」


嫌だとか怖いとか、それは思っているけれど、そんなことより3人がいなくなるほうが私は嫌だった。

最初は怖いな、て思った翼さんも。

いつでも優しい蕾といつでも明るい愛ちゃん。

そして色々教えてくれる明莉さん。

みんなとずっと一緒にいたい。


「今更なこと聞くんだけど、ね」


「うん?」


「どうして3人はそんなにそのゲームに参加したいの?」


「…」


愛ちゃんの顔があからさまに曇った。

時々する遠い顔だ。


「優勝したら、願い事が叶うの」


ポツリと愛ちゃんの口から言葉が漏れた。

景品と言うやつである。

それは前にも説明してもらったので知っている。


「私たちはそのお願いごとで、王様に聞きたいことがあるの」


「聞きたいこと?」


聞いていいのか分からなかったが私は疑問をぶつけた。

王様にわざわざ聞きたいことなんて、一体どんな大層なことなのだろう。

なんて呑気に聞いてしまった私はばかだった。


「私たちの、お父さんとお母さんが、殺されなきゃいけなかった理由」


サァッと血の気が引いた。

愛ちゃんは自分の手のひらを見つめて、遠い目をしている。

私は何も知らない。

3人も深い事情を話してくれない。

聞いて欲しくないことは誰にでもあるし、助けてくれたその事実は変わらないから聞かなくてもいい事だと私は敢えて3人の事情を今まで聞いてこなかった。

だからこそ軽率に聞いていいことではなかったのに。


「ごめん、ね。びっくりさせちゃったよね」


「う、ううん」


唐突に発せられた殺害という単語に驚かないわけがない。

愛ちゃんはいつもの顔に戻っていたけれど、ごめんねと笑うその顔が作り笑いなことに私は気づいてしまった。

それはもうこれ以上話す気は無い、という意思表示。

私は黙ることも出来ずに、無駄に質問を重ねてしまう。


「ど、どうして、王様に聞いたらそれがわかるの?」


王様だってなんでも知ってる訳じゃない。

ましてや平民たちのいざこざなんて、一々気にしてるはずがないのだ。


「……両親を、私たち家族を襲ってきた人たちが、国軍の紋章をつけていたから」


それは絶対的事実にほかない。

基本的にこの国は首都を国軍と呼ばれる王様直轄の軍が守っている。

他はそれぞれの領地の領主が掲げる模様があり、その領地の兵たちは領主の紋様をつけているのだ。

愛ちゃんたちが首都に住んでいたなどは聞いたことがなく、わざわざ国軍が地方の領地に来て一般市民を襲う意味がわからない。


「…ゲーム、絶対勝たなきゃね」


「え」


「私も家族、死んじゃったから理由が気になるのわかる」


「ぇ、で、でも!紬ちゃんや明莉ちゃんには関係ないことなんだよ?無理に私たちに付き合わなくていいんだよ?」


愛ちゃんの手をぎゅっと握り宣言すると愛ちゃんは困惑気味に返した。

確かに私利私欲で、私や明莉さんには関係のない話なのかもしれない。

けれど、この半年で嫌という程お世話になった。

3人がいなければ私は今もあの塔に閉じ込められたままなのだから感謝してもしきれない。


「大丈夫。確かに怖いけど、だけど私は3人と離れたくないもん。王様に理由聞いてスッキリしたらまたみんなで暮らそうよ!」


もう1人は嫌だ。

あんな冷たくて寂しいところは嫌なんだ。

私は回復能力だからみんなの役に立てるはず!

絶対に死なせたりなんかしない!

この話を聞いて私はそう心に誓った。


「紬ちゃん…あり、がとう」


ほんの少し愛ちゃんの目じりに涙が光っていた。

愛ちゃんだってこの足で不安なんだ。

それでも頑張ってここまで来ている。

そのあと私たちはお互いの手を握りあったまま眠りについた。


窓からうっすらと見える月が私たちに微笑んでいた。

さっそく毎日投稿に穴が空きました。

精進します

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